一目惚れ
第二話
言えなかった「好き」
正直に言うと。
あの日、俺は一目惚れした。
紫陽花の坂道で。
突然の雨に困っていた彼女に。
もともと顔は知っていた。
同じ学年だから。
でも話したことはなかった。
それなのに。
振り返った瞬間。
なぜか目が離せなくなった。
だから傘を貸した。
風邪をひくと心配だった。
……なんていうのは半分本当で。
本当は話しかける理由が欲しかっただけだ。
翌日から、彼女を見つけるたびに目で追うようになった。
廊下で。
図書室で。
運動場で。
目が合う。
すると彼女は慌てて目を逸らす。
俺も逸らす。
今思えば笑える。
話しかければよかっただけなのに。
でも好きだったから。
嫌われるのが怖かった。
時間だけが過ぎていった。
そして高校三年生の夏。
父の仕事の関係で、海外の大学へ進学することが決まった。
留学。
夢だったはずなのに。
真っ先に浮かんだのは彼女の顔だった。
卒業式の日。
彼女が声をかけてくれた。
「留学、頑張ってね」
たったそれだけ。
でも本当は、
その言葉の続きを聞きたかった。
そして自分も言いたかった。
好きだった。
ずっと。
あの日から。
でも結局言えなかった。
勇気がなかった。
だから笑って言った。
「ありがとう」
彼女はそのまま人混みの中へ消えていった。
追いかけることもできなかった。
それから何年も経った。
海外で生活して。
大学を卒業して。
仕事を始めて。
色んな人と出会った。
それでも六月になるたび思い出す。
紫陽花の咲く坂道。
雨の匂い。
そして。
名前を呼ぶことさえできなかった初恋を。




