27 黒鈴
私たちは明り取りの鉄格子の前に降り立った。
「マノノ、気を付けろよ?」
「もちろんだよ」
私たちは窓の隙間から中へと入っていく。
石造りの地下牢は下に行くほど薄暗くてジメジメしていて、カビの匂いもしているし、私は好きになれそうにない。
地下牢はいくつかの部屋にわかれているようだが、私たちが入ったところはちょうどミナがいる場所だった。
ここの部屋にはベッドと壺が一つ置かれているだけ。
彼女はベッドに座って何か独り言を呟いている。
私たちは彼女の頭の上までやってきた。もちろん彼女の手の届かない場所だ。
「誰!?」
「あら、気づいたの? さすが祝福を受けた子供ね」
「私を助けに来たんでしょう? 私は妖精から祝福を受けているんだから妖精に助けてもらえるの」
「何を言っているんだ、コイツは。妖精の祝福を受けていても妖精に仇なす者を許す理由はないだろ」
「シャン、早くしようよ。レノンのお母さんが起きちゃう」
「ああ、そうだな」
私は黒い鈴を付け、シャンは黒い笛をポケットから取り出した。
「妖精の祝福は我らの願いと共に呪いに変われ」
私はそう言いながらチリンと鈴を鳴らすと、シャンは笛を吹き始めた。
「!! はあ? 呪いってなによ! 私はそんなの信じないんだから!」
ミナはそう言って飛び上がり、私たちを捕まえようとするけれど、私たちは更に上に飛ぶ。
「くるり、くるりと舞え。全ての悪しきものよ、この妖精の祝福を受けた者に集まれ。我らの祝福に仇なす者に苦しみを。くるり、くるり、集まれ、集まれ。祝福は呪いに切り替われ。くるり、くるり」
私が踊り始めると、壁や床の隅から黒いモヤが滲みだしてきた。
「ヒッ!」
ミナにも黒いモヤが見えるようだ。
私たちはミナを見下ろしながら踊りを続ける。
黒いモヤはじわじわとミナの周りに集まりはじめた。
「嫌! あっちにいって!」
ミナはベッドの上に乗って黒いモヤから逃げようとしているが、逃げ場のないこの場所では抵抗することもできず、じわり、じわりと足元からモヤがミナに纏わりついてきた。
「いやぁぁぁぁ! たすけてぇぇぇ!」
黒いモヤは彼女を包み込んでいき、とうとう彼女は黒一色になった。
モヤは彼女の口や目、鼻などから中に入り込んでいく。
それでも私たちは踊りを止めない。
シャンの笛の音に合わせて鈴が鳴る。
そうして私たちが踊り終わる頃には黒いモヤは無くなり、また静かさを取り戻した。
ミナは目を見開き、どこか一点を見つめている。
「シャン、いこっか」
「ああ。こんなジメジメで薄暗い部屋なんて一刻も早くおさらばしようぜ」
私たちはまた明り取りの窓から外へと出た。
「マノノ、この後どうするんだ?」
「私はまだこの家にいるよ。レノンのことが好きだし、離れたくないの」
「……そっか。俺はこのまま長老の元へ戻るよ」
「わかった。シャン、いつもありがとう」
私は黒い鈴をシャンに渡した。
シャンは真剣な表情で鈴と笛を鞄に仕舞っている。
「マノノ、また何かあったら俺を呼べよ? 心配だな。マノノは人間を好きすぎるからな。また同じようなことが起こらないといいんだが」
「大丈夫だよ。マノノも、もっとしっかりしないといけないと思ってるもん」
「心配だ。じゃ、俺は行くから」
「シャン、ありがとう。またね!」
シャンはそう言って聖樹の方へ飛んでいく。
私も部屋に戻るために向きを変えた。
ミナという人間はこれから苦しみが訪れるだろう。
死のうとしても、苦しみを味合わせるために生かされている状態になる。
もちろん今まで見えていた妖精たちの姿は一切見えなくなる。
でもそれは彼女が望んだことだし、しかたがないよね。
私は何事もなかったかのように部屋に戻ると、レノンのお母さんはまだ休んでいたわ。
レノン、まだ帰ってこないなぁ。




