番外編・魔王の生贄はニンゲンの冒険者と友人になりたい6
応接室の一つに、リアの夫だけを呼び出した。
もちろん、いくら侍女や護衛が並んでいても、私一人で彼と会うといろいろ面倒なことになるので、ベルン様に隣にいてもらうようお願いした。それだけじゃなくてベルン様は、私をきゅっと魔力でくるんで、さらにそれだけじゃなくて左腕で私の肩を抱き、右手は私の手に重ねている。
呼び出したリアの夫には怪訝そうな顔をされてしまった。ちょっと恥ずかしい。でも、魔国ではこれが普通なのよ。慣れて!
気を取り直して、リアの夫に向き直る。
「リアに内緒で呼び出して、申し訳なかったわ。ただ。
聞いているかしら。数日、私の話し相手としてお茶の時間を共に過ごしてほしいと、リアにお願いしたこと。
リアの返事は、夫と相談したいとのことだったわ。
けれど、あなた方が訳ありなことは、すでに調べがついていてよ。」
リアの夫は見事なポーカーフェイスだった。あら、まあ、陛下を前にしてそれができるとは、なかなかね。魔王の圧倒的魔力を目の前にして動じていないのも、珍しいわ。
でも、リアに対する愛情がだだ洩れている以上、彼は、リアのためにならないことは決してしないはずなのよ。
だから、ちょっと切り込んでみるわ。
「リアは貴族の令嬢ではなくて?」
その一言で返ってきたのは酷薄な視線。でも、私はその視線に負けるわけにはいかないわ。けれどその前に。
「メリッサ。その言い方は良くない。伴侶である二人は祝福するものだ。」
とベルン様にたしなめられてしまった。私は慌てて弁解する。
「違います、そういう意味ではないのです。」
魔族はサクルィーフィスを大切にする。それはもう人生の目的がそれであるほどに、大切にする。
だからこそ、他人の伴侶も大切にする。誰であれ、その想い合った関係を壊そうとすることは、もっとも嫌われる行為。
でも、もちろんそんなつもりはなかった。私はただリアの夫に対して主導権を握りたいのよ、説得を成功させるために。
鷹揚な雰囲気を装って続ける。
「勘違いなさらないで。あなた方の素性を暴き引き離そうなどと、そんなつもりはなくてよ。
わたくし、リアに嫌われたくはないの。
けれど、リアのあの所作、王城内での立ち居振る舞い、どうみても貴族令嬢だわ。しかも下位の令嬢ではなく、王族とも関わりがあったのではないかと思うほど。
けれど今は冒険者でも、リアは貴族令嬢であったときの癖が抜けていない。というか、権力者の不興を買うことがどういうことか、分かっているのでしょうね。」
リアの夫から返ってきたのはやはり、酷薄な視線。でも、私はそれに負けないわよ。
「リアは夫であるあなたのことを気にしているわ。
伴侶であるあなたに不都合なことにならないかと、ずっと気にかけているわ。
そこはもちろん、気づいていらっしゃるわよね?」
よし、前振りはこれで十分。説得にかかるわよ。
「もう一度言います。わたくしはリアを苦しめたいわけではないの。
ただ、浄化においてこれほどの人材はなかなかいないでしょう?あら、それは賛同なさるのね。もちろん、わたくしもそう思いましてよ。
だから三か月間、わたくしはリアから学びたいの。
そのためにはリアが安心して教えられるよう、環境を整えたいと思っていますわ。
もちろん、それとは別に報酬もあってよ。こちらが少々無理をいうのだから、当然のこと。
あなた方が、いえリアの伴侶であるあなたが、トラブルに巻き込まれていることは調べがついています。
あなたも、こちらが調べていることは当然気づいているでしょう。
まず、リアがわたくしの講師となってくれるなら、リアとその伴侶の王城での正式な滞在が認められ、それにより魔国の保護化におかれます。これだけでも、リアの負担は軽くなるのではなくて?
あなたが事態の解決を目指して手を打っているのも、調べがついています。けれど、時間がかかる。そうですわよね?
ですから、リアが安心して講師として十分に力が発揮できるよう、あなたのそのトラブルに魔国が介入させていただきますわ。いかが?」
「……リアは本当に、運が良い。」
つぶやいたリアの夫が騎士のように片膝をついた。
「妻の顔を曇らせ、心労をかけ続けることは、私の本意ではありません。
陛下と妃殿下に、お礼を申し上げます。」
それはまるで騎士のような振舞いだった。しかも優雅に堂々と。
……どこからどう見ても冒険者なのに、いったい何者なの。これでは本当に騎士だわ。ということは。
実は、貴族令嬢で聖女なリアと護衛の騎士という関係だったのかしら。守り守られるうちに二人に恋が芽生え、そんな時リアに身分が上の婚約者ができそうになって、駆け落ちでもしたのかしら!?
ああ、それもいいわね、主従の恋、これもとってもロマンティックだもの。
でも、やったわ!ここまで外堀を埋めたら、リアも否とは言えないはず。
目指すは浄化のスキルアップ、そして気軽におしゃべりできる友人関係よ!




