20.【コミュニティ崩壊の前触れ パンデミック後の非日常】
【 記 憶 3】
「おい、例の妊婦が感染していたって本当か!?」
〝私〟はライフル銃を片手に急いで階段を駆け下りていた。それに続くように、キャミソール姿でタバコを口にくわていた女性は階段を下りながら言う。
「本当よ。妊婦とその旦那は殺したって聞いたけど、出産した赤子のゾンビは逃したらしいの」
「情でも湧いたのか、自警団の連中め」
「いえ、どうやら変異体だったらしいわ。素早くて対処しきれなかったって。すでに三人やられている」
それを聞くと、〝私〟はライフル銃に弾を込めて渋い顔をした。
「赤子のゾンビが変異体かよ……図体が小さいぶん、探し出すのにも一苦労だろうな」
ライフル銃はヤクザの事務所から拝借したもので、軍事マニアだった〝私〟が扱い方を唯一心得ている人間だったため、これを持つことになっていた。必然的にゾンビ退治の筆頭に立つのは〝私〟であり、このショッピングモールに籠城している人々の実質的なリーダーであった。
「面倒な仕事だな」
自分で言うのもなんだが、前のリーダーよりはマシだと思っている。前のリーダーは立場の弱い者をゾンビの囮にし、自分は安全圏に立って指揮を取るタイプの男だった。それに加えて女性に対して扱いが荒っぽく、待遇を良くしてほしいなら俺とセックスしろと平然と皆の前で吐くクズだ。
彼はどうなったか。〝私〟が不意を突いてライフルで右太ももを撃ち抜き、動けなくなったところで放置してやったのだ。数分後、彼はゾンビの胃袋の中にいた。彼が情けない声で喚き散らす様子は、久々に心の底から笑えるコメディだった。
「赤子のゾンビ、殺せるの?」
「誰かがやらなきゃ、コミュニティは全滅だ」
リーダーとは率先して問題解決に取り組み、個人よりも全体のことを考えた決断を即座に行え、勇敢に立ち向かう人間のことを指す。
「愛しているわ」
「ああ」
キャミソール姿の女性は〝私〟と唇を重ねる。まるで舌が別の生き物のように濃密に絡み合い、熱の高まりを互いに感じ合う。これが終わったら彼女を抱こうと思った。
「行ってくる」
熱くなる心を抑え、〝私〟は女性にそう告げるとライフル銃を構えて言った。
「ここはやらせない。どんなゾンビだろうが、好き勝手にさせるかよ」
この現実は、どんな日常よりも〝私〟を輝かせてくれる。愛する女がいて、守るべき人々がいて、そして英雄たる自分がいるのだから……ここ以上の居場所は、どこにもない。




