28 楽しい食事会
レノンのお母さんの病気を治して体力が戻るまでの数日間、日中は彼女の部屋で過ごすことになった。
今はくまのぬいぐるみを抱っこしながらふわふわと飛んでいる。
「レノンのお母さん、そろそろ体力もついてきたんじゃない?」
「マノノ様のおかげで以前よりもずっと身体が軽いです」
「そっか。じゃあ、またベッドに横になってちょうだい」
「わかりました」
私はレノンと離れて寂しいけれど、それでも彼の願いは叶えないとね!
ポケットから鈴を取り出し、踊りをはじめた。
―チリン。
黒いモヤは消えてなくなり、レノンの時のように淡い光が身体を包んでいく。
「マノノ様、温かい、です。今までと少し違って何か大きな力に包まれているような感覚だわ」
レノンのお母さんはそう呟いた。
彼女は感受性が強いのだと思う。光は見えなくても受け渡される力を感じているもの。
踊りを終えた私は鈴を仕舞い、ふわりと浮いて彼女に告げる。
「レノンのお母さん、もう大丈夫。病気は良くなったよ。聖樹の元気がいっぱい体に入っているからいっぱい動いても大丈夫。あっ、でも今日は身体から悪いものが出たり、元気が身体に入ったりしたから休んでね!」
「ほ、本当ですか……。マノノ様、あ、ありがとうございます。私、本当に、先は長くないと思っていたんです。でも、マノノ様が病気を治してくださったおかげで……」
レノンのお母さんはベッドから起き上がり、涙を浮かべて言葉に詰まっている。
侍女はすかさずレノンのお母さんの肩にショールを掛け、ハンカチを渡している。
「マノノは願いを叶えただけ。よかったね」
私は感極まっているレノンのお母さんや侍女さんを横目に日当たりのよい場所にふわふわと飛んでいき、日の光を浴びに行く。
レノンがいない間はこうして体力を回復させないとね。
そうして日向ぼっこをしているうちにレノンが家に戻ってきた。
「レノン、お帰りなさい」
私はレノンのお母さんと一緒に玄関ホールまでレノンを迎えにいった。
「母さん、寝ていなくて大丈夫なんですか?」
「ええ、レノン。マノノ様のおかげですっかり良くなったわ」
「レノンー。おかえり!」
「マノノ様、ただいま戻りました」
私は勢いよくレノンの胸に飛び込んでいく。
レノンは私を優しく抱きとめてよしよしと頭を撫でてくれた。
「父さんには報告したのですか?」
「ええ、もちろんよ。今日は快気祝いだって言っていたわ」
「楽しみだ」
今日はいつもより家の人たちは笑顔だ。
きっとレノンのお母さんが元気になってみんな嬉しいんだろうね。
私はレノンと一緒に晩御飯までの時間を過ごした。
「レノン、マノノねー」
「はい」
「それから、それから……」
今日あったことを一生懸命レノンに話すと、レノンは優しい表情で頷いて聞いてくれている。
「レノン坊ちゃま、マノノ様、お食事の準備ができました」
「ああ、わかった。今から行く」
クスターさんが夕食を告げにきた。
「マノノ様、お着替えを」
「着替えるの?」
クスターさんの言葉を疑問に思っていると、レノンは先に一張羅に着替えている。
「今日は特別な日ですから。おめかしをして参りましょう」
「うん! わかった!」
侍女さんに着替えや髪の毛を可愛くセットしてもらって、私はレノンの肩に乗り、レノンと一緒に食堂へと向かった。
どんなご飯なのかな。
パンも好きだし、お魚やお肉も美味しいの。
でも一番好きなのはやっぱり採れたての野菜や果物かな。
「レノン、楽しみだね♪」
「ええ、楽しみですね」
食堂に着くと、いつもはレノンの家族とクスターさんや侍女さんたちだけしかいないんだけど、今日は料理長って呼ばれる人や従者さんたちも壁際に立っていた。
それにレノンのお父さんやお母さんもいつもより立派な服装をしている。
「父さん、母さん、お待たせしました」
「レノン、待っていたぞ。マノノ様もどうぞこちらへ」
レノンのお父さんは見えていないけれど、私に気を使って声をかけてくれている。
どうやら私はレノンのお母さんとレノンの間に私の席が設けられている。
わたし用の机はリボンで可愛く飾られていてとても可愛い。
「私の机、とっても可愛い!」
「マノノ様、お気に召したようでよかったですわ」
レノンのお母さんが答えた。
二人ともとても柔らかな笑みを浮かべている。
私は笑顔でレノンと一緒に席に座った。
「聖樹様に感謝を。マノノ様、妻の病を治療していただきありがとうございます。本日はささやかながら妻の快気祝いです。たくさんお召し上がりください」
レノンのお父さんがそう言うと、一斉に食事が運ばれてきた。どの食事もお花の形や聖樹の形に盛り付けされていてとてもきれいなの。
「レノン、このお花の形のテリーヌ? 美味しいね」
「マノノ様が喜んでくれてよかったです」
私は美味しい食事に舌鼓を打っていると、レノンが話を始めた。
「先日、父さんには話をしたのですが、私の体調も良くなり、学院で先生から倶楽部に入らないかと誘われたんです。
ずっと外で遊ぶこともできなかったけれど、マノノ様のおかげで運動しても全く苦しくない。学生の間だけは私も倶楽部に入って運動したいと思うんです」
「レノンの体、頑丈になったからね!」
「先生に倶楽部に入りたいと伝えてたら、先生は喜んでくれました。明日、倶楽部の見学をして気に入ればそのまま毎日倶楽部に来てもいいそうです」
「そうか。よかったな」
レノンは午後も学院に行ったままになるのね。
寂しい。
でも、レノンがやりたいことは応援していきたいの。
「マノノ様、レノンの帰宅が遅くなるのならその分、マノノ様は私の部屋に居てもらえるのね」
レノンのお母さんは嬉しそう。
ちょっと複雑な気分。レノンのお母さんと一緒にいることは嫌じゃないの。
それよりもレノンと離れている時間が長いことが寂しくて怖い。
「マノノ様、不安にならなくても私は倶楽部が終わり次第、すぐに帰ってきますから」
「……うん。わかったぁ。レノン、すぐに帰ってきてね」
こうしてレノンたち家族は笑顔のまま豪華な食事を終え、私は何も言わず、レノンの胸ポケットに入って部屋に戻った。




