8妖精のシャン
「マノノー!」
私が鼻歌交じりでドレスを眺めていると、窓の外から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
振り向くと、一人の妖精が窓からすっと入ってきた。
「シャン!」
「マノノ、無事だったか?」
「ん? マノノは無事だよ? シャンこそどうしたの?」
「マノノが人間に付いて行ってからずっと連絡もないし、心配だったんだ」
「シャン、ごめんね。忘れてた。でもマノノは大丈夫だよ! レノンはとっても優しいもん」
「マノノ、あんまり人間を信用するのはよくないぞ? 俺はマノノが心配だ」
「大丈夫、大丈夫。マノノは大丈夫だって。ほらっ、シャン。見て見て、このドレス可愛いでしょう?」
私はシャンの心配をよそにシャンにドレスを見てほしくて立ち上がり、くるりと回って見せた。
「うん。とっても似合ってる。作ってもらったのか?」
「侍女さんっていう人たちに作ってもらったの。この家具はねー、こっちはミューが作ったもので、この家具はレノンが作ったんだよ。凄いよね。それにこの果実水、初めて飲んでみたんだけど、とっても甘くて美味しいの」
私はシャンに果実水が入ったコップを手渡すと、シャンは一口飲んで羽根をパタパタと動かしている。
「美味いな。で、マノノはいつまでここに居るんだ?」
「んーわかんない。レノンのお母さんが病気だからそれを治さないといけないし」
「そうか。治療してから戻ってくるんだな。人間は俺たちのことをすぐ忘れてしまう。見えない奴らだって増えているんだ。マノノも気を付けろよ」
「うん。マノノは大丈夫だよっ」
シャンはそう言ってコップをテーブルに置いて羽根をパタパタと動かして飛び上がった。
「……だといいんだが。いいか? 何かあったらあの笛ですぐ俺を呼べよ?」
「わかった。あれ? シャン、もう行っちゃうの? レノンに会っていかないの?」
「ああ、俺はマノノが心配だっただけだからな。マノノが元気そうにしているならそれでいい。じゃあ、またな」
「うん、シャン心配してくれてありがとう。またねっ」
シャンはそう言ってあっさりと行ってしまった。
他のみんなは元気かな?
マノノはみんなに心配かけないように頑張らないとね。
私は鼻歌を歌いながらレノンが戻ってくるのを待った。
「マノノ様、明日、近くの森へ遊びに行きませんか?」
部屋に戻ってきたレノンは笑顔でそう話し掛けてきた。
森に行くの?
本当?
私は森へ行けると思うだけでわくわくする。だって森にはたくさんの木があって、花も咲いていて、動物もいて、妖精もいる。
彼らに会えるのはとても嬉しいの。
だってみんな仲良しだからね!
「やった! マノノ、森にいく!」
「よかった。妖精は自然が好きだとクスターから聞いたんです」
「うん! マノノ、森大好きだよっ」
「では準備をして向かいましょうか」
「うん!」
と言っても私は荷物なんてないし、レノンの準備を待っている。
人間は移動するにも色々と準備が必要なんだね。私は自分の椅子で足をぱたぱたと動かしながら、レノンたちが森へ行く準備をしているのを見ていた。
翌日、レノンたちはピクニックの準備をした後、馬車に乗って、レノンのお家が所有する森へと出発した。
レノンは馬車の中で「森には獣がいるし、道に迷いやすくて危険だから入り口だけですよ」って話をしている。そうだよね、森は迷いやすいものね!
カラカラと軽快な音を聞いているうちに目的地へと到着した。
馬車から降りると、すぐに鮮やかな緑が目に飛び込んできた。
穏やかな天気に植物たちも生き生きとしている。これなら他の妖精とお話ができるかもしれない。侍女さんたちは敷布を敷いてお茶の準備をしている。
レノンはというと、一緒にいた護衛さんに剣を教わっている。元気になって剣術を習うのを待ちきれないみたいだね。
「レノン頑張って! マノノ、レノンを見てるね!」
「マノノ様が応援してくれるなら私も頑張らないといけないですね」
彼は微笑みながら軽く手を振った後、剣術の練習をしている。
私はその様子を敷物の上で見ていたんだけど、一匹の狼がトコトコと森の中から出て来て私の前でちょこんと座った。
侍女さんは驚いて固まっている。
レノンたちは気づいていないみたい。
「狼さん、どうしたの? あれ? お腹のところを怪我しているのねっ」
どうやら狼は私を見つけ、怪我を治してほしくて森から出てきたみたい。
「治すからちょっと待っててね!」
私は鈴を取り出し、狼の頭の上に乗ると、狼はゆっくりと伏せをして踊りやすくしてくれたようだ。
「くるり、くるり、かろやかなおどりとともにいたみよ、なくなれ。おおかみのきずよ、ちいさくなれ、かろやかなかぜはかのものにまもりをあたえたまえ、くるり、くるり」
狼の傷口は淡い光を帯び、風に乗って光とともに傷が消えていく。
「狼さんっ、もう大丈夫だよ!」
「クゥ」
狼は喜んでパッと立ち上がり、私はコロンと落ちた。
「ひゃぁっ」
「クゥ」
立ち上がろうとしたとき、狼は私を一舐めしてパクリと咥えて森に向かって走り出した。




