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味方のために薬を飲みすぎた俺、太る  作者: 勿夏七


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27/32

27誘い

 部屋の外まで響いていた悲鳴が消え、辺りは重苦しい静寂に包まれた。

 唸りを上げていた機械の駆動音も、役目を終えたかのように次第に静まっていく。


 静まり返った室内で、シャラタンはおもむろに二つの小瓶を取り出した。

 一つはアレンが売り出している回復薬。もう一つは、どこでも手に入る安価な市販品だ。


「アレン様。あなたは材料をすべて開示し、惜しみなく製法を広めていらっしゃいますね」

「……ええ。ただ、環境や魔力付与の担い手によって、どうしても効果にムラが出てしまう。市販のものと僕が直接作ったものでは、まだ無視できない差異があるのが現状です」


 薬草を擦り潰したり、調合自体は機械に任せてしまえば差は出ない。しかし、作った回復薬は魔力を少しだけ混ぜ込んでいる。

 誰でも簡単にできる魔力付与であり魔力量だ。しかし、アレンの魔力と他の者の魔力に何かしらの差があるため、回復機能の差が埋まらないでいる。

 

「はい、存じております。そして――その『差異』にこそ、私は大きな価値を見出しているのです」


 シャラタンはおもむろにナイフを取り出すと、躊躇なく自身の腕を数回切りつけた。

 血が滲んでいる腕にアレンの回復薬と市販の回復薬を、それぞれ傷口にかけた。

 すると、アレンの回復薬をかけた傷は、すぐに傷が塞がった。

 

 しかし、市販のものは血こそ止まったが、傷は消えない。ゆっくりと塞がっていくが、即効性は圧倒的にアレンの回復薬だった。


「実に素晴らしい出来です」

「市販のものも同じくらいにできれば良いんですけどね」

「私に力を貸していただければ、そちらのお手伝いもいたしますよ」


 残った傷を自身の能力で癒やしたシャラタンは、笑顔で言った。

 

「プロがやっても辿り着けていないものを……。いや、非公式といえヒーラー育成をしたり、自己回復能力の講座も開いている方なのだから、素人とは言えませんね」


 シャラタンほどの実力を持っていれば、より良い回復薬を作り出すのは容易かもしれない。アレンはシャラタンという男に拭いきれない不信感を抱きつつも、その提案自体には抗いがたい魅力を感じていた。


 だが、カイルが絡んでいることや、シャラタンが何かを隠していると感じ取っていることから、即答できなかった。

 それでもシャラタンは落ち着いた声色で「ゆっくり考えてください」とだけ言った。


 

 アレンが返答を躊躇っていると、続々と資格テストを終えた人々が出てきた。

 ひどく疲弊した者もいれば、特に変わらず平然としている者もいた。

 その数はちょうど半々くらいで、平然としている者の手には、アレンも受け取った受講資格証明書が握られていた。


「お疲れ様でした。ベッドを用意していますので、休んでからお帰りください」


 クラリスは疲弊した人々へ声をかけ、ベッドのある部屋へと誘導していく。

 その中には、先ほどクラリスに食ってかかっていた男の姿もあった。ただの疲労困憊とは違う、まるで魂の根こそぎを奪われたような虚脱感を顔に貼りつかせ、男はアレンを一瞥して去っていった。


 アレンは部屋に入っていく人々を見つめながら、シャラタンに質問した。


「……資格証明書が貰えなかった方は、どうなるのですか」

「元の生活に戻るだけですよ。それを知って、どうなさるのですか?」

「救済措置はあるのかな、と。ただの好奇心です」

「なるほど。あなたらしい回答だ。……しかし、さすがにこれ以上は救えませんよ。あの程度も乗り越えられない者では」


 棘のある言葉を向けられ、アレンは彼に視線を走らせた。

 彼の言葉には、確かに棘はあった。だが、本当に彼が発したのかと思うほど無表情だった。


「この世から痛みを取り除きたいとおっしゃっていましたが……端々に冷たさを感じるのは、俺の勘違いでしょうか」

「申し訳ございません。そのつもりはありません。どうやら私は、言葉選びが得意ではないようでして」


 悪びれる様子もなく、シャラタンはそう言った。

 シャラタンは小さな紙袋をアレンへと持たせながら言葉を続けた。


「私のせいで不信感や不快感を覚えたことでしょう。今日のところはお帰りください」


 言葉を返す暇もなく、アレンは外へと出た。

 少し離れた場所に、ネネが立っていた。クラリスと話していたようだが、アレンを見つけたあと、ネネはお辞儀をしてから走ってくる。


「シャラタン様とのお話、終わったんですね! やっぱりアレンさんはすごい人だなぁ」


 無邪気な笑顔に、アレンはどう返していいか分からず笑みを浮かべる。

 

「……お待たせしてしまってすみません」

「気にしないでください。おかげでクラリスさんとお話しできました!」


 満足そうなネネは、行きに使ったガラス玉をアレンの側で砕く。

 その瞬間、淡い光が二人を包みネネの家の前に到着した。


「すごい技術だな……。使い続けられないのが惜しいくらいだ」

「本当にすごいですよねー。でも、使い捨てなのは意図的らしいですよ」

「意図的、ねぇ。たとえば次回来る予定のない人はもらえない……とかですか」

「そうです。徹底されてますよね。お金が払えない人やあとから適性がなくなった人がいるからだそうです」


 「慈善事業じゃないから仕方ないですねー」と大して気にしていない彼女に、アレンは腑に落ちない気分でいっぱいだった。


(俺が聞いた受講料は子供のお小遣い程度で賄えるほどの少額だったはずだ。それを支払えない?)


 疑問が募る一方だったが、ネネにはその疑問は伝えず帰路に着いたのだった。

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