7 レノンの治療
「父さん、母さん、おはようございます。母さん、体調はどうですか?」
「ええ、とても素敵な気分よ。これもみんなマノノ様のおかげね」
「レノンのお父さん、お母さん、おはよう!」
私はレノンの肩からぴょこりとテーブルの真ん中に降りて挨拶をする。
「マノノ様、おはようございます。今日は黄色のドレスなのですね。とても可愛いわ」
「えへへっ。これはねー、レノンが可愛いって言ってくれたの!」
「マノノ様? 私には何も見えないが。そこに妖精がいるのだろうか?」
レノンのお父さんは新聞をテーブルに置いて、辺りを見回しているけれど、私とは目が合わない。
残念ながら彼にはマノノの姿は見えないみたい。
「あら、貴方には見えていらっしゃらないのね」
「残念だが、そうみたいだな」
「母さん、今は妖精を見れる人はあまりいないという話です。仕方がありません」
「そうよね。こんなに可愛いマノノ様の姿を見れなくて残念だわ」
「……」
レノンのお父さんは仕方がないよね。
彼はまた新聞を読み始めた。
「食事をはじめましょうか」
マノノのお母さんが流れを変えるようにそう言うと、侍女さんが料理を運びはじめた。
もちろん私のお皿もレノンの横に準備されていて、私はレノンの隣に座ってパンを食べ始める。
「レノン、美味しいっ! この果実水もとっても甘くて好き!」
「マノノ様のお口に合って良かったです」
「ふむ、妖精がいるのは本当のようだな」
レノンのお父さんは私を見ることはできないけれど、減っていくパンを興味深そうに見ている。
「父さん、私の身体もマノノ様に治してもらっているんです。元気になったら剣術を習ってもいいでしょうか?」
「ああ、もちろん構わない。だが、しっかりと医者に診てもらった後だぞ?」
「父さん、ありがとう」
レノンは嬉しそうに顔を綻ばせながらまた食事をはじめた。
レノンが嬉しそうにしている。
本当によかった。
私も嬉しくなってくる。
「マノノ様、食事が終わったらまた母さんの治療をお願いできますか?」
「うん、いいよ! レノンが喜ぶとマノノも元気になる」
私はパンをもぐもぐと食べながら答えた。レノンは私を見て嬉しそうに微笑んでいる。
レノンが喜ぶ姿を見るのはとっても嬉しい。
お腹いっぱい食べた私はまたレノンの肩に飛び乗りゆっくりと周りを見渡す。
やっぱり私の姿を見れる人は少ないのね。ちょっと寂しく思うけれど、こればかりは仕方のないことだって私にもわかる。
神官さんたちはいつも嘆いていたっけ。
今ならその気持ちも少しはわかるかな。
私たちは食事を終えて、一旦部屋へと戻った。
少しゆっくりしてからレノンのお母さんのところへ行くみたい。
レノンは戸棚から作りかけの小さな家具を取り出し、彫刻刀でゆっくりと削り始めた。
「レノン」
「マノノ様、何でしょうか?」
レノンは手を止めて私の方を見ている。
「レノンのお母さんの前にレノンが元気になる。横になって」
「私は本当に剣の練習ができるくらい元気になるのでしょうか?」
「うん。レノンならきっと強い剣士にだってなれる。だって私がレノンのために踊っているんだもん」
「そうですね」
レノンは嬉しそうに彫刻刀を机に置いてベッドに横になった。
私は彼の胸の上で準備をし、深く息を吐いた後、チリンと鈴を鳴らす。
「くるり、くるり、あしきもの、かろやかなおどりとともにうきあがれ、くるり、くるり。くるりとおどれ、かみのなのもとに。レノンにちからをあたえたまえ、くるり、くるり」
レノンの病気と激しい運動に耐えられるほどの体力を願いながら踊っていく。
前回は胸のところから黒い靄が浮かび上がったけれど、今回、黒い靄はすぐに出なくなった。
代わりに緑の淡い光がレノンを優しく包んでいく。
ステップを踏み終えると、レノンの頬には赤みがさしている。
「レノン、どう?」
「マノノ様、凄い。身体が軽いです」
「よかった。レノンはもう元気だよ。もう大丈夫」
「本当ですか!? ああ、聖樹様。本当に感謝します」
レノンは起き上がり、聖樹に祈りを捧げ、彼の涙が頬を伝っている。
彼はきっと今まで辛い思いをしていたのかもしれない。
こうして彼を治療できて良かった。
私は静かに窓際に置かれた椅子に座った。
今の時期はとても穏やかな日差しで植物たちも元気な光を浮かばせている。
換気のために開けられた窓からは心地よい風を感じ、私はゆっくりと日の光と植物たちの元気を吸い込んだ。
「マノノ様、綺麗……」
聖樹へのお祈りを終えた彼は私の姿を見てぽつりと呟いた。
「えへへ、レノンに綺麗って言われちゃった。マノノは妖精だからね。こうやっておひさまや植物から少しだけ元気をわけてもらえるの」
「そうなんですね。私も元気になったし、少し父と話をしてきます。話はすぐに終わると思うのでマノノ様はここに居て下さいね」
「わかったー」
そうしてレノンは部屋を出ていった。
私はというと、クローゼットを開けて、作ってもらったドレスをにまにまと眺めていた。




