鍛える予感②
「あたしもパルクール部に入っちゃってるし、美輝も書道部、だっけ?」
「うん、まぁね。でも名前だけなら貸せるよ」
ふむ、白木はパルクール部であったのだな。それを聞いた士が『何それ?』という顔をした為、彼女が解説してくれた。
これは、走行・跳躍・匍匐・登攀等の移動方法を用いて心身を鍛える方法である。人造物・自然物を問わず、如何なる地形でも自由自在に動ける肉体と何があろうとも挫けぬ精神の獲得が目的だ。フリーランニングとも言われておる。何方といえば、森林や岩場等よりも街中で行われる事の方が多いかね。近場で出来るし、障害物も多種多様であるからな。危険度が増す事もあるが。
(なかなかハードなスポーツやってんだなぁ~)
(だが、似合っておるな)
(それは言えてるかも。したたる汗が爽やかに光り輝いてそうだ)
その様な事を考えておると、視線が自然と白木の方へ向かった。
「何よ、ヘンな目で見ないでよね」
それに勘付き、気持ち悪さからか彼女は自分で自分を抱く。罵られもした。申し訳ない。
「見てねぇよ!! スゲェなって思ってただけ!」
「どうだか」
だが、皆に誤解されたままは御免だ。反論し、弁明する。それでも怪訝な目は解消されんかったが、幾分かはマシになった。その後、ちょっとした感想を述べる。
「でもどっちかってーと、パルクール部とか山岳部の方が少なそうな印象だな」
「ま、たしかにウチもギリギリだけど、いちおう七人そろってるわよ」
「ウチもそれぐらいだな」
二人の告白に、士は一抹の不安を覚えた。
(本当にギリギリじゃねぇか。来年どうすんだよ)
(新一年生が入って来る可能性に賭けるしかないな)
それも微々たるモノだがな。最近になって流行の波に乗り出した様な気はするが、世間的に見れば如何せんマイナーな感じは否めぬ。
一方の光は帰宅部であったと記憶しておるが、家業の手伝いであろうか。まあ何にせよ、これで三人目確保だ。加賀美も喜んでおる。だが、まだ足りておらん。天道と白木が掛け持ちできれば、解決するのだが。
(ウチはそのへんが色々とメンドくせぇんだよなぁ~)
この学校で、部活動の掛け持ちは容認されておる。ただし、それは運動部と文化部が一つずつという形でなければならぬ。故に、それぞれ運動部に入部済みの天道と白木は、もう鉄人部には入れん。名前も貸せん。変なところで厳しいのである。
「グッ……こ、このままじゃ廃部に……」
悔しさで歯を食いしばる加賀美。もう、諦めるしかないのか。覚悟を決めようとした時であった。
「でしたら私が入りましょう」
そんな彼に、麗しき救世主が降臨した。何と驚いた事に、風白が入部すると表明したのである。それも幽霊部員ではなく、正式な部員として。
「ほ、本当か!?」
「はい。私はどこにも入部しておりませんし、お稽古ごとも少なくなりましたので時間もございます。ですので、何も問題ありません」
ただし、激しい運動は得意ではないので、マネージメントを中心に活動したいとの要望である。
「ほう、美人マネージャーというわけか。羨ましくないぞ、嵐!」
「隠しきれてないわよ、天道」
羨望と嫉妬が微量に入り混じった声と共に、加賀美の背中を叩く天道。それを嗜める様に、静かに突っ込みを入れる白木。
「これで四人か。あと三人たりねぇな」
加賀美の喜びも束の間、士が現実に引き戻してやった。
(三人か……。ちょうど良いから“あいつら”に頼むか。……あー、でも頭さげんの嫌だなぁ。っていうかあいつら悪魔だから、条件にナニ要求されるか分かったモンじゃねぇし)
士が隣のクラスの連中を心に思い描いておると、『Speak of the devil and he will appear』。噂をすれば影が差した。
「喚んだか?」
「うおっ!?」
何時の間にやら、教室の扉に上級悪魔三人組が立っておった。先の台詞を発したのは、一番前に立つスコットである。
「おや? 君たちはA組の……」
眼鏡を光らせて其方に眼球を動かし、彼等を視認した天道。
「知ってんのか、総護?」
「まぁ、目立つからな」
加賀美の問いに、天道はクイッと眼鏡のズレを修正しつつ答えた。その間にも、奴等は此方に接近して来ておる。
「何やらお困りのようだなぁ」
そう言って厭らしい笑みを浮かべるのはクリント。折角のハンサムな顔が台無しである。まあ、悪魔らしいと言えばらしいが。
「あ、ああ、実は部活の人数が足りなくてな」
「へぇ~、それは大変だねぇ」
初対面の筈の三人に、加賀美は悩みを打ち明ける。それを受け、バッキーが表情を崩す事なく憐れんだ。恐らく、興味がないな。
「で? お前ら何しに来たんだ?」
士が単刀直入に尋ねた。
「隣の教し、ではなくて廊下にまで聞こえてきたものでな」
厚い壁を隔てて尚、彼等の超人的な聴覚は先刻までの談話を捉えたか。平たく言えば盗聴だ。
「なんだ!? 入ってくれんのか?!」
必死の形相で、加賀美は食い気味に三人へ詰め寄る。掌を前に掲げて彼を制止させ、スコットが口を開いた。
「ああ、良いとも。入部届けに名前を書いてさしあげよう。ただその前に、我々も大会等には出られないが、それでもよろしいか?」
上級悪魔であるからな。身体機能には雲泥の差がある。釘を刺しておくのは当然だ。いや、それ以前の問題か。
「え? あ、ああ、かまわねぇぞ。そっちの人たちもそれでイイのか?」
「うん、イイよー」
「まぁ、たましぃっ……っ?!」
何か言い掛けたクリントを、バッキーが脇腹を殴って窘めた。
「たまし?」
「ううん、なんでもないよ。ね?」
「お、おお……」
何はともあれ、これで鉄人部に七人の入部が決定。唯一真っ当な入部希望者である風白から、順々に用紙へ名前を記入していった。それを学校に提出し、公式に受理された。鉄人部は、廃部も同好会への格下げも無事に免れられ、これにて一件落着と相成った。




