「はじまる城下町での商売」
その日の夜まで一日中、ベッドに横たわりメリンダの手を握り続けるアレックス。少しでも早く回復をと、願うばかりだった。
メリンダの澄んだ、息苦しくない寝息が聞こえたかと思い安心したのか、ベッドのそばでアレックスはメリンダの手を握りしめ座ったまま眠ってしまった。
光が差し、翌朝になっていたことに気づいたアレックス。椅子に座ってメリンダのことを看病したまま寝落ちしてしまったわが身を恥じると同時にベッドにいるはずのメリンダがいないことにすぐに気づき動揺した。
「メリンダ、どこだ?」。。立ち込めてくるいい香りの朝げと共に、メリンダの明るい声が聞こえてきた。
「おはよう!あなた。」と明るく部屋に入ってくるメリンダ。
「おい!寝ていなくて大丈夫なのか?」と心配するアレックス。
「おかげで、もう大丈夫。なんだか以前よりすごく体が軽くてより元気になったみたい!」と大声で笑って返すメリンダ。以前より元気そうに見えるメリンダに対し、あらためてタカオの言葉を信じてよかったと安堵した。
二人の様子を見にタカオが午前中にやってきた。店に入る前から二人の元気な笑い声が聞こえてきた。
「タック!よぉ、おかげでメリンダがすっかりよくなったぜ。お前が持ってきた薬やら魔法の布切れすごいききめだな!」
(タック!?)
アレックスやメリンダにとって、「タ・カ・オ」という名前はどうも最初から呼びづらかったらしく、感謝の気持ちも込めて「タック」という愛称で呼ぶことにしたらしい。
「タックさん、ありがとうございます。おかげですっかりよくなりました。何をもってお返ししたら良いか?」
「いいですよ。別に」と見返りを求めないタックだったが、
「そりゃ、まずいぜ。街の魔法治療院だと、ハイヒールで金貨が数枚必要なくらいかかっただろうに・・・」
この異世界の街では金、銀、銅のそれぞれの貨幣があるようで、銅貨1枚が日本円で約10円、銀貨1枚は銅貨100枚分、金貨1枚は銀貨100枚ということになり、つまり金貨1枚は日本円で約10万円相当の価値があるようだ。
(風邪の治療だけで数十万円!? 高い!)と思ったタック(タカオ)。
「でも、うちにはそれぐらい払えるだけの金はもっていないし、何か代わりのお礼をしないと!」とメリンダが言った。
「では、俺が食材の一部を仕入れるから、それでこのお店で料理を作り、売ってくれないか?利益はそれに応じて分配するから。」
タック自身が現代日本から持ち込む調味料や一部の食材と、メリンダとアレックスがこの異世界で仕入れる大半の食材で料理を作り、客に提供するとの提案だった。
はじめてきたばかりのこの異世界で、なんのコネもないタックにとってはここで商売する良い機会だと思えた。
メリンダは良い機会だと前向きに思えたが、アレックスはまだ少し懸念が残っているようにみえた。




