41対峙
「まだ抵抗するの?」
冷ややかな声色で、一人の少年がリズを見つめた。
肩で息をするリズは、背後にいるミリアとヴァレリア、そして苦しんでいる街の人々を守るように手を広げて力無く笑う。
「当たり前でしょう? 貴方たちを止められないAランクなんて、恥もいいところです」
リズは震える手で武器を握り締め、次の攻撃を受け止めるために構える。
子供たちの攻撃によって傷だらけになった彼女だったが、その剣が子供たちを傷つけるために振るわれることは、ただの一度もなかった。
ただ、ひたすら防御に徹していた。
その様子を見ていた少女は、首を傾げた。
「どうしてその人たちを守る必要があるの? 魔力なしは皆、自分勝手な生き物なのに」
「そんなことありませんよ。もっと人と関わってみてください。……ほら、あそこのご老人を見てください。自分も苦しいのに、近くの少女を励ましている」
リズの視線の先には、泣き崩れる少女を抱きしめ、必死に励ます老人の姿があった。老人は自らのわずかな回復薬を、少女の口元へ運ぼうと震える手を伸ばしている。
「あっちは自分が辛い状況にありながら、魔力持ちを想い、治療を拒んでいる」
魔力なしで苦しんでいる青年。そこに駆け寄った魔力持ちの女性。だが、青年は「魔力は温存してください」と言っている姿があった。
「魔力持ち、魔力なしは関係ないんです。皆、必死に考えて、自分の意思で動いている。……ただ、貴方たちの周りに、そういう大人がいなかっただけ」
リズの静かな、だが芯の通った言葉に、少年は俯き拳を握りしめる。
「……最初は皆、そう言うんだ。優しそうな笑みで近づいて、最後には僕らを傷つける」
「私たちを見捨てないのは、シャラタン様だけなんだからっ!」
少女は悲鳴のような声を上げ、魔力を込めた弾丸をリズ目掛けて放った。
リズはすかさず魔法の盾を展開して凌ぐが、子供たちの虚ろな瞳を見て、胸を締め付けられるような痛みを覚えた。
(この子たち、まるで心を縛られているみたい……)
リズが防戦一方で対峙している背後で、ヴァレリアが大きく咳き込んだ。
「ごほごほっ! あー、くそ……。あたしもクラリスから魔力補助貰っとくんだった。ミリア、あたしのことはもういい。リズと一緒にあの子らをどうにか無力化してくれ」
「はあ? 勘違いしないで。あんたを回復して子供たちと戦ってもらうためなんだから。前衛はこの中であんただけだし」
先ほどまで心配そうにヴァレリアを見つめていたミリア。だが、ヴァレリアに場違いな笑顔を向けられ、ミリアは居心地悪そうに口元を歪めた。
そんな彼女の表情を見たヴァレリアは豪快に笑う。
「……あははっ! ミリアは相変わらずだな。じゃあ……そうだな。少しはよくなったし、あたしが隙を作るよ。ミリアとリズで拘束魔法みたいなもん唱えといてくれ」
「ちゃんと一人で立てるわけ?」
「ああ、立てる立てる。回復薬も飲むし、少しは動けるはずだ」
少しふらつきながらも、ヴァレリアはリズの隣まで歩いた。彼女の肩を軽く叩き、笑顔を見せる。
「待たせて悪かったな。リズが魔力が原因だとすぐに気づいてくれたから助かった。今度はあたしたちが助ける番だ」
「……頼みますよ、ヴァレリアさん。そして、ミリアさん」
ミリアは自身の名前も呼ばれ、肩をすくめた。
「私は攻撃魔法なんて持ってないんだけど〜?」
「ほら、あれだ。ぶっつけ本番だ。賢いあんたなら、できるだろ?」
ヴァレリアはこれまで力だけで解決してきていた。しかし、ミリアがどれだけ自身が楽して金を稼いだり、魔法の知識を蓄えてきたのかを知っている。
「……じゃあリズ、子供たちの足元の魔力を一点に集めて爆破して。地面を陥没させて動きを止める。ヴァレリア、その隙に——」
会話を切り裂くように、激しい火玉がミリアとヴァレリアの間を掠めた。
「子供だからって舐めるな!」
少年は周囲の子供たちと手を繋ぎ、膨大な魔力を共有し始める。その中心で練り上げられた魔力の塊は、三人を一気に飲み込めるほどの大きさにまで膨れ上がっていく。
「魔力共有!? なんて厄介な……!」
「……指の数本くらいは、落としても文句言われないわよね?」
「駄目です! あれを投げられる前に、なんとかして無力化を――」
リズが叫んだ瞬間、死を予感させる魔力の奔流が放たれた。
ヴァレリアが慌てて防御姿勢を取るが、あまりの速度にシールドの展開が間に合わない。
「ちょっ、待て! もう来てる! 間に合わねぇよ!!」
直撃を覚悟し、ヴァレリアが反射的に目を閉じたその時――。
彼女の視界を遮るように、黒い影が音もなく舞い降りた。




