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小さな妖精の恋の詩  作者: まるねこ


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33 アリーサ視点

「マノノ様っ!」


 マノノ様はレノンの帰りが遅くなるという一報でパニックになり、部屋中を飛び回り、ランプにぶつかって倒れてしまった。


 私は落ちてきたマノノ様をそっと手の中に包み込む。


「ティーラ、冷たい水を」

「はい。すぐに」


 侍女は急いで部屋を出ていった。


 私はマノノ様をそっと彼女のベッドに寝かせ、頭を撫でる。


 こんなに小さな妖精が私やレノンの病気を治してくれた。感謝しかないというのに。


 レノンは一体何を考えているのかしら。


 いえ、理解はできるわ。今までしたくてもできなかったことができるようになってはしゃいでいる。私だって嬉しくてしかたがない。


 でも、マノノ様はレノンをこんなにも必死になって呼んでいるのに。レノンに「戻ってきなさい」というべきか。


 次期子爵として交流を持つことも大事なことではあるの。


 ……どうすればよいのかしら。


「アリーサ様、水とハンカチをお持ちいたしました」

「ありがとう」


 私はすぐにハンカチを水に浸して、絞り、マノノ様の額を冷やしていく。


 マノノ様は体いっぱいで歌ったり、笑ったり、悲しんだりしてその姿は幼い子供のようで愛らしい。


 きっとマノノ様はレノンのことが大好きなのだと思う。


 妖精の愛情はとても深いもの。それはとても素晴らしいことだけれど、裏切ればその分憎しみに変わるのではないかと思うと恐ろしい。


 ミナはマノノ様を閉じ込めた。彼女自身、妖精の祝福を受けた子供だったと彼女の祖母は言っていた。


 なぜ彼女の祖母に会ったのかというと、廃人のようになってしまったミナを引き取りに来てもらったからだ。


 その時に彼女の祖母は驚き、口にしたの。妖精の祝福が呪いに変わっていると。


 あの時、レノンたちは窓ガラスが割れる音がしてあの部屋に向かった。きっとマノノ様の他にも妖精がいてマノノ様の危機を教えてくれていた。そしてミナがああなったのも妖精たちのせいなのかもしれない。


 私たちもマノノ様を雑に扱えば、同じような目に遭うのかもしれない。


 怖さを感じるけれど、愛らしいマノノ様にはいつまでも我が家にいてもらいたいと願っている。


「マノノ様の気持ちをどうすれば落ち着かせることができるのかしら」


 レノンの気持ちもわかるし、母として応援したい。けれど、マノノ様だって気持ちがある。それに先日会ったエリシャ様のことも気になる。


 彼女が我が家に来てからマノノ様は明らかに変わった。


 マノノ様に彼女を近づけない方がいいように思える。これは母親としての勘でしかないのだけれど。


 あの時、レノンもエリシャ様もお互いを異性として意識していた。彼女の家柄はよく、何もなければこのままレノンの婚約者に収まる。そうなった時にマノノ様はどうなってしまうのだろう。


 嫉妬に狂い、私たちに呪いを掛ける存在になるのかしら。


 レノンを含めてこの家に祝福をもたらす存在となってくれるの可能性もある。


「クスター、変わってちょうだい。ちょっとミルドのところへ行ってくるわ」

「畏まりました」


 私はクスターとマノノ様の手当てを交代し、夫のいる執務室へと向かった。


「ミルド、いるかしら」

「アリーサ、どうしたんだ?」

「ミルド、執務中にごめんなさい。今、レノンの帰りが遅くなるっていう一報でマノノ様が取り乱してランプにぶつかって倒れてしまったのよ」

「マノノ様が? レノンは何をしているんだ?」

「それが、クラスメイトと街に行くと」


「……そうか」

「あの取り乱し方。きっとマノノ様はレノンが自分から離れて行ってしまうのではないかって思っているわ。その辺を一度、レノンとよく話をしないといけないわ」

「ああ、そうだな。楽しいのは分かるが、妖精を無下に扱えば取り返しのつかない事態になるやもしれん」


「マノノ様はレノンを好いている。今は泣くだけで済んでいるけれど、それが他への攻撃に向わないとも限らないわね。

 レノンの婚約についても、マノノ様はエリシャ様を良く思っていないわ。

 先日、久々に会ったエリシャ・シルース伯爵令嬢との感触は良かったわ。レノンも彼女に好意を持っているみたい。我が家にとってもシルース伯爵家と縁づく好機なのに。残念だわ」


「場合によってはシルース伯爵令嬢との婚約を諦めざるを得ないだろうな。だが彼女がマノノ様をどう見ているかにもよるだろう」

「彼女にはマノノ様が見えなかったの。見えないってことは縁がないわよね。でも、レノンのことを考えると、「諦めろ」なんて言えないわ。マノノ様に聖樹へお戻りするように頼んだ方がよいのかしら」


 私がそう言うと、ミルドは渋い顔をしている。


「レノンに願われ、治ればもういらない、帰れと言われて納得するだろうか」

「そうね。勝手すぎるわよね。私はマノノ様には感謝しかないし、ずっと我が家にいてもらいたいわ」

「ならレノンを落ち着かせ、マノノ様が好む令嬢を連れてくるしかないだろうな」

「そうね」


 私はふうとため息を吐いた。


 今はとにかくマノノ様をなだめてレノンの帰りを待つしかない。


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