「タックの悩み」
王宮からメリンダのお店に戻ったあと、アレックスとメリンダに前回以上に多くの褒美をもらえたことを喜びあったことと、二人にも隠し持ってきていた瑠璃のコップについて驚かされた。それについては適当にごまかすのが大変だったタック。
「タックよぉ。。今回の謁見の後、王様も大変お喜びになられてお墨付きを与えてくれたから、きっと今後ますます注文が増えてくるだろうぜ。」と忠告するアレックス。
注文が増えれば売上が上がりもうかるだろうが、今の従業員たちは更に忙しくなる。それよりも更にタックの頭を最近悩ませていることがいくつかあった。
一つ目は、「ポストによるデリバリーシステム」だった。
デリバリー販売の仕組みが城下の住民たちに広く認知され、利用者もとても増えてきたのはよいが、「注文して届くのが遅い、もっと早くできないか。」とか、「文字の読み書きができないので注文ができない、どうにかして。」といった要望も最近増えてきていた。
朝にポストで回収した注文書に従い、早くてもその日の午後に配達する現在のデリバリーの仕組みでは、その日の午後以降の夕方や夜に食べたくなっても届けられるのは翌日以降になるのでは確かに遅いと薄々感じてはいた。そのことをアレックスとメリンダに打ち明けるタック。
「たしかにな、夜とかも各ポストに行き注文書を回収してまわるか?」と提案するアレックスに対し、
「夜も回収となると他のライバル店たちとも協議して足並みを揃えなければならなくなるだろうし。その分、夜に野盗などと出くわす危険性も従業員たちに出てくるだろうし。」といろいろな懸念材料を上げ、
「私たちにも王宮でみた、❝魔法球❞のような法器があってわざわざ遠くまで回収しに行くことがなく、注文を受け付けることができたらねぇ・・・」とため息交じりに語るメリンダ。
(う〜む。魔法球は王族しか扱えないし、携帯電話やインターネットはもちろん、固定電話や電線すらないこの異世界で❝通信❞して注文できる方法は他にないか)と考え込むタック。
(❝声❞だけでもやり取りできれば・・・)としばらく考えこんだあと、
「そうだ!! これだ!」と名案が閃いた様子のタック。
その様子に驚くそばにいたアレックスとメリンダ。
「ちょっと明日、実家に戻ってその解決策を持ってくる。」と意気揚々のタック。
翌日、異世界への扉をくぐり現代日本の定食屋に戻り、早速近所のリサイクルショップへ。
「長距離対応の❝トランシーバー❞ってない?」と聞くと、店員が中古で少し汚れているが、普通に使える大きめなトランシーバーを持ってきてタックに見せた。
「電波中継機とかもある?」と同様に聞くとめんどくさそうに奥から持ってくる店員。
電源を入れて試してみる。「ザァーザァー」と、ノイズ音は多少はするが音声がはっきり聞こえてきた。電気屋やネットショッピングサイトで最新のUSB充電式のトランシーバーが本当は欲しかったが、タックの現代日本での日本円の預金口座の残高も異世界にない調味料や食材の購入により、日に日に減っているのがタック自身の二つ目の❝悩み❞だった。
とりあえず、電池式のトランシーバーを5セット10台と城の中央広場のコーバンに設置予定の中継機1台の計11台をクレジットカードで購入し、我が家である定食屋に急いで帰った。
「そろそろ現代日本でも日本円を稼ぐ手段を講じないと・・・」と、スマホで自分の口座の残高を確認し嘆くタックだった。
定食屋につくや店を閉めているのを再度確認し、ボイラー室奥の異世界への扉を再度くぐり、アレックスとメリンダが待つ異世界の料理屋へと向かうタック。
メリンダの店の奥の物置き小屋から急に現れたタックに驚くメリンダ。アレックスはまたパーティーメンバーたちとクエストに出かけているようだった。
「アレックスはいつ戻るの?」と尋ねるタックに対し、
「明日には戻るんじゃないの。」と答えるメリンダ。トランシーバーの件は後日、アレックスが店に戻ってからあらためて話すことにした。
「それにしても小型の魔法球がよく光って王宮からの注文が頻繁に入るね。」と関心するタック。謁見の儀の”お土産” として渡された魔法球の子玉がよく輝き、王様はじめ王族の方々からの注文が早くも入るようになっていた。オークかつサンド、カツカレーライスはもちろん、それまであまり注目されていなかった従来のメリンダのオリジナルの料理も再評価されついでに注文されるようになっていた。




