39 レノン視点
いつものように学院から戻り、クスターの「夕食の準備ができました」という言葉で私は食堂へと向かった。
どうやら私が最後だったらしく、父と母が席に着いていた。
私が席に着くとすぐに食事が運ばれてくる。父が聖樹への感謝の祈りを捧げ、私たちは食事を始めた。
「今日、学院でエリシャ様と会ったんだ。立ち話だったけれど、エリシャ様はまた我が家に来たいって言っていたから、『母さんも喜ぶし、今度の週末にでも我が家に来て欲しい』って言いました」
私はいつものように父と母に今日あったことを話し始める。
「ふふっ、エリシャ様が我が家へ来るのね。嬉しいわ」
「……大丈夫なのか?」
父の言葉に私も母も不思議に思い、聞き返してみた。
「何が大丈夫なのですか……?」
「レノン、いや、お前がそれでいいのならいいのだが……」
「父さん、変ですよ」
「そうよ、ミルド。少し変よ。ふふっ、エリシャ様が来るのが楽しみだわ。エリシャ様が好きだった蜂蜜たっぷりのお茶を用意しておかないとね……。? 蜂蜜たっぷり? だったかしら」
「母さん、しっかりしてください。エリシャ様が好きなのは王都で飲まれている花を浮かべたお茶です」
「……ええと、そうだったわね! ちゃんと覚えているわ ?」
母は一瞬何かを考えていた様子だった。
何だろう?
父も私たちを見ているし、何か変だ。
……?
なんだろう。
何かを忘れているような、心の中がざわめくけれど、その正体がわからない。
夕食を終えて、私はいつものように部屋に戻った。こんな時間に窓が開いている……。
!?
マノノ様!
「マノノ様?」
「レノン! レノン!」
マノノ様は私の胸にぎゅっと掴まり、私の名を呼んでいた。私はいつものようにマノノ様の髪を撫でて彼女を落ち着かせる。
私は、彼女のことを忘れていた……?
そう考えると、私は一気に背筋に冷たい物が走った。
だからあの時、父さんは大丈夫かって声をかけたのか。
マノノ様のことを忘れるなんて私らしくない。
きっと疲れているだけだ。
毎日、学院の授業や剣の練習や領主の勉強で手いっぱいだったからだ。きっとそうに違いない。
私はマノノ様のことを忘れていたという事実に恐怖を感じた。
なぜ大切なマノノ様のことを忘れてしまっていたのか。疑問に思っていると、扉がノックされた。
「レノン様、エリシャ様からお手紙が来ております」
「ありがとう」
私の不安はクスターの声でかき消される。彼女からの手紙。私ははにかむ気持ちを隠すように手紙を受け取り、すぐにペーパーナイフで開封する。
エリシャ様の手紙をゆっくりと開き、彼女の文字を目でなぞっていく。クラスメイトの話や伯爵家の話が書かれてある。どれも他愛のない話だが、私にとってはそれさえも嬉しく感じてしまう。
すぐに返事を書こう。
彼女は私のことをどう思っているだろうか。
芽生えたこの想いは日に日に膨らむばかりで消すことができそうにない。
私はすぐに机の引き出しからレターセットを取り出し、彼女のことを思いながら手紙を書きはじめた。




