37違和感
「カイルの様子がおかしい」
ミリアはアレンの家で紅茶を飲みながらそう言った。
アレンは眉間に皺を寄せながら首を傾げた。
「ミリアに振られたからじゃないのか?」
「意気消沈してたのは確かだけど、ここ数日からさらにおかしくなったの。前線で戦い始めただけじゃなくて、上級魔法を連発してる」
人が変わったかのように、カイルは魔物討伐の依頼ばかりを受領。そして「すべて俺が倒してやるよ」と意気揚々と短い詠唱で強力な魔法を連発。Aランクの人間でも苦戦しそうな魔物さえ一瞬で倒れていく。
クラリスはあまり驚いていなかったが、ミリアとヴァレリアは口を開けて、魔物が倒れていく姿をただ見つめていたのだ。
その話を聞いたアレンは、目を見開いた。
「……え? あのカイルが? ミリアに振られて躍起になっているのか?」
「そもそも、魔法なんてあいつ、一つも習得していなかったはずなの」
「隠していただけとかは? 楽したいからとか、あり得そうだけど」
「あんな強い力を持ってたら自慢しないわけないでしょ。あのカイルよ?」
「確かに……カイルだからなぁ」
カイルと組んだことのある二人は、遠い目をしてため息を吐いた。
少しでも自分が優位に立つと、誰彼構わず威張り散らしていた。それは、彼女であるミリアに対しても同様だった。
「最近、シャラタンのところで働いてるみたいだし、あの人の力だろうな」
「それはあるかも。カイルに何かさせようとしていたり?」
「聞いてみたいけど、カイルは俺とは話したがらないだろうし……ミリアもあいつとは話したくはないだろ?」
「そうね。できれば話したくはない」
二人は、他の方法を探すしかないか、と険しい表情を浮かべたのだった。
◇
アレンとミリアが頭を抱えている頃。
ニルスや信仰者たちは、工房に籠もって卵型の魔力補助アイテムを量産していた。
魔力の供給源は様々だ。善良な者の力もあれば、そうでないものも混ざっている。質よりも量を重視する現状、力の発揮具合にはどうしてもムラがある。
だが、彼らは理想のために、ひたむきに作業を続けていた。
「今の課題って、どうやって"邪魔者"を排除するかだよな」
ニルスの呟きに、周囲の信仰者たちが一斉に頷く。彼らにとっての邪魔者――それは皆共通して『魔力なし』という存在だった。
「シャラタン様の心さえも裏切ったあの者は、やはり悪だ。皆も聞いただろう? あの痛ましい悲劇を!」
少し前、選ばれし者だけが招かれた密室での集会。そこでシャラタンは、誰にも言えない秘密を打ち明けたのだ。
「……なぜ私がこれほどまでに魔力のない者を許せないのか、あなたたちだけには話しておきたい。これは本当は忘れてしまいたい、私の過去です」
そう言って、シャラタンは自分自身に起きた悲劇を語った。
彼は、代々魔力の強い家系だった。
純血を守るため、シャラタンは魔力量が多いと言われていた女性とお見合い結婚をした。はずが、その彼女は魔力補助アイテムで魔力を偽っていたのだ。
それは、彼女との子が魔力なしであったことから発覚したのだ。
そこからシャラタンの人生は一変し、少し前まで彼の名を聞くこともなかった。
シャラタンの過去を聞いたニルスたちは、皆「やはり魔力なしは悪だ」強く確信した。
ニルスはアイテム作りの手を止めずに言う。
「……シャラタン様は、裏切った女を『責めないでくれ』と庇ったんだ。皆が魔力さえ持てば、こんな悲劇はなくなるはずだと仰って……」
「なんて慈悲深い方なんだ。その女も、最後は自らの過ちを悟って自死を選んだんだろう。せめてもの救いだ」
信仰者の一人がそう呟くと、作業の手を止めた女性がふと首を傾げた。
「ところで……その、シャラタン様のお子様はどうなったのでしょう? 確か、お話では魔力を持たずに生まれたというだけで……」
「……しっ、それは触れてはいけない話題だ。シャラタン様の心の傷に塩を塗るような真似はよせ」
信仰者たちはシャラタンの過去に心を痛めながら、ひたすら作業に没頭したのだった。




