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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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    鍛える予感③

 高校生らしく“部活に入る”という青春の一ページを刻んだ士。中学生時代はずっと帰宅部であったからな。心理状態には、多少なりとも変化はあった。ただ名義上のものに過ぎん為、練習には一度も行っておらず、これからも行く気は一切ないが。いや、待てよ。先日対峙した彼奴(あやつ)()の様な連中と、これから幾度(いくど)となく戦う羽目になる事は必定(ひつじょう)此奴(こやつ)の超絶的な身体機能に、更なる磨きを掛ける良い機会か。

(という訳で、如何(どう)だ?)

 その提案に、士は自宅のベッドに寝転びながら返事をした。夕食も風呂も済ませたからといって、少々ダラけ過ぎであるな。

「いや、どうって言われても……筋トレなら毎日やってんだろ?」

 幼少期からの日課は、高校生になって親元から離れても尚、続けられておった。根は生真面目なのである。

「筋力は今でもすぐ落ちる可能性があるから鍛えてるけど、心肺機能とか持久力とかは現時点でマックスだし、今より下がったりもしないし、無意味だろ」

 何度も述べてきたが、我と融合した半年程前から士の酸素・脂肪・糖質・水分等の貯蓄量はとうに限界値を迎えておった。勿論、その天井はヒトのソレと比較しても遥か上方だ。また再生力・免疫力・薬物代謝に関しても、既に我の常識外にあった。

「その辺はもう鍛えようがないからとりあえず放置。筋トレは……最近はマンネリだな」

 やはり、自重を利用する腹筋や腕立て伏せ等では限度がある。そもそも筋肉(骨格筋)は、過負荷と休息を繰り返す事で発達していく。これは汎ヒト族も悪魔も一緒。相違点及び問題点はその“質”だ。世間一般のヒト共と、我と一体化した士。筋力差は歴然である。中には追随するモノも()るが、今の本題ではない為、脇へやっておこう。

「要はあれだ。俺らの筋肉に過負荷をかけられるモンが少ないってこった。特に室内で」

 そうなのだ。今の此奴(こやつ)が先述のウェイトトレーニングをどれだけ積もうとも、それは現状維持にしかならん。贅肉に変わり易い肉体を、筋肉が付易い体質でその手前にて押し留めるのが精々。ダンベルも百kgを超える様な物は市販されておらぬ。

 ブルースやスコット達と同程度、或いは彼等を上回る実力の持ち主と相対した時を踏まえた、高強度な鍛錬をしたくても素の筋力が高過ぎるが故に出来んのである。(ちな)みにこれは筋肥大、()(てい)に言えば筋力の絶対量の事であり、瞬発力や神経発達による筋肉の動員数とはまた別の話。

「それに、思いつくのが結局筋トレと柔軟体操しかないってのも考えモンだよなぁ」

 まあ、強くなるのに最も単純かつ効果的な手法の一つではある。素人でもそれなりに得るモノはあるからな。間違ってはおらん。しかし、それだけではキツかろう。あの四人以上の実力者となると、それこそ他の王や魔王のお歴々しか思い浮かばん。ただ、今もこの星の何処(どこ)かで、()の方々を凌ぐ傑物(けつぶつ)が生まれておる確率も零ではない。健児という先例もあるのでな。そのモノと敵対せねばならぬ状況に陥った時、ナニかを保護しながら逃走できる程度には力を身に付けておかねばならん。

「どうしたモンかなぁ~」

(ふ~む、隣の部屋の彼等に頼むか?)

「いやでも、あいつらの戦法って刀剣と弓矢と暗殺だろ? どれも俺には向いてねぇよ。不器用だから。それに武器もってウロつくワケにもいかないし、却下」

 確かに。どれを選択しようとも、専門的な技能を求められるのが真理。というか、彼等自身の能力ありきの戦闘方法であるしな。武器に関しても、日本で携行するにせよ・海外に持ち込むにせよ、彼等の持つとある道具が必要である。それがまた高価なのだ。

「だから、素手かその辺のモン使った戦い方を覚えないと」

(ふむ、それならばオールマイティな対応が可能、かつ色々と応用も利く事であるしな。ただ、決め手や間合い等については考えものだが)

「それはまぁ、しかたない。お前ビームとか出せなかったんだろ?」

(ああ。そういう魔術的というか、不可思議な事は基本的にできぬ)

 言わずもがな、(もと)が唯の人間であった此奴(こやつ)にもその様な事は不可能。遠距離への対処は諦めるしかなかろうな。更に言わせて貰えば、我には武術や格闘技等の体術を習得しておらぬ。何故なら、この概念が生まれたのはこの二千年余りの事。その遥か昔に生誕した故、我はその心得がないのだ。元より不要であった事も一因である。晩年になっても学ばんかったのは、意地と自尊心が邪魔をして、己よりも弱い者に教えを請うのが嫌であった為だ。

「そんなんだから、あのバラムって悪魔に勝てねぇんだろ」

(いやいや、“勝てぬ”とは言っておらん。“勝ち越せぬ”と言ったのだ)

 今までの奴との戦闘数が一万飛んで三十四回。戦績は、三千三百六十勝・三千三百六十二敗・三千三百十二引き分けである。

「結果的に負けてんじゃねぇか」

(う……ま、まあ、向こうも伊達に“王”として生まれ育ってきた訳ではないからな)

「ジジイが言い訳してんじゃねぇよ。カッコわりぃ」

 返す言葉もないが、王や魔王と貴族の間には結構な開きがあるのだよ。

「でもまぁ、俺もあいつらに勝ってねぇからお互い様か」

 先日は、時間切れで退()いただけであるからな。負ける気はせんが、あのまま続行しておったら如何(どう)なっておった事やら。ブルースにしても、それは同様である。

「っていうか、俺との訓練に耐えられるヒトなんてそうそう居ねぇだろ」

(確かに、それも懸念材料の一つだ。貴様の拳が(かす)っただけで、大抵のヒトは重傷を負うからな)

 それが可能な程度に頑強なのは、上級悪魔か大型の獣人・鱗人位のものか。

「はぁ、バカ二人が考えてもしゃーねぇ。今まで通り、地道にコツコツ筋トレと柔軟体操やっとくか。少なくとも損にはならない」

(まあ、何もせんよりかは幾分かマシか。というか、誰が馬鹿だ)

「俺とお前」

 それから約三十分、思案を続けたものの結局は根本的な解決には至らず。我等は問題を先送りにし、眠りに付いた。

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