番外編・魔王の生贄はニンゲンの冒険者と友人になりたい3
いやいや、恥ずかしいとか言っている場合じゃないわ。だって、二時間のおしゃべりで満足しようと思ったのに、二時間のおしゃべりでは足りないのよ!
だから、このチャンス、逃さないわ。
「では数日、リアが王城に滞在するのをお許しいただけますか?」
ベルン様が微笑む、私の魔力を優しく、けれどがっちり捕まえたままで。
「良い。リアといったか。」
すぐにリアは立ち上がると、片足を引き、膝を軽く曲げた。
「我が婚約者の願いだ。ぜひメリッサの話し相手になってほしい。」
陛下がこう言えば依頼の形をとっても、それはもう命令。答えは「はい」一択しかない。
けれど、それを理解しているはずなのにリアは動揺していた。
「妃殿下のお役に立てるのであれば、このうえない喜びですが。
ですが、陛下におかれましては、妃殿下にわたくしのような素性の者が近づかれるのは、ご不快ではないかと。」
「かまわぬ。無論、そなたとそなたの伴侶を引き離すようなことはしない。二人で王城に滞在するが良い。
ではメリッサ、また後で。」
そして陛下は、また転移魔法で姿を消してしまった。
そしてリアは、それに驚くこともできないほど、動揺と焦燥の表情でいっぱいだった。
しまったわ。リアを困らせたいわけではないし、そこまで権力乱用するつもりもないのよ。
「そんなに、都合が悪かったかしら?もしかして急ぎの旅だったの?あるいは、何か依頼を受けている途中だったかしら?」
リアがますます言葉に詰まった。あら、本当にものすごく訳ありなのね。
「でも、もしよければ数日、私のティータイムに付き合っていただきたいわ。
浄化についても教えていただきたいの。いかが?」
これも言い方はお願いだけど、魔王の婚約者の私が言ったらほぼ命令。答えは「はい」一択しかないのだけど。
リアが動揺を抑えて答える。
「できましたら、夫と相談させていただきたく。」
「ええ、もちろんだわ。」
と安心させるようにうなずきつつ、私は内心策をめぐらせる。相談している間に、一か月滞在できるよう外堀を埋めるために。
何しろ、こんな人材そういない。
礼儀作法はしっかりしているし、王城でのふるまいも理解している。
確かに、素性ははっきりしないけれど。怪しすぎたら、そもそも私のサポート役になどなっていないはず。
何より、友人みたいなおしゃべりができる。
当然だけど、浄化についても聞きたい。
あの、落ち着いてどんな浄化でもしてきましたという場慣れ感。控え目だけど浄化についてはきっちり説明するし、しかも教えるのが上手かった。
ただでさえ聖属性持ちは少ない。わざわざ魔国に来て、私に教えてくれる人がどれくらいいるか。それを考えると、こんな優秀な聖属性持ちの魔法使い、しかもベルン様が認めた女性はそういない。というか探してもまず見つからない。
まさに千載一遇のチャンス。こんな人材を逃すわけにはいかないわ。
そのためには、数日滞在してくれるなら、それを何とでも理由をつけて一か月に伸ばす。
ただし本当に訳ありそうだったから、一か月滞在してもらう代わりに、訳ありな理由ををこちらでできるだけ解消するわ。それなら何も問題ないはずよ。たぶん!
それでも、魔国はニンゲンの国とは違うので、一応女官長に確認する。
「私がニンゲンの冒険者と親しくしたら、何か不都合が起こるかしら?」
「その冒険者とのみ親しくなさいましたら、陛下が嫉妬なさいます。」
私は念のため聞き返す。
「女性だけれど?」
「間違いなく、嫉妬なさいます。」
私は念のため確認する。
「ベルン様との時間を今まで通り確保すれば、問題ないかしら?」
「それでしたら、たぶん、きっと、おおむね大丈夫ではないかと。」
……そんなに不確定なの!?
それでも、リアなら良いと陛下が認めた感じがあったのよね。それについて、浄化にも付いてきてくれた筆頭侍女のトゥーラに聞いてみる。
「ベルン様はリアを優秀な人材として認めたように思ったのだけど、どうかしら?」
「生贄様のおっしゃるとおり、かなり好感をもたれたようです。といいますのも。
私は陛下付きとして帝国など視察したことがありまして。ちなみに、ニンゲンの国に行く際は、角も翼も隠します。悪魔と騒がれて視察になりませんので。
ですがそうしますと、どうも魔族の容貌はニンゲンに好まれるようで、結局騒がれてしまい陛下が苦笑されていました。
ですが、あのニンゲンの冒険者は魔族の王と聞いて驚いただけで、陛下の容姿には興味を示しませんでした。
そしてあのニンゲンの冒険者の伴侶、あの者も生贄様にはまったく関心がなく、伴侶のみに注意を払っておりましたので、合わせて陛下にはポイントが高かったようです。」
……魔族の好感度がその辺で決まるとは思わなかったわ。




