表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
味方のために薬を飲みすぎた俺、太る  作者: 勿夏七


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/46

43悪役の過去①

 シャラタンは由緒正しき魔術師の家系の出身だった。

 魔力持ちはもちろん、魔力を持たぬ市井の者ですらその名を知る、魔法界の重鎮とも言える家系だった。

 

 次男として生まれたシャラタンだったが、その魔導の才は長男をも凌駕しており、周囲からは「次期当主は彼で決まりだ」と囁かれるほどだった。


 だが、当の本人は地位にも血筋にも興味がなかった。彼にとって魔術とは、探求すべき真理であり、権力を得るための道具ではなかったのだ。

 

 そんな彼に、ある日縁談が持ちかけられた。

 相手は魔力アイテム製造大手の社長令嬢。美しく、聡明で、魔術的な素養も申し分ない。家族はシャラタンの意思など確認もせず、その婚姻を承諾した。

 シャラタンもまた、彼女の実家が持つ膨大な研究資料に惹かれ、異を唱えることなく結婚を受け入れた。


 新生活は平穏だった。一軒家を構え、やがて二人の間には娘が生まれた。

 しかし、その誕生こそが、シャラタンの人生を狂わせる悲劇の幕開けとなった。


「……私たちの娘に、魔力がない?」

 

 産声を聞いた妻の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。彼女は縋るように胸元のペンダントを握りしめ、震える声で我が子を見つめた。

 シャラタンも妻も魔力持ち。その二人の間に、魔力を一切持たない子が生まれるなど、魔法界の常識ではあり得ないことだった。


「魔力持ちの親から、魔力なしの子が生まれることもあるのだな」


 シャラタンは動じなかった。失望も悲しみもなく、ただ未知の事象を観察する学者のような瞳で、魔力を持たぬ赤子を静かに抱き上げた。

 そんな夫を見て、妻は強張った顔の力を緩めた。だが、ぎこちない笑みのまま娘に視線を向けた。


「文献には……前例がありません。ある意味では、非常に貴重な『症例』かもしれませんね」


 彼女の言葉は、母としての愛よりも、研究者としての防衛本能に近いものだった。


 このまま平穏に過ごせると妻は考えていたが、シャラタン側の家が黙っているわけもなく、シャラタンからの報せを聞き、両親がやってきた。

 二人とも、底知れない失望の色の瞳をシャラタン夫婦へと向ける。


「前例がない。もしや彼女に別の男がいた、はたまた魔力なしか魔力増強をしているのではないか?」

「そうかもしれませんね。ですが父上が勝手に決めた相手なのですから、私に怒りをぶつけるのはお門違いというものではありませんか?」


 シャラタンは一人実験に没頭して生きようと考えていた。しかし、紹介された相手を無碍にするほど冷淡なわけでもなかった。

 また、妻の魔力アイテムに興味があったのも事実だ。

 

 父親は眉間の皺を濃くした。

 今更シャラタンの妻の魔力を調べても、意味はない。結婚してから魔力なしと発覚したなんてことがバレたら、家の名に傷がつくかもしれない。

 

「それは、■■が魔術学校で相手を見つけないからだろう!?」

「結婚するつもりはないと言ったはずです。兄さんがいるのだから、私に期待する必要はないでしょう?」

「なぜ優秀な者ほど地位に興味がないのだ……。お前は当分うちの名を語るな。表に出るな。いいな?」


 呆れた表情を浮かべた父親は、頭を抱えた。

 その姿を見ても、シャラタンは気にする様子もなく大きく頷いた。

 

「元々そのつもりです。彼女から魔力アイテムの研究資料を受け取りました。当分はアイテムの研究で彼女の活動を支援するつもりです」

「小賢しい道具の研究か? 売れていると言うから、さぞ素晴らしいものかと思っていたが……魔力の少ないものを救済すると謳っている魔力補助。魔力なしも魔力を持てるとか言うアイテム——魔力持ちを馬鹿にしているとしか思えないものばかりじゃないか」


 魔力持ちは、自身の魔力量で序列を決めている。また、魔力量は神に期待された証であると代々言い伝えられている。だからこそ、シャラタンの家系は無粋だと忌み嫌っているのだ。


「魔力なしの人間の機械をいたく気に入っているくせに、よく言いますよ」

「……魔力持ちを利用しているのだから、こちらも利用しない手はないだろう」


 口角を歪ませた父親は、母親を連れそそくさと逃げて行った。

 妻は扉が閉まったあと、胸を撫で下ろした。

 その様子を見てシャラタンは頭を下げる。


「私の両親が申し訳ない。大丈夫かい?」

「……はい、問題ありません。■■様が謝る必要はございません。私のことよりも、■■様は大丈夫ですか? 隠れて過ごさなければならないようですが……」

「問題ないよ。私は元々あまり表舞台を好まない。だから君が気に病む必要はない」


 シャラタンは、妻の腕の中で眠る小さい命を、不思議なものを見るようにじっと見つめていたのだった。


 ◇


「おとーさん。一緒に寝たい」

「すまないが、今は実験の途中なんだ。お母さんと寝なさい」

「……今日は、おとーさんがいいの」


 普段は聞き分けの良い娘が、その日は赤く腫らした目で、断りもなくシャラタンのベッドへと寝転がった。

 シャラタンは一瞬だけ困った表情を浮かべたが、娘にシーツを掛けて頭を撫でる。


「先に寝ていなさい。もう少ししたらお父さんも寝るから」

「うん。待ってる」


 へにゃりと笑みを浮かべた娘は、父であるシャラタンの背中をじっと見つめ安心したように目を閉じ、規則正しい寝息を立て始めた。


「最近は、魔力を引き出せていないだけかもしれないと必死に特訓をしていると聞いているし……衝突があったのかもしれない」


 だが娘はまだ幼い。妻の小難しい話についていけず、衝突することくらいあるだろう。

 シャラタンはさほど気にせず、妻と娘の軋轢に気づくことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ