24.美少女二人に囲まれて
その後、物資調達は順調に行われ、充分以上の食糧と物資が王城へと運び込まれていく。明日音がゾンビの習性を事細かに教えてくれたおかげで、誰一人欠けることなく帰還することができた。これであと二週間は王城内でまともな食生活を送れるだろう。
しかし立て籠もり続けるわけにもいかない。食糧や物資はいずれ尽きる。
こちらの世界では保存可能な食糧は干し肉など天然の加工品が主で、缶詰などは贅沢品であるため数は少なく(金属加工などのコストが明日音の住んでいた世界と比べてはるかに高いため)、北の城下町で獲得できる食糧は残り僅かだ。この調子でいけば、もってあと1ヶ月。その間に脱出計画を策定しなければならない。
王座の間にて、誰かが使っていた高級クッションの上で膝を曲げて座っている(向こうの世界では正座と呼ぶらしい)明日音は、目の前で頭を抱えている議長を見上げて言った。
「この世界では、長距離通信は可能なのか」
「議長。こちらの世界で遠く離れた国や街と連絡を取る手段はあるのでしょうか?」
隣で立っているヴィクトリアは、通訳のように明日音の言葉を言い換える。
「いやもうこいつに敬語は期待せんよ」
「作用でございますか」
「ヴィクトリアちゃんもタメ語でいいよ。なんかもうどうでもよくなってきた、そういうの。世界終わってんだしさ。礼儀とかいらないよ」
ここ数日間ですっかりやつれてしまった議長は投げやりっぽく言う。目の前に広げた大陸地図を見つつ、明日音の言葉を思い出し、
「で、長距離なんちゃらだったっけ?」
「長距離通信だ、馬鹿者」
「で、だ。現状、遠くにいる相手と話せる魔法や魔動機械はこの王国には存在しない。だから国や諸地域との連携は使者を送り合うことでとっている」
「となるとゾンビがどこまで広がっているのか見当もつかんな」
しばらく明日音は考える。フェース王国は大陸の中心。海岸線に辿り着くのも一苦労だ。
「西へ行くべきよ」
そう発言したのはヴィクトリアだった。
「少なくともジークフリード団長を轢き殺した奴らは東のどこからやってきたはずよ。だったら反対側の西……ちょうど西方にはエデルン王国がある。あそこはフェース王国とは友好国だし、ちょうどいいかも」
「エデルンというと、ちょうどうちの国の王族たちが戴冠式に出席しているな。避難民の受け入れや、ゾンビに対する情報を信じてもらうのであれば、我が国の人間がいれば話が早く済みそうだ」
議長はそう呟くと、大陸地図の西側に指を当てて、
「そのさらに西には港町もある。目的地としてはこれ以上の場所は無いと思うがね」
「目的地は決まりね。あとはどうやってこの王城から国外へ脱出するかだけど」
「魔動列車の線路は、東西南北いずれも外側の城門近くのところが破壊されていた。かと言って正面突破は難しい。ならば地下通路を使うしかないな」
「地下通路?」
「ここの王城は、大昔は神殿だったのだよ。地下通路は神殿の遺跡の一部とされている」
「初耳~」
「一般には知られていないことだから、庶民は知らなくて当然だ」
「じゃあそれで外まで行けるわけ?」
「さすがに外側の城門の近くまでしか行けない。しかも普段は硬く鉄の扉で何重にも封じられている。そこから王城に侵入されたら大問題だからな」
「じゃあ私たちでも無理なんじゃない?」
「ところがどっこい。ここにあるのだよ、鍵が」
「ひゃー、なんで議長が持ってんのよ」
「権力者になるためには、多少の知恵が必要なのだよ……裏取引に使わせてもらっていたのだ」
「それって犯罪じゃーん。おじさん悪い人~」
いつしか明日音を放置して、ヴィクトリアは議長と話を進めていく。
その様子をジトッとした目で見ている明日音。その視線に気づいたヴィクトリアは振り返って、嫌味な笑みを浮かべた。
「もしかして嫉妬かしら?」
「……そんなのではない」
「うふふ~。目が泳いでいますよ~」
「うるさい。君の趣味が金持ちの中年オヤジだとは思わなかった」
「いや、そんなんじゃないから。ありえないし。だって口臭いし、この議長」
「嘘だな。君はたとえ口が臭くて中年太りで悪事に手を染める傲慢な権力者でも、金さえあれば問題ないって顔をしている」
「いやだわぁ、明日音さ~ん。お口がお下品なこと~」
「からかうんじゃない!」
言い合いを続ける二人だったが、ふと議長が項垂れて全身が灰色になっていることに気づく。
「どうしたの、議長?」
「どうしたんだ、議長?」
「いや、いいのだよ。なんかもう、全部いいのだよ」
その日を境に、議長は毎朝騎士たちに交じってトレーニングに励むようになり、こまめに歯磨きを行うようになったという。




