36妖精の祝福を受けたセノール
「こんなところに妖精……?」
そう小さな声がした。
振り向くと、一人の男の人が私を興味深そうに見ている。この人は私を見ることができるのね。見えなくしていたはずだけど。
彼も妖精の祝福を受けているのかもしれない。
私はふわりと彼の前に降り立った。
「私はマノノ、貴方の名前は?」
私はにこにこと笑顔で名前を聞いてみた。
彼は先生の様子が気になるのか周りを気にしながら小さな声で「セノールだよ」とぼそりと呟いた。
「セノールは妖精の祝福を受けているんだね!」
「そうだよ。なんでマノノはここに居るんだ?ここは妖精がこれる場所じゃないだろ」
「セノール、どうしたんですか?」
「いえ、先生。なんでもありません!」
静かな教室で私と話しをしたから先生に注意されてしまったみたい。
レノンは私を見て驚いている。
「レノンー」
私はセノールのことが気になったけれど、レノンのところに飛んでいき、胸ポケットに戻った。
ちゃんとレノンと約束したし、静かにしてよう。
そう思ってじっとしているうちにレノンの温かさにウトウトと眠くなってきた。
そうこうしているうちに授業が終わったようだ。眠気と戦うように目を擦り、ぼーっとしていると、セノールがレノンに声をかけてきた。
「レノン、マノノって君の妖精?」
「セノール、君には見えるんですか?」
「ああ、俺は妖精の祝福を受けているからな」
「妖精の祝福っていうのは何ですか?」
「妖精からの祝福を受けた人のことだ。俺は祖母に妖精が付いていて、その妖精から祝福を送られたんだ」
レノンはセノールに妖精のことを聞いている。
「妖精の祝福を送られた人はどんな変化があるんですか?」
「妖精の姿を見ることができる。あとは幸せな人生を送ることができるという話だな。これは本当かどうかわからないが」
「マノノ、君はレオンに付いているのか?」
「うん、そうだよー! レノンのお母さんが病気だったから」
「そうか。学院に来るのは感心しないが、レノンに付いているのなら仕方がない」
「マノノ様が学院に付いてきても問題ないのですか?」
「まあ、どうせ誰も見えないんだから構わないだろう。それとも何か、レノンはマノノが付いてくるのが嫌なのか」
「……そんなことは」
レノンは図星を突かれたのか一瞬口ごもった。
「まあ、家で待ってもらっていた方が安心だけどな。妖精は動き回るもんだし、レノンも心配だろう」
「そう、ですね」
「マノノ、いい子だよ? ひなたぼっこで時間を潰したり、レノンのポケットの中にいるだけで静かにしているもん」
「そうか、なら大丈夫だな」
セノールは私の言葉を聞いてふわりと笑った。
「マノノ様、今日は午後の練習は休んで邸に戻ります」
「わかったー!」
「マノノ、じゃあまたな!」
「うん!セノール、まったねー♪」
レノンは立ち上がり、セノールに別れを告げて教室を出ると後ろから「ごきげんよう」とクラスメイトがレノンに挨拶をしてくれている。
レノンは午後の倶楽部を休むために職員室というところへ行って、先生に挨拶をしてから学院の入口へ向かって歩き始めた。
「レノン、楽しかった! 人がいっぱいいてみんな勉強してたね! マノノいい子にしていたでしょう?」
「そうですね。セノールに見られたのはまずかったですが」
馬車がたくさん停まっている場所までやってきた。
「レノン坊ちゃん、今日はもうお帰りですか?」
「ああ、少し早いが」
私たちは馬車に乗り込むと、レノンが疲れたようにふうと息を吐いている。
「レノン、疲れた?」
「ええ、少し」
「お家に帰ったらマノノ、レノンの疲れが治るように踊るね!」
「踊らなくても大丈夫ですよ」
「そういえばさっきセノールに見られたのはまずかったって言ってたけど、ダメだったの?」
「いえ、ダメではありません。ただ、私は少しばかり彼が苦手というだけで……」
「ふうん? そうなんだ」
レノンは困ったような笑顔を見せている。
私から見たセノールは悪い人には見えなかったんだけどなぁ。
馬車はすぐに邸に戻り、レノンは私を胸ポケットに入れて部屋に向かって歩き始めた。
「レノン坊ちゃんお帰りなさい。マノノ様もお帰りなさい」
「クスターさん、たっだいま~☆」
私は出迎えてくれたクスターさんに元気よく手を振った。
「マノノ様、突然飛んで行くので驚きました」
「えへへ。マノノ、どうしてもレノンと一緒に居たかったの。ごめんね、心配かけて」
「……」
私とクスターさんが話をしているけれど、レノンはあまり機嫌が良くないのか黙っている。
何かあったのかな……?
クスターさんと目が合うと、おやおやとクスターさんが意外な顔をしている。
「マノノ様、お部屋に戻ります」
「うん。じゃ、クスターさん。まったあとでね」
「はい」
部屋に戻るとレノンは私を机の上にそっと置いてベッドへ寝っ転がった。
やっぱり調子が悪いのかな。




