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超常のプラスミド  作者: 釣鐘銅鑼
災禍の坩堝編

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Episode45:焼け跡に残るもの

黒霧街に、朝が来る。


だがそれは、救いの光ではなかった。


灰を照らすだけの、冷たい光だった。


崩れた建物。


焼け焦げた地面。


立ち上る煙は細く、弱く、まだ完全には消えていない。


昨夜の戦いが、そこに残っている。


消えずに。


消えきらずに。


その中心に。


ロックは、座り込んでいた。


背を丸め、動かない。


視線は、ただ地面へ落ちている。


何も見ていない。


何も、映していない。


リリスが少し離れた場所から見ている。


声をかけられない。


かける言葉が、見つからない。


モルトが静かに周囲を見回している。


検死官として。


この街の“残り物”を拾い上げる者として。


だが、今は。


ただ、立っているだけだった。


シャルが、瓦礫に手をつく。


震えている。


結界は、もう張れない。


力を使い切っている。


それでも。


誰も、その場を離れようとしない。


離れられない。


ここに、すべてがあったから。


そして――


失われたから。


ロックの指が、わずかに動く。


地面を、なぞる。


砕けたコンクリート。


焼けた跡。


その中に。


何も、残っていない。


「……あそこだ」


かすれた声。


誰に向けたものでもない。


それでも、全員が反応する。


ロックが、顔を上げる。


目は、乾いていた。


涙は出ていない。


ただ、奥が沈んでいる。


「……あそこで、終わってた」


静かに言う。


「終わらせられた」


誰も、否定しない。


できない。


それは事実だった。


あと一歩。


あと一瞬。


それだけで、すべては終わっていた。


「なのに」


言葉が止まる。


続かない。


喉で、引っかかる。


ロックは息を吐く。


うまく吐けない。


胸の奥に、何かが詰まっている。


「……持ってかれた」


短く。


吐き捨てる。


リリスが、ようやく口を開く。


「……仕方ないでしょ」


強く言おうとした。


だが、声は少しだけ揺れていた。


「相手は七罪なんですよ。あんなの、想定外――」


「違う」


ロックが遮る。


静かに。


だが、はっきりと。


「仕方なくねぇよ」


その声には、怒りはなかった。


ただ。


重さだけがあった。


「止めきれなかった」


それだけだ、と言うように。


モルトが目を伏せる。


「……介入能力」


小さく呟く。


「空間転位、もしくは因果干渉……いずれにせよ、あの距離、あのタイミングでの割り込みは――」


言葉を切る。


分析しても、意味がない。


今は。


シャルが、ロックを見る。


「……それでも」


かすれた声。


「ロックは……勝ってた」


ロックは、何も答えない。


ただ、空を見る。


白んだ空。


煙が、ゆっくりと流れていく。


「……勝ってねぇよ」


ぽつりと。


呟く。


「逃げられた時点で、俺らの負けだ」


その言葉は、重く落ちる。


誰も、返せない。


沈黙が続く。


遠くで、サイレンの音が鳴る。


PCPDの回収班。


後処理の時間が、近づいている。


だが。


誰も、動かない。


ロックが、ゆっくりと立ち上がる。


足元が、少しだけ揺れる。


それでも、立つ。


「……帰るぞ」


短く言う。


それだけ。


振り返らない。


歩き出す。


その背中は――


いつもと同じようでいて、


どこか、違っていた。


リリスがその後ろに続く。


モルトも。


シャルも。


誰も、何も言わない。


言えない。


ただ、歩く。


焼け跡を。


踏みしめながら。


黒霧街の朝は、静かだった。


何も変わらないようでいて。


確実に、何かが変わっていた。


その変化の正体を、


まだ誰も、


言葉にできないまま。

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