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超常のプラスミド  作者: 釣鐘銅鑼
災禍の坩堝編

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Episode44:奪われた決着

黒霧街が、白く焼けている。


視界が、飽和していた。


光。


炎。


圧縮された衝撃。


すべてが重なり、世界の輪郭が曖昧になる。


その中心で。


ロックとヴァルカンが、ぶつかっている。


止まらない。


止められない。


踏み込み。


衝突。


圧縮。


爆発。


一撃ごとに、街が削れる。


瓦礫が舞い、熱が噴き上がり、衝撃波が遅れて建造物を崩壊させていく。


ロックの身体は、限界を越えていた。


皮膚は裂け、焼け、血が流れ続けている。


呼吸は乱れ、視界は霞む。


それでも。


止まらない。


「――ッッ!!」


踏み込む。


収束。


すべてを一点に。


これ以上は、保たない。


それでも、構わない。


ヴァルカンの笑みが、狂気に歪む。


「来い……!」


炎が爆ぜる。


全周囲。


逃げ場のない焼却領域。


すべてを呑み込む終端の火。


ロックは、その中心へ突っ込む。


焼かれる。


皮膚が弾ける。


肉が焦げる。


それでも。


止まらない。


「――終わらせる!!」


拳を振るう。


収束。


極限。


一点。


“核”へ。


衝突。


――無音。


時間が、止まる。


ヴァルカンの目が見開かれる。


初めての。


明確な、致命。


「……ッ」


圧縮が内部で爆ぜる。


炎が歪む。


維持できない。


制御が崩れる。


ロックが押し込む。


さらに。


さらに。


「――ッ、終われ!!」


砕ける。


内側から。


ヴァルカンの身体が崩壊を始める。


炎が暴走する。


制御不能。


膨張。


そして――


爆ぜた。


轟音。


遅れて世界が揺れる。


炎が空へ吹き上がり、黒霧を裂き、夜を焼き尽くす。


その中心で。


ヴァルカンが、崩れ落ちる。


膝をつく。


初めて。


確かに、敗北の形で。


「……やるじゃねぇか」


血を吐きながら、笑う。


炎は、もう保てていない。


消えかけている。


「ここまでとはな……」


ロックは、立っていた。


いや。


立っているだけだった。


もう一歩も動けない。


全身が崩壊しかけている。


それでも。


目だけは死んでいない。


ヴァルカンを見据えている。


終わらせるために。


あと一歩。


あと一撃。


それで――終わる。


ロックが、足を動かす。


その時。


空気が、“静まった”。


熱でもない。


圧でもない。


戦いの余波でもない。


それらすべてを、外側から押さえつけるような――


異質な静寂。


「……やれやれ」


声。


柔らかい。


あまりにも場違いな、穏やかな声。


黒霧の中から、一人の男が歩み出る。


足音は、しない。


熱も、揺らさない。


ただそこに“現れている”。


長い外套。


整った所作。


まるで舞台に立つ役者のように。


「随分と派手にやってくれたね」


オルフェウス。


その名を知る者には、それだけで理解できる異物。


ヴァルカンの前に、静かに立つ。


ロックの目が見開かれる。


「……逃がすか」


絞り出す声。


足を動かす。


動かない。


筋肉が応えない。


神経が沈黙している。


それでも。


無理やり、一歩。


遅い。


間に合わない。


オルフェウスが、ロックを見る。


その目には、興味と――わずかな愉悦。


「君がロックか」


微笑む。


「なるほど。これは――確かに危険だ」


軽く手を上げる。


その瞬間。


何も起きない。


そう見える。


だが。


“位置だけが変わる”。


音もなく。


光もなく。


因果の接続が、ずれる。


ロックが踏み込む。


届かない。


すでに、“そこにはいない”。


ヴァルカンの輪郭が、揺らぐ。


薄れる。


「……待て」


声が、掠れる。


その言葉は、誰にも届かない。


オルフェウスが軽く頭を下げる。


「今日はここまでにしよう」


穏やかに。


幕を引くように。


「彼も、もう限界だ」


ヴァルカンが笑う。


血を吐きながら。


ロックを見て。


「……次は、必ず殺す」


その身体が、消える。


霧のように。


完全に。


――消えた。


戦いが。


決着が。


“勝利が”。


その瞬間に、奪われた。


残ったのは――


焼けた地面と、沈黙だけ。


ロックの足が止まる。


完全に。


膝が、崩れる。


その場に落ちる。


拳が震える。


力が入らない。


それでも。


握る。


「……ふざけんな」


小さく。


掠れた声。


誰も、何も言えない。


リリスも。


モルトも。


シャルも。


ただ、見ているしかない。


ロックの背中を。


拳が、地面を叩く。


一度。


二度。


三度。


音は、弱い。


もう力はない。


それでも。


止まらない。


「……なんでだよ」


声が、崩れる。


「あと、少しだった……」


届いていた。


確実に。


終わっていた。


それを。


奪われた。


奪われた。


奪われた。


「……クソが」


頭を垂れる。


血と煤にまみれた顔が、影に沈む。


沈黙。


数秒。


誰も動かない。


そして――


絞り出すように。


爆ぜる。


「――ッ、クソが……!!」


その叫びが、


黒霧街に、突き刺さる。


焼けた街に。


崩れた夜に。


誰にも届かない慟哭だけが、


長く、長く、残った。

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