35 マノノの不安
「レノン!」
目を覚ますと、一番にクスターさんが視界に入ってきた。
「マノノ様、お目覚めになりましたか」
「クスターさん、レノンは?」
「レノン様は先ほど戻られ、今は旦那様と執務室で話をしておりますよ」
「本当!? レノンに会いに行く!」
「分かりました。では参りましょうか」
「うん!」
私はふわりと浮かび、クスターさんの肩に止まった。
「マノノ様、体調は大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫」
レノンのお父さんのいる執務室へ私たちは入った。
「レノン!!」
私は部屋に入ってすぐにレノンの姿が見えたので、レノンに向かってピュンと飛んだ。
「マノノ様。大丈夫でしたか?」
レノンは私を優しく抱き留めて頭を撫でている。
「レノン、レノン、えーんっ」
「マノノ様、大丈夫ですよ。今日はもうどこにも行きませんから」
「マノノ、寂しかったのー。レノンいないと元気が出ないの」
「よしよし……。さあ、お部屋に戻りましょうか」
「話はもういいの?」
「終わったから大丈夫ですよ」
「うん!レノンのお部屋にいくー」
「では父さん、母さん、またのちほど」
「レノン……」
レノンのお父さんは珍しく心配そうな顔をしている。
一体レノンとどんなお話をしたのかな。
私はレノンにくっ付いていたため、徐々に体力が戻ってきている。
「レノン、何しているのー?」
部屋に戻ってからレノンは珍しく縫物をしていた。
「マノノ様が寂しくないように新しいぬいぐるみをまた作っているんです。私は卒業するまでの間、帰りが遅くなる日もでてくると思うので」
「レノン、遅くなるの?」
私はまた不安になって涙がぽろりと零れた。
それを見ていたレノンは私の頬を優しく撫でている。
「だからこうして少しでも多くのぬいぐるみを作っているんです」
レノンは私が抱えられるほどの大きさのぬいぐるみを縫ってくれている。
それはとても嬉しいのだけれど、違うの。
そうじゃないの。
「私は、レノンが傍にいないと不安で消えちゃうのっ」
「大丈夫ですよ。ほらっ、一つできた」
レノンは丸くて小さなウサギのぬいぐるみを作って渡してくれる。
「私は母のように手足の付いた人形は上手く作れないですが、これならなんとか作ることができます」
「レノン! ありがとう! マノノ、嬉しい!」
私はレノンが一生懸命作ってくれたウサギのぬいぐるみを抱きしめてふわふわと宙に飛んだ。
レノンはその姿を見て少しホッとしている。
本当は、ずっとくっついていたい。
ずっとレノンの傍にいたい、そう思ってるのに上手く口に出せない。
私はウサギのぬいぐるみを抱えて少し開いた窓の枠に座り、静かに月を眺めた。
翌日、いつも通りにレノンと食事をしてレノンは学院へ向かう準備をしている。
私もレノンについて行きたい。
よし、私も学院について行こう!
私はそう考えていそいそと準備をする。
「マノノ様、では行ってきます」
「レノン、行ってらっしゃい」
私はそう言ってレノンをいつものように見送るふりをして玄関が閉まる間際にすっと外へ飛んで出た。
大丈夫、レノンは気づいていないみたい。
「レノン様、おはようございます」
御者さんは扉を開けて待っている。一緒に中に入ったらすぐに戻されちゃうから私は馬車の後ろの足場にそっと座った。
ここならレノンにばれないわ!
レノンは馬車に乗り込み、扉が閉まった。
「出発します」
そうして馬車はカラカラと出発する。門を出たところでクスターさんの姿が見えた。
きっと私が出て行ったのを追いかけてきたんだ。
私はクスターさんに手を振ってみると、クスターさんは驚いた顔をしたまま立ち止まっている。
大丈夫、すぐに戻ってくるから!
こうして私は無事にレノンの家を出た。ちゃんと学院までの道は分かってる。だって聖樹から学院は見えていたからね。もし、何かあれば聖樹に戻れば問題ない。
私は鼻歌を歌いながら通り過ぎていく街の様子を眺める。
たまにガタンッと馬車は揺れたけど、ちゃんと掴まっていたから馬車から落ちずに済んだ。
十分くらい走ったかな?
馬車は学院の前で停まり、レノンが馬車から出てきた。
「レノン~♪」
「マノノ様!?」
「付いて来ちゃった」
「ええぇっ。困ります。ここは勉強するところなんですから」
「大丈夫。マノノ、静かにしているから」
レノンは困った顔をしていたけれど、観念したように胸ポケットを指さした。
「絶対、静かにしていてくださいね?」
「うん!」
私はレノンの胸ポケットにスッと入り、顔を出した。
「レノン、おはよう」
「ジャック、おはよう」
「レノン様、ごきげんよう」
たくさんの人たちがレノンに声をかけている。教室というところではレノンと同じ年の人が楽しそうに話をしている。
みんな私の姿が見えていないので私はゆっくりと観察できる。
授業が始まり、レノンは部屋の真ん中の席に座った。
レノンや教室にいる人たちは静かに勉強をしている。私は退屈になり、レノンの胸ポケットからスッと飛び出て窓際で日向ぼっこを始めた。
「こんなところに妖精……?」




