友じゃねぇ⑤
序でにやるか。
《バラム》とは、魔界七十二柱の序列五十一番に格付けされる王家である。
悪魔随一の巨漢であり、強靭な筋肉と優れた瞬発力が生み出すパワーとスピードは他の追随を許さぬ。その為、『悪魔一怪力』の名を恣にしておる。また、堅牢な骨格や分厚い脂肪と皮膚により、肉体強度も『悪魔一強靭』と謳われた我がアモン家に勝るとも劣らぬ。ただ、運動神経や反射神経は上級でも平均の域を出ぬ。それでもやはり中級以上はあるが。
特殊な能力はなく、その肉体のみが最強の武器であり、最硬の防具。……訂正、口から火が噴ける。こうして特性を列挙してみると、我が家との類似点が多い。奴と気が合ったのもそれが一因であろう。
既に見た真の姿は、雄牛・人間・牡羊の三頭。蛇頭の尾と燃える様な真紅の眼を持ち、首から下は馬鹿デカイ熊である。四肢には人間の要素あり。また、その背には大鷹の翼が生える。
(今日は説明が多い日だな。つーか知ってたんなら昨日襲われたそのときに教えろよ)
(時間も余裕もなかったものでな。許せ)
一切の遅滞なく食は進み、あっという間に皿の上は空になった。それ等は店員に下げられ、代わりにデザートがやって来る。
「お前らってさ、何しに日本に来たんだ?」
士はケーキにフォークを入れつつ、ふと気になった事を訊いた。
「あぁ、そのことか。見識を広めるためだ」
「昔からの慣わしでな。人間でいう高校生の年齢になったら、コッチのどの国でも良いから人間に混じって暮らすんだ。最低三年間な」
無論、上級悪魔に限った話である。我の幼少期にはなく、ここ千年程の間で出来た制度だ。
魔界にも学び舎は沢山あるが、上級悪魔自体の数は少ない。故に、家庭教師を各家で就けるか、下々の者達と同じ所に通うかの二択。下級や中級悪魔と切磋琢磨するのも、人間達と共に青春を謳歌するのも似た様なもの。寧ろ、大半のモノが自分達の事情を知らぬ人間界での生活の方が気楽でもある。また、此方に興味を持つ子供も増えた。ならばいっそ、留学させよう。そういう話である。
「ホラ、あれだよアレ、諸国漫遊ってヤツ?」
「そりゃまた別だろ」
素っ頓狂な事を言い出したバッキーに、士は突っ込みを入れた。ただ、彼の言が全く違うかと問われれば、首を傾げざるを得ぬが。それを踏まえ、スコットは述べる。
「いちおう、やることは決まっているんだ」
「何やんの?」
士の雑な問い掛けに、彼等は三者三様に返答。
「オレは剣術および剣道を」
「オレ様は弓術とか弓道とかアーチェリーとかを」
「ボクは格闘技とかその辺を」
各々学びに来たという訳か。と、感心しようとしたところ、バッキーが真面目な顔を一変させてこう宣いよった。
「ってゆーのはタテマエ」
先述の理由は、此方に来る為の方便。本来の目的は別にあるという。
「あ? あー、んじゃあ本音は?」
「フフッ、それはな……」
スコットは少し勿体ぶった。だがその割に内容は……。
「食事が美味しい」
「女の子が可愛い」
「娯楽がいっぱい」
「「「日本って良いところだな!」」」
俗世間に塗れまくっておる。待った時間を返せ。ただ、その三項目については概ね同意である。
「お、おお……観光の延長か……」
とはいえ、三人の理由はめいめい異なれどもこの国に好意的。偏りはあるが、士も母国を褒められて悪い気はせん様だ。その為、警戒心が少しだけ解れた。
「朝から思ってたけど、お前ら日本語うまいな」
「へっ、現地のヤツにお墨付きを貰えりゃ、オレらの苦労も報われるってモンだぜ」
まあ、この国の言語は世界でも有数の難関さとややこしさを誇るからな。それを拙いながらに習得できたのは、ひとえに彼等の才能か、それとも努力の賜物か。
大分と打ち解けてきたので、士はある事を尋ねた。三人が悪魔であるからこその詰問である。
「そういやお前ら、オリエンテーリングんとき、なんにもやってくれなかったな?」
これには、若干の皮肉が込められておる。
「いやぁ、そりゃオレらもどうにかしたかったけどさぁ……」
「オレたちは幽霊とかあーいう存在に対して無力なんだ」
ふむ、レラジェならば破魔矢の作製位はお茶の子さいさいであったと思うが、彼は未熟者なのか。まあ、悪魔にとってアレは、自らの身も滅ぼしかねん諸刃の剣。作製自体も難しく、また取り扱いにも細心の注意を払わねばならんからな。致し方ないか。
「っていうか、お前らが封印解いたんじゃねぇだろうな?」
「むっ、そう思われるのは心外だな」
「そうだよ、無礼千万だよ」
「んなことしてオレらに得はねぇし、そもそも封印されてることも知らなかったってーの」
失敬極まりない士の疑いに、少しばかりの怒りを抱いた三人。
「それに、みんなの記憶を操作したり消去したりしたのはボクたちだよ?」
自分達の所業では無い事を証明する為に、声を張ったのはバッキー。沢渡が共に連れて来た者達にバレぬ様に、秘密裡に行ったそうだ。遭遇すると厄介な事態になるのは、必至。また、連中も似た様な事をしておったという。




