わくわく食材ゾーン エピローグ
安定の我が宿である。最近、宿をかえた。前よりもデカ目の部屋になった。
当然のごとく値段は上がった。エミリアもついてきたから、半額でいいので、ぎりぎり前よりも安く済んでいる。
「本当にお前らはなんなのさ」
「おまえこそ何しに来たんだよ、前衛」
「す、すみません。お、お二人の愛の巣を、か、観察したら、な、なにか出てきて面白いんじゃないかって、オレから言い出したんです」
「観察って……」
だいぶ失礼なこと言ってんな、ヒーラー。ヒーラーの発言を受けて脱力したかのように、エミリアがだらんと俺に向かって倒れ込んでくる。ぎりぎりで身体の位置をずらし、俺は俺の肩を守ることに成功した。
「なんで避けるの」
「お前、よく俺の肩によだれたらしてるだろうが」
「知らない」
腹筋を使って、ベッドから跳ね起きたエミリアは、今度は俺の背中に回り込んで、だらんと全身の重みを預けてきやがった。
俺はため息を吐いた。
「ねえ、ハニー。ここ、いたらだめじゃない?」
「奇遇ですな、ダーリン。吐き気が、してきます」
「勝手に来といてその言い草はおかしいだろうが!」
あと、お前らも大概だぞ。呼び方とか。
「それで、おたくのギルドは今も、あんな感じ?」
黎明の鴉は、なかなかにえらいことになっていた。それを知っているからこそのエミリアの問い。
だが。
「通常営業だよ」
「俺らと、土木の連中はな」
「何時間待ち?」
「さあ……?」
朝に並んで食堂に入れたのは、夕方だった、とかいう愚痴は魔法使いから聞いた。
あいつ、普通に飯を食いに来てるからな。
ギルマスも、関係者枠で順番に並ばなくてもいいようにしてやる、と言ったらしいが、べ、別に関係者じゃないじゃない!とか魔法使いが、ごねたらしい。勝手にやっててほしい。
「そんな人気なんだ……、あれが」
「本体を俺らしか見てないからなあ」
黎明の鴉食堂は、絶賛海産物セール中で大繁盛していた。素材が大量に手に入ったからだ。
俺の背中に乗っかるのに飽きたのか、エミリアは俺の隣に座る位置をかえた。手をつかまえてみたら、エミリアが手をからめてきて、俺の手の甲を指先でこすりはじめる。
害はないので、好きにさせておく。
「あいつら、ドブ産なのに」
「ぬめぬめもしてたのにな」
「食材はだいたいキモいから仕方ないんじゃない?」
「だいたいキモいってことは、ないと、思います……」
果たして、客の何名が海産物の正体に気づくのだろうか。気づかないほうが幸せな気もするが。
「それにしても、変なダンジョンだよね」
「そうだな」
そこは間違いない。
ただ、経験則的にぼちぼち支配種の存在に近づいているはずではある。
周りをみれば、前衛とヒーラーも神妙な顔をしていた。エミリアはわからん。何が楽しいのか、指先に指を巻き付けてきている。
「何が支配種だと思う?」
「「「人間」」」
前衛の問には、全員が即答した。
そうなると。
「そろそろ、アンデッドゾーンとかが、来るか……?」
「やだなあ……………」
恐らく、そろそろ大活躍するであろうヒーラーは苦笑いを浮かべた。




