2026年8月29日 焼き肉の日企画 にーにだって立派な料理人ですっ!
火の一月(八月)二十九日。
地球の日本では色々な日が制定されているけれど、私が真っ先に思いついたのは焼き肉の日。
昼食は二十九日の肉の日としてお肉中心のメニューなのがすっかり定着し、今日一緒にお休みなアルフ少年と午前中の近くの集落へ食材などなどの買い出し後に美味しく頂きました。
ちなみに今日は豚肉中心メニュー。厚切りで食べ応えのある生姜焼きをメインに、豚汁と冷しゃぶサラダ。お野菜もたっぷり美味しく食べられる工夫は流石のものです。
食後に少しばかりお昼寝をし、その間にアルフ少年は集落で買ってきた新しいレシピ本を読んでいたみたい。
起きてすぐにその本でアルフ少年が気になったらしいソースのメニューのページを見ながら、持っている食材でもっと美味しくなりそうな組み合わせをあれこれ話し。
折角だからその試作を作ってみようということで、ついでに無料で調達できる材料を集めに農作部隊へ。
虫除けを兼ねている唐辛子やセージやタイム、イタリアンパセリなどのハーブ、木に実っているリモーネ(レモン)などを許可を得てから収穫しながら北の魔王城の外周をぐるっと周るようにお散歩。
夏だから暑いは暑いけど、木陰もあるから日本みたいなジメッとした湿度はない分過ごしやすい。
そうして歩いていると、とても食欲そそる香ばしい香りが風に乗って漂ってきた。
思わずアルフ少年と顔を見合わせ、香りの元を辿って歩き出す。
木々の間を抜けていくと、少し開けたスペースでその辺の大きめの石を組み合わせた上に焼き網を乗せただけの即席の焼台を囲んで肉を焼いている六人の少年。
その中に見知った顔があった。
「あ、イオにーたん」
「あぁ?」
思わずその名を呼ぶと、焼けた肉に噛み付きながら振り返るイオ少年と、外警部隊の同じ班員でよく一緒に行動している他の少年達。
「あ、ユーリちゃんじゃん」
「調理部隊のアルフも一緒かー」
「何だ、匂いに釣られてきたのか?」
「そっちも休み?」
「でかい肉安かったんだよ。食ってくかー?」
わいわいと明るく声を掛けてくれる少年達。うーん、実に陽キャだわ。
イオ少年はこの中だとツンデレキャラなのかも。
取り敢えず、お誘いいただいたので近づいてみたんだけど。
「「うわー……」」
思わず、アルフ少年と一緒に声を漏らしてしまった。
確かに、話に出てきた大きな牛肉の赤身のブロックがある。パッと見、内ももの柔らかそうな部位で、肉質もまずまず。
ただ、網の上に載っているお肉の切り方がとても独創的。お肉の繊維を切ってないから噛むのが大変そう。
というか、切ったナイフ自体も切れ味が悪そうだ。
それを気にも留めずに焼いて、一緒に買ってきたであろうお徳用の使い捨ての食器に乗せて食べている。
味付けは潔く(?)塩のみである。
ちょっと引いている私達をよそに、新しい食器に焼けたお肉を載せて渡してくれたんだけど。
何なら私の分は一口大に切り分けてくれている親切さまであるんだけど。
一口食べてみたものの、やはりと言うか、嚙めども噛めども肉の繊維が嚙み切れない。
何とも言えないお肉独特の匂いも少しする。
「…………」
「ユーリ、ペッしな」
ひたすらにもっきゅもっきゅ噛み続けていると、見かねたのかアルフ少年がペーパーを差し出してくれた。
これには外警部隊の少年達が少し非難の表情を覗かせたが、アルフ少年も負けじとキッと鋭い視線を向ける。
「お前ら、勿体無いからまずはそれを食いきれ。あと、ユーリのも」
「何だよ」
「分けてやんないぞ」
「馬鹿野郎。オレ達が本当の美味い焼肉を教えてやる」
ペーパーに私が噛み切れなかった肉を包み、そのまま焼台の脇に置くなり、アルフ少年が焼台の傍らに置かれたトングで焼台に残っていた肉を外警部隊の少年達の皿に均等に分ける。私のお皿もイオ少年にちゃっかり押し付けた。
当然文句が出たが、アルフ少年の宣言にそれぞれ顔を見合わせる。
「ユーリ、ついでにここで試作するぞ」
「あい、にーに」
続いたアルフ少年の言葉に、勿論いいよと頷く。
トングを置くなり、アルフ少年が次に取った最初の行動は、お肉の切り分け。
愛用の肉切り包丁を取り出し、慣れた手付きでお肉を焼肉用に切り出していく。
いくら調理部隊の下っ端といえど、各種下拵えを担い、最近では調理にも少しずつ携わっているアルフ少年である。
その技術はかなりレベルが高い。
事実、焼けた肉をムスッとしながら食べていた外警部隊の少年達の目がその技術に吸い寄せられている。
十分ほどで大まかなブロックに分け、簡単に筋取りと余分な脂の切除を行い、少し厚めの美味しそうな焼肉用のお肉に切り分けられた。
私はその間に午前中に集落でお買い物していたきゅうりを五本ほどざっくり乱切りして取り出したボールに塩もみし、サンチュとサニーレタス中間のようなサラダ菜を取り出して水の魔術で洗ってバットに載せておく。
「にーに、ボク、リモーネのたれ作るー」
「まかせた。ならオレはオル葱のたれだな」
アルフ少年が肉切り包丁と手を洗ってしまったのを見て申し出ると、それぞれが空間魔術で収納している材料を取り出す。
私はレモンとオリーブ油、塩コショウに葱もどき。アルフ少年はオル葱にニンニク、生姜、醤油、酒、砂糖、ごま油。
今日アルフ少年と試作しようと思ったソースの一番簡略化した材料です。
私が葱もどきを刻む横で、アルフ少年は素早く材料をすりおろしていく。
「にーに、少しニンニクと醤油くだしゃい」
「ほれ」
ボールに適当に材料を入れ、どさくさ紛れにアルフ少年から足りない材料を融通してもらう。
それをスプーンでグルグル混ぜて味見をしている間に、アルフ少年は小鍋に材料を入れて、焼台に乗せて少し加熱。
やがて広がるいい匂いに、持っていた肉をほぼ食べ終えていた外警部隊の少年達が唾を飲んでゴクリと喉を鳴らした。
その横で、塩もみしていたきゅうりを水洗いして、さらしを使って可能な限り水を絞り、以前に作り置きしていたキムチの素もどきとボールに戻して和える。
「にーに、できたー」
「……って、ユーリ、お前また新しいモン作ったな!」
「あい、箸休めー」
本当は調理部隊の飲み会でお披露目しようと思ってたんだけど、焼肉にはやっぱりキムチが合うからなー。
目敏くアルフ少年に気付かれちゃったけど、まあいいでしょう。
お互いのタレも再度味見して微調整してっと。
「……ったく。まぁ、ちょうどそっちも肉食べ終わったみたいだし?」
まだ少し納得いかないながらも、アルフ少年の目は外警部隊の少年達の皿に向かう。
「んじゃあ、折角肉のお相伴に預かるんだ。美味い焼肉にしてやんよ」
アルフ少年の宣言と共に、その手には焼台の横に置かれていた焼き専用のトングが握られた。
綺麗に切り分けられた肉が網に載せられ、一緒に置いてあった塩に加えてアルフ少年の胡椒ミルから胡椒が振りかけられる。
その間に、私は少年達の前のお皿を回収して、焼肉のたれ二種ときゅうりキムチとサンチュもどきを新しいお皿でサーブしていく。勿論、私達のも。
立ち昇るいい匂いに少年達の目線が焼台に釘付けにされる中、アルフ少年に完璧な焼き加減でお肉がひっくり返されると謎の歓声が上がった。
「ヤバい!」
「何だこれ、同じ肉とは思えない!」
「調理部隊マジか!」
「え、肉だけでも絶対美味いヤツじゃん!」
「これにタレと葉っぱまでってエグい!」
「アルフ、お前、次も来い!」
「お前らうるさい。……よし、皿出せ」
ぎゃいぎゃい元気に叫ぶ少年達に顔を顰めつつも、肉の焼き上がりをアルフ少年が告げると、一斉に空の皿が差し出される。
それに順番に焼けた肉を三枚ずつのせるアルフ少年に、全員が何も付けずにまずは一枚を口に入れる。
「「「「「「何だコレ、柔らか……!」」」」」」
「正しく肉を切ってやれば、これだけの潜在力があるんだよ」
ちゃっかり自分も口に放り込み、私の皿にも載せつつ、アルフ少年が感動の声を上げる外警部隊の少年達に答える。
その間もその手は次の肉を焼き始めていた。
うん、即席のたれもいいお味。成功。
これをいくらか作っておいて。そこにハーブ入れたりすれば更にソースとしても展開していけるわ。
「え、これでも美味いのに、タレ付けたらどうなんの?」
「うわ、リモーネのやつ口サッパリする!」
「オル葱のやつ、めっちゃ肉進むー!」
「これ食ったら、さっきのヤツ確かにヤベーわ」
「てか、当たり前に食材とか調味料とか器具持ってんだな」
「このちょっと辛いヤツも美味いー」
ワイのワイの盛り上がる外警部隊の少年達の皿に完璧焼き加減のお肉が、アルフ少年の迷いのない手つきで平等に次々と載せられ、更に少年達の手によって延々とその口に運ばれていく。
「お肉をお野菜で包んでも美味しいでしゅよー」
夕飯もあるし、私は五枚ほどいただいたらご馳走様。
本当は焼くのをアルフ少年と代わりたいけど、火の前に立つには危ないとアルフ少年と外警部隊の少年達に制された。
なのでお皿のたれの補充やらをしながらオススメの食べ方を伝えると、外警部隊の少年達がすぐに実行する。
「野菜も焼いてやんよ。モコロシとトゥート、オル葱の美味いヤツ」
「お米いるー? 甘いのもあるよー」
「「「「「「調理部隊さまー!」」」」」」
気持ちのいい食べっぷりについついアルフ少年とお世話を焼いていると、謎に崇められ始めて笑ってしまった。
十代の無限胃袋の前にあれだけあった牛赤身ブロック肉もその姿を消し、最後に焼台の傍らにあった私の嚙み切れなかったお肉を包んだペーパーや水分を魔術で飛ばした使い捨ての食器類も炎にくべられ、最後に火の始末と片付けを行う。
「「「「「「是非、今後ともお付き合いのほどよろしくお願いいたします」」」」」」
「何だそれ」
「にーに、とっても料理上手なのよー」
「ユーリもな」
「「「「「「いや、二人とも上手いから」」」」」」
交際申し込みのごとく、六人に一斉に手を差し出されてアルフ少年が困惑する。
それに我が事のようにふんぞり返ってアルフ少年を自慢すると、アルフ少年に頭を撫でられた。
二人でほのぼのしていたら、外警部隊の少年達に揃ってツッコまれた。
「先輩達が調理部隊と仲良くなれたらラッキーって言ってたの、これか」
「確かにラッキー」
「絶対下手な店より美味いし」
「っていうか、大元の食材費よりも追加分がでかすぎんか?」
「イオ、よくぞユーリちゃんと顔を繋いでた」
「アルフも釣れてめっちゃついてんじゃん」
更に続いたそんな会話に、アルフ少年と再度顔を見合わせる。
「にーにも、他の部隊のおともだちよかったねぇ」
「……まぁ、知り合いが増えるのは悪くないか」
「うふふー」
新しいトモダチに少し照れつつそっぽを向くアルフ少年が可愛いです。
思いがけない焼き肉の日にはなったけど、いい思い出が増えましたとさ。まる。




