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味方のために薬を飲みすぎた俺、太る  作者: 勿夏七


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36/46

36憎悪

 カイルは、ギルドでミリアが残しておいてくれた報酬金を手に、俯いていた。

 

 パーティーの解体はされておらず、今もミリアと同じのパーティーで仕事をしている。

 パーティーの解体には相応の理由や全員の同意が必要だ。カイルがそれを許すはずもなく、ギスギスした状態のままだが、パーティーは継続している。

 

 しかし、ミリアは仕事が終わればさっさと帰り、カイルの報酬金だけを残して姿を消す。

 以前の甘いひと時は、カイルにはもう残されていない。

 声をかけようにも「あのヒーラー様といれば?」と言い捨てられてしまい、取りつく島もない。

 

「なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……」


 これからシャラタンの元で、こき使われに行かなければならない。

 だが、カイルはミリアに振られたショックで、最近は仕事の時間ギリギリまでギルドの休憩スペースのソファから動けずにいた。


 アレンの顔が脳裏に浮かび、カイルはさらに顔を歪めた。あの飄々とした顔を見るたびに、胸の奥底から湧き上がる不快感。

 それは、アレン自身に向けられたものだけではなかった。


「あいつが何もかも俺の上を行くから気に食わない」


 カイルの頭に、もう一人の男の顔が過る。

 血の繋がった、しかし憎悪の対象でしかない存在。


 「いつか絶対、弟よりもいい人生を歩むんだ」


 そう誓ったのは、いつの頃だったか。

 似た顔立ちでありながら、常に自分より評価され、期待される弟。

 そんな弟が、初めて挫折したポーラーの学校。親に困った表情を浮かべられていた弟を見て、カイルは心底喜んだ。「ざまあみろ」と。


 ようやく自分の人生が満たされたような気がした、あの瞬間。

 だが、その満たされた感情は、そう長くは続かなかった。

 

 弟はすぐに立ち直り、新しい道へと歩み出してしまった。

 功績を挙げて、ポーラーの道を諦めたことは、なかったことのように、弟の称賛の日々へと戻ってしまった。

 

 カイルにスポットライトが当たることはなく、いくら努力しても弟を越えられなかった。

 その弟と決別したくて、カイルは金を貯めて整形までした。危険な橋を渡ってまで手に入れた、弟とは違った美形。


 カイルは、その造り上げられた美形で女を引っ掛け、偽装してギルドへと加入した。

 そして、そこでまだぽっちゃり程度だったアレンと出会った。

 

 アレンと出会った時、カイルは直感した。


 「そういえばこの男、あいつがよく話してたやつだ」と。

 弟が親友のように語っていたアレン。

 その顔を見るたびに、弟の飄々とした顔が歪む姿が見たくて仕方がなかった。


「仲間に引き入れて、こいつをいじめよう。断れないタイプみたいだし、全部任せてひどくしてやろう」


 そう企んだ。アレンはカイルの思惑通り、文句一つ言わずに仕事をこなし、パーティーの雑用を一手に引き受けた。

 カイルはアレンに仕事を押し付け、ミリアをパーティーに入れてわざといちゃついた。アレンが嫉妬に狂う姿を期待して。


 しかし、アレンは負けず、常に冷静だった。その態度が、カイルのイライラを募らせるばかりだった。

 そして、折れないアレンが嫌になり、最終的にパーティーから追放した。


 ――ピピピピピッ!


 チョーカー型の発信機が無機質なアラートを鳴らす。

 カイルはハッとし重い腰を上げ、慌てて指示された仕事場へと向かった。


 

 仕事を終え、やはりアレンと弟への苛立ちが収まらない。

 カイルは延々と呪詛のように悪態をついていると、背後から穏やかな声が聞こえた。


「そんなに嫌な相手なら、一度ぶつかってみては?」


 振り返ると、そこにシャラタンが立っていた。カイルは衝動的に叫んだ。


「あいつらを殺せるような強い力をよこせよ! あんたなら用意できるだろ!?」


 シャラタンは、カイルの激情を静かに受け止めていた。そして、ゆっくりと口を開く。

 

「殺してしまうのは、あまりに惜しい」

「それは、あんたの都合だろ!?」


 カイルは反論するが、シャラタンは動じることなく言葉を続ける。

 

「殺しは一瞬の快楽に過ぎません。あなたは、もっと深く、もっと長く、彼が苦しむ姿を見たいのではないですか? 一瞬で終わらせてしまっては、きっと後で物足りなさを感じるでしょう」


 カイルは、シャラタンの言葉にハッと息を呑んだ。

 心の奥底に燻っていた、自分でも認めたくなかった醜い感情を、正確に言い当てられたような気がしたのだ。

 確かに、アレンや弟が死んでしまえば、それで終わりだ。もっと、もっと、あの憎たらしい顔が歪むのを見たい。


 シャラタンは、そんなカイルの内心を見透かすように、不気味な笑みを浮かべた。そして、懐から取り出した一つのアイテムを、カイルへと差し出す。

 

「これは、あなたの秘めたる力を最大限に引き出すものです。しかし、その力は強大ゆえに、扱いを誤ればあなた自身をも飲み込むでしょう。まるで、魔物のようにね」


 手のひらに乗せられたアイテムは、鈍い光を放っていた。

 カイルは、その危険な輝きに魅入られるように手を伸ばす。


 アレンを叩きのめし、弟への劣等感を晴らす。その目的のためならば、どんな危険も厭わない。


 彼は、その力を手に入れることで、全てを解決できると信じて疑わなかった。

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