26 治療とシャンの忠告
翌日、私は目を覚ますと、レノンのベッドの中でレノンのシャツを握りしめていた。
「レノン! レノン!」
私は辺りを見回すけれど、レノンの姿は見えない。どこへ行ったんだろう。
また悲しくなって涙が出てきた。
「マノノ様、目を覚まされましたか」
「クスターさん。レノンは?」
「レノン坊ちゃんは勉強のため学院へ向かいました」
「そっか……」
そうだよね。
仕方がないよね。
そう思うけれど、寂しくてまたぽろりと涙が出てしまう。
「マノノ様、これからレノン様が学院へ行っている間の安全を考え、アリーサ様の部屋で過ごすようにお願いします」
「わかった。そうだよね」
私はレノンのシャツを持ったままふわりと浮いてクスターさんの後をついて行く。
クスターさんは心配そうにしているけれど、いつもとは違い、ちゃんと自分の羽根で飛んでいる。
「奥様、マノノ様をお連れしました」
「マノノ様、ようこそおいで下さいました」
レノンのお母さんはいつものように優しく出迎えてくれている。
「レノンのお母さん、おはよう」
窓際にはレノンが作った私のベッドやソファが置かれていた。私はレノンのシャツを抱えたまま、ふわふわとレノンの作ってくれたソファに座る。
ちょっとシャツが邪魔なんだけど、離したくないのでソファの横に置いた。
「マノノ、おなかぺこぺこー」
「今、朝食をお持ちします」
クスターさんは頭を下げて朝食を取に行った。
「マノノ様はレノンのことが好きなのですね」
「うん! レノンのことすきー! レノンとっても優しいの。マノノのこと撫でてくれるんだ」
私がそう話すと、レノンのお母さんも嬉しそうに話を聞いてくれている。
そうしている間にクスターさんが朝食を持ってきてくれて、私は運ばれてきたご飯をゆっくりと食べ始めた。やっぱり果実水は美味しい。
お腹もいっぱいになって食後の運動をする。
パタパタと宙に浮かび剣の練習をしている。
「マノノ様はいつもこうして時間を過ごしているのですか?」
「うん。マノノはいつも剣の練習をしたり、ひなたぼっこをしたりしているの。そうだ、レノンのお母さん。マノノ、元気だし踊る。横になってちょうだい」
「わかりました」
私は今日もレノンのお母さんを治すために踊った。
昨日は色々なことがあったけれど、病気はちゃんと治したい。
「レノンのお母さん、どう?」
私が声を掛けると、レノンのお母さんの顔に赤みが射している。かなり良くなってきている。
次かその次くらいには病気も治りそうね。
「とても清々しい気分です。もうすっかり良くなったと言ってもいいのではないでしょうか」
「うーん。まだモヤが出ているからもう少し踊らないといけないの。最後まで治さないとまた悪くなっちゃう」
「そうなのですね。マノノ様、マノノ様はもし、レオンの願いが叶えばその後は聖樹に戻られるのですか?」
「んーわかんない。戻るかもしれないし、ずっとこのお家にいるかもしれない」
「私はマノノ様がずっとこの家に、レノンの傍にいて欲しいと思っています」
「えへへ。そうだといいなー」
マノノは妖精だからレノンのことが大好きでもずっと一緒にはいられないのもわかっている。
それでも、マノノは、レノンと一緒にいたいと願わずにはいられない。
レノンのお母さんと少し話をした後、レノンのお母さんは身体を休めるために眠りについた。
静かな部屋。
侍女さんはレノンのお母さんの隣に座っている。
私と目が合うことはない。
姿が見れなければ誘拐される心配はない。
何をして時間を潰そうかと考えていると、窓からシャンが入ってきた。
「マノノ!」
「シャン!」
私はシャンに駆け寄った。
「マノノ、大丈夫だったか?」
「うん。私は大丈夫。あの時、シャンが助けてくれなかったら……」
「マノノ、もうすぐ願いは叶うんだろう? 早く聖樹に戻ろう」
「でも、レノンといたい」
「またお前、狙われるぞ?」
「……うん」
私が不安がる様子を見たシャンは言い過ぎたと言って私の手を取った。
「なあ、マノノ。お前を閉じ込めたやつを許しておけるのか?」
「許すわけないよ!」
「あいつは今地下牢にいるけど、どうする?」
「みんなは何て言っているの?」
「構わないって。むしろとっても怒っていたぞ? ほらっ、長老からこれを借りてきた」
シャンはそう言って黒い鈴を私に見せた。
もちろん私もそれを見て頷く。
「そっか。ならあの人間のもとへいこう」
「ああ、そうだな」
私はシャンと一緒にミナのいる地下牢へと向かった。
暖かな日差しが私たちを包み込んでいる。
日の光は私たちに力を与えてくれている。
「マノノ、あれだ」
シャンは地面近くにある建物の低い位置に付けられている鉄格子の付いた窓を指さした。
どうやら地下牢の明り取り用のものらしい。
窓は小さく開けられていて私たちなら問題なく入れそうだ。




