35善か悪か
アレンは、魔力を付与したアイテムを心地良さそうに握る二人を見つめた。
相性が良かったようで、やつれていたのが嘘のように表情は穏やかだ。
そんな二人を、他の子供たちが少し羨ましそうに眺めている。
シャラタンは穏やかな声色で釘を刺すように言う。
「相性がありますので、自分のアイテム以外、無闇に触らないようにしてくださいね」
「……うん。体調は崩したくない」
素直な子たちは小さく頷き、自身に与えられたアイテムを握りしめた。
「ところで、シャラタンさん。そのアイテムはどうやって仕入れているのですか?」
「アイテムは私の手作りです。他の教え子たちも作成を手伝ってくれています」
「手作りなんですね。だから見たことなかったんだ。……では、魔力の付与は?」
「申し訳ございません。そちらは匿名を希望されている方ですので、アレン様にもお教えできません」
取りつく島もない様子に、アレンはトーンを落として続けた。
「……受講者たちが『アレンが付与した』と盛り上がっていたそうですね。なぜ否定しなかったのですか」
「すでにご存知でしたか。否定してしまえば、世間の関心がそこへ向いてしまいます。今のまま『誰が付与したか不明』という状況が、私にとっても、アレン様にとっても都合が良いのです」
「俺に聞いてくる人がいればすぐにバレるでしょうに……」
「それでも、これからも私からは否定も肯定もしないつもりですよ」
シャラタンは穏やかな笑みを浮かべたまま、一切の譲歩を見せなかったのだった――。
シャラタンと別れ、街中に戻ってきたアレン。
(シャラタンは、本当にいいやつなんじゃないか?)
彼は少々棘のある言い方をすることもあるが、その根底には人助けがある。
本当にシャラタンに関わった罪人が、運悪く魔力を失っただけなのかもしれない――
そうアレンは考えるが、やはりまだ疑惑は払拭しきれない。
「アイテムの魔力供給源がわからない限りはなぁ……」
そこでアレンはふと子供たちの親を思い出す。
投獄されており今は牢の中。優秀な魔導士だというのだから、協力させている可能性があるかもしれない。
その場合、警察がグルでなければ成り立たないが、シャラタンほどの実力者であれば、それも可能だろう。
「確認してみるか? でも、面会は難しいだろうな。シャラタンの名前を出すか?」
だが、シャラタンにバレた場合の言い訳をどうするか。アレンはすぐに良い案を思いつかず、一度持ち帰りライルたちに相談しようと、それ以上一人で考えることをやめる。
◇
数日後。街を揺るがす噂が駆け巡った。投獄されていた例の魔道士たちが、獄中で一斉に自害したというのだ。死因は、自死なのだとか。
街中で騒ぎになっており、確証のない噂話が飛び交う。
アレンは、特に予定もなく街中を歩き、些細な噂話もメモする。
カフェのテラス席では年配の女性二人が神妙な面持ちで語っていた。
「魔道士が」という言葉が聞こえてきて、アレンはコーヒーを頼み、近くの席に座る。
「どうやら『魔力がないなんて耐えられない』と言って自殺をしたらしいわ」
「あの方が? 必要がない時でも使うほど魔法を使っていたのに?」
「それがあの方以外にも、一斉に亡くなられてるらしいわ」
噂話をしている女性は、魔道士の名前を複数人あげていく。
その中には、ヒーラーとして大活躍していた者から、名門校の先生をやっていた者までいる。
「牢に入れられたのだって、子供に禁忌である魔力注入を強要したからって聞いたわよ」
「そんな人たちだったの!? もしかして、親が禁忌を犯していたのでは?」
「自分が魔力注入に成功したから、子にも……あるかもしれないわね」
そこで会話を止め、女性たちは他の話題へと移る。
(これじゃあ、親の方からは何も聞き出せないな……。その魔道士が雇っていた世話係を当たってみるしかないか?)
アレンがコーヒーを飲み干そうとしたところで、人影がアレンに差す。
「こんにちは、アレン様」
「あ、ああ……クラリスさん、こんにちは」
クラリスは紅茶の入ったカップを持ち、アレンに微笑みかける。
「シャラタン様から聞きました。子供たちのために魔力を分けてくださったそうですね」
「どうしても見捨てられなくて」
「アレン様には、感謝の言葉もありません」
その瞳は、シャラタンと似た羨望が宿っている。
「わたくし、あの子供たちのように魔力がなかった側だったのですよ」
「えっ? そうなんですか?」
「はい。シャラタン様に救っていただき、今は非公式ではありますが、ヒーラーとしてお仕事をさせていただいているのです」
「では、クラリス様もあの卵型の補助アイテムを?」
「そうですね……形は違いますが、似たようなものを肌身離さず持っています」
クラリスは笑みを絶やさないでいる。
「一部で構いません。シャラタン様の理想のため、今後も力を貸していただけると嬉しいです」
「その理想が、俺の志すものと同じであれば力を貸しますよ」
「……ありがとうございます。ですが、あまり土足で深く入り込まないでください。優しいあなたはきっと心を痛めてしまうから」
意味深な言葉を残し、クラリスは去っていった。
その背中を見送りながら、アレンは冷たい汗が背を伝うのを感じていた。




