28増える謎
帰宅したアレンは、シャラタンから渡された紙袋を開けた。
中には茶菓子と連絡先、そして一つの追跡玉。
添えられた手紙には、お手本のように歪みのない、癖のない文字が並んでいた。
『アレン様のために、特注の追跡玉をご用意しました。アレン様がこれに魔力を注ぎ込み、私がそれを承認すれば、いつでも私の元へ来られるようになります』
「……まだ協力するなんて言ってないけど。それだけ買いかぶられてるってことか」
シャラタンからの贈り物を片付け、アレンは端末のメッセージを確認する。そこにはライルから『帰宅したら連絡をくれ』と、一言だけ返信が入っていた。
アレンが帰宅の報告と、例の男の正体がシャラタンであったことを伝えると、即座に通話申請が届いた。
「アレン、シャラタンに会ったんだな。……協力するつもりか?」
画面越しのライルは、心なしか慌てているように見えた。
「いや、まだ決めてない。魅力的な提案だとは思うけど、どうも気乗りしなくて」
「……よかった。シャラタンについて調べてみたんだが、情報が極端に少ない。意図的に不都合な情報を消している節がある」
ライルが掴んだ情報によれば、シャラタンはかつてヒーラー試験を首席で突破し、教会から直々に勧誘されるほどの手練れだったという。だが彼はそれを断って姿を消し、いつの間にか非公式の講座を開き、着々と勢力を広げていた。
「ここからが本番なんだが……犯罪歴があったり、素行に問題があると判断された受講生は、全員が受講拒否か、早々に退学処分にされているらしい」
「あまり質の悪い奴をヒーラーにしたくなかった、とか?」
「そんな単純な話じゃないんだ。……弾き出された連中は、もれなく魔力を失っている」
「……は? 魔力なんて、使い切っても一日経てば回復するだろ」
「普通はな。だが、そいつらは口を揃えて『魔法が使えなくなった』と言っている。実際、魔力量を測定しても、一切検知されなくなっているらしい」
偶然にしては出来過ぎている。だが、被害者が「素行の悪い連中」であったことや、魔力を失った恥から口を閉ざす者が多かったこともあり、これまで公にはなっていなかった。
「アレンなら素行の面は大丈夫だろうが……お前の特別な魔力を利用される可能性は大いにあるぞ」
「ああ、わかってる。……なあ、シャラタンがヒーラーを集めてるって情報はないか?」
アレンは、講習中に連れ去られたニルスの件を話した。ライルは眉間に皺を寄せ、顎に手を添えて考え込む。
「その話は初耳だ。ただ、非公式ヒーラーたちが時折、密かに集会を開いているという噂なら聞いたことがあるな」
「そっか。ありがとう」
(シャラタンの名前を騙って、カイルが裏で動いてるのか……?)
アレンはまだ二人の本当の力関係を知らない。カイルがシャラタンを担ぎ上げているのではないかと推測していたが、事実はその逆だ。
「おう、気になることがあったらいつでも言えよ。……そうだ、リズが『アレンの薬がすぐなくなる』って喜んでたぞ。ただ、高額転売や偽物も出回ってるらしい」
「……次から次へと面倒なことが起きるなぁ」
「ははっ、それだけアレンの作った回復薬がすごいってことだ。心配すんな。ギルドが対策してくれてる。……気負うなよ?」
ライルとの通話を終えたアレンは、一人ノートを広げた。
二つの講座。
一つは、大々的に行われている安価な非公式ヒーラー講座。
もう一つは、秘密裏に行われている、適性テスト付きの自己回復講座。
そして、シャラタンを崇拝するようなクラリスの熱い視線。
(シャラタンとクラリスは、世界から痛みを取り除きたいと言った。でも、できない者や弱者には、あんなに冷淡なのはなぜだ?)
ライルの話と、今日のクラリスの態度。それらを繋ぎ合わせても、アレンの胸のモヤモヤは晴れない。
「選民思想……いや、それなら最初から受付すらしなければいいはずだ。わざわざ集めてから振り落とす理由は?」
答えの出ない疑問を抱えたまま、アレンは眠りについた。




