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味方のために薬を飲みすぎた俺、太る  作者: 勿夏七


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26資格テスト

 アレンは生唾を飲み込み、前に出た。

 クラリスは満足そうに満面の笑みを浮かべ、アレンを機械の前に誘導する。


「では、この機械に手を置いてください」


 アレンは言われたとおり、冷たく平らなパネルに触れた。

 すると低い駆動音が響き、機械が淡い光を放ち始める。

 光が次第に収まり、今度は別の機械へ案内される。


 能力の測定は、手をかざしたり全身をスキャンしたりする程度のものだった。

 痛みはなく、ただじわじわと体の内部を詳しく調べられているような感覚が続く。

 時折、微弱な電流が駆け巡るような感覚や、ほのかな暖かさを感じたが、どれも不快ではない程度の刺激のもので、害はなさそうだった。

 

 すべての測定を終えたアレンは、拍子抜けして眉をひそめた。

 

(……思ったより普通だな)


 モニターの数値を確認していたクラリスが、弾むような声でアレンへ向き直った。


「素晴らしいです……!」


 彼女は感極まった様子でアレンの手を両手で包み込んだ。

 あまりの勢いに、アレンはたじろいで目を丸くした。


「ここまで適合する方は久しぶりです。アレン様、すぐにでも本講座を受講していただきたいレベルですよ!」


 その光景を見ていた他の受講生たちの間に、安堵の色が広がった。

 「俺でもいけるかも」「思ったより簡単そうだ」と、先ほどまでの緊張が嘘のように和らいでいく。


「とりあえず、今日は見学だけにしておきます」

「もちろん、今はそれで構いません。では、この受講資格証明書をお受け取りください」


 アレンは、プラスチック製の会員カードのような証明書を受け取った。

 それを確認したクラリスは、周囲の人々へ向けて朗らかに宣言する。


「ご覧の通り、測定で命を落とすことはありません。皆様、どうか恐れずチャレンジしてください」


 その言葉に背中を押され、最初に名乗りを上げたのは、先ほどまで不満を漏らしていた例の男だった。

 クラリスの笑みが一瞬だけ凍りつくような冷たさを帯びたが、彼女はすぐに柔和な表情を取り戻した。


「ありがとうございます。それでは、アレンさんはご退出ください」

「え? ああ、はい。わかりました」


 皆の測定を見守るつもりだったアレンだが、クラリスの放つ無言の圧力に押され、促されるまま部屋を後にした。


 背後で厚い扉が閉まり、静まり返った廊下に機械音だけが響く。

 機械の低い唸りが、わずかに大きくなる。

 

 アレンが応接室へ戻ろうとした、その時だった。


「――ぎゃああああ!!」


 鼓膜を突き刺すような悲鳴が、背後の部屋から轟いた。

 咄嗟に扉へ手をかけたが、鍵がかかっていて動かない。必死に扉を叩こうとしたアレンの肩を、誰かの手が強く制した。

 

「適合しなかった方は、機械の流すエネルギーに耐えきれず、痛みが全身に回ってしまう場合があります。死ぬことはありません」


 シャラタンだった。彼はアレンを扉から遠ざけるように背中を押して歩き出した。

 

「ですから、あなたが介入する必要はありません。いえ、『介入できない』と言った方が適切かもしれません」


 淡々と説明をするシャラタンに、アレンは首を傾げた。


「痛みに苦しんでいる人がいるのに、『死ぬことはありません』……ですか。あなたの事業はどれも人々に支持される素晴らしいもののはずだ。それなのに、他人の痛みはさほど重要ではないのでしょうか」


 詰め寄るアレンに対し、シャラタンの瞳は深淵のように凪いでいた。


「そんなことはありませんよ。私はこの世から痛みを取り除きたいと心から願っています」

「それでは、なぜ……」

「痛みを取り除くための過程で、痛みが伴うのは『悪』ですか?」

「え……?」


 予想外の問いに、アレンは言葉を失った。

 

「あなたのように、これまで多くの痛みに耐えてきた方なら何も感じなかったでしょう。しかし、常人があの機械に触れれば相応の苦痛を伴う」


 シャラタンは表情ひとつ変えず、言葉を続ける。

 

「ですがそれは、無理な自己回復による『死』を回避するための、必要な警告なのです。……それでも、それは悪ですか?」


 アレンは沈黙した。

 これまでの人生、自分は確かに苦しんできた。だが、その経験があったからこそ今の自分がいるのだという自負もある。自分の過去を「悪」だとはどうしても思えなかった。


 迷いを見せたアレンに、シャラタンは静かに手を差し伸べた。


「世界の痛みを取り除くために、アレン様。あなたの力をお借りしたい」

「俺の、力を……?」

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