蟹殺しの矢
キメラしてるとは言え、大まかな形が蟹だから、きっとこいつの中身も蟹だろうと、俺は信じることとする。
ただ、このダンジョンの他のキノコやら野菜やらから考えても、多分こいつは食料とすることを目的にされているはずなので、それほど体の構造が変になることはないはずだ。
あと、完全な予想だが。
「どうせ、蟹味噌も詰まってるんだろお前!」
『kakakakakaka』
余さずに食える仕様にされている気がする。そして、普通の蟹味噌は蟹の内臓だ。だったら、半ば賭けではあるが、割に合わないという程ではないはずだ。
『ninininjjjniikninjnsooooi!!』
普通の蟹と違う部分である背中触手(蛸足)がびったんびったん俺に襲いかかろうと、振り下ろされる。
だが。
バシュンといっそ冗談のように勢いのよい風切音とともに、触手はぶっちぎられていく。
エミリアの援護だ。そもそも、弓矢は何かを切り飛ばすような武器ではないはずなのだが、ことエミリアに関してはそんなある種の常識を考えるのも無駄だ。
かつて、エミリアにどうやっているのか尋ねたら、『つよいところとよわいところが目に見えるからそこをちゃんと狙えばぶった切れるよ』と言われた。意味が全く分からない。
だから、そんなわけがわからない援護を背中から受けた俺は、触手をまったく気にすることなく蟹本体へと、容易く接近することができる。
『bububububububububu』
キメラ蟹は、泡を吹いていた。普通の蟹であるなら、苦しんでいる証拠のはずなのだが。
『bubububububububububu!』
あー、なるほど。
「お前、だいぶキレてるのか」
『bibibibibiiiiiuuiuu!!!!』
巨大極まりない蟹鋏が俺の身体をぶった切るために、迫ってくる。
ただ、まあ。
「こんくらいなら普通にかわせるなあ」
タイミングを計って、俺は少し飛んだ。蟹鋏が俺のいない空間を挟んでくる。そこに着地し、それを踏み台にし。
ぶくぶくと泡が出ている口。そこ目掛けて、エミリアから拝借した矢を刺しこんだ。
「内臓かき回されろ!」
矢の長さで足りるか正直見当がつかないから、俺は己の全体重をかけて少しでも深く刺さるように押し込んでいく。
『gi』
蟹キメラは一度大きく身動ぎしたが、それまでだった。
口からビームとか出してこなくてよかった。
「案外あっけなかったね」
「お前なあ」
背中でうねっている蛸足を眺めながら、絶命したはずの蟹キメラの前で、俺たちは待機している。こう見てみると、蛸と蟹は別々の個体なのか。
あっちでコブリンやら魚貝キメラを相手しているほかの面々には、エミリアの矢文で知らせておいた。
「結構でかくて、怖かったんだぞ」
「君に、恐怖心って存在したんだ」
「するに決まってるだろ」
俺のことを、何だと思っているのか。
「それで、このあとはどうなると思う?」
「生か、茹でか、焼きか…………」
「思うんだけど」
触手がエミリアを狙って伸びていたから、ぶった斬ってやる。ついでに、飛んだ蛸脚の先は地面に落ちないようにキャッチする。どう見ても新鮮な蛸でしかない。
「君も、君のリーダーと負けず劣らず、食い意地はってない?」
「あれと一緒にするな」
程なく合流したリーダーのひと言目は、刺身!だった。俺のことをじっとりと睨んできたエミリアの目を手で覆い隠した。
俺のことまでそんな目で見るな。




