25 マノノ、人生最大のピンチ!
暗い木箱の中をジッと座って待っていたけれど、誰も探しにくる気配がない。
どうしよう。
泣きたくなる。
大きな声で呼んでも誰にも聞こえていないみたい。
このまま私は死んじゃうのかな……。
私はぽたぽたと流れてくる涙を拭くこともせず、諦めてしまおうと思った時、ポケットからカランと足元に何かが落ちた。
私は手探りで落ちたものを拾うと、それは小さな笛だった。
そうだ。
これなら、シャンに届くかもしれない。
……シャン、助けて。
私は笛を吹いた。
シャンに届くように。
できるだけ長く。
どれくらい吹いたかな……。
もうだめ。
疲れちゃった。
だんだんと力も抜けていく。
なんとか水筒に入っていた水を飲んで力を保つようにしていたけれど、水もなくなっちゃった。
――タンタンタンタン。
小さく何かが窓を叩くような音が聞こえてきた。
きっとシャンだ。
シャンが助けに来てくれた。
「シャンっ! シャンっ!」
私は立ち上がり、木の箱を叩いたあと、また笛を吹いた。
嬉しい。
シャン、シャン。
窓は閉められていてシャンは入ってこれない。
どうしよう。
でもシャンならきっとなんとかしてくれる。
私はさっきまで諦めかけていた気持ちを奮起させてシャンの名前を呼び続けた。
「マノノ! マノノ! 今、行くからな!」
それだけが小さく聞こえてきた。
すると、シャンは何かを窓にぶつけたのか窓のガラスが大きな音を立てて割れた。
「マノノ! マノノ、無事か?」
「シャン! シャン! 私はここだよっ! 助けてっ」
私は木の箱を叩いて場所を知らせる。
「ちょっと待ってろ。すぐ助けてやるから」
ガタガタと頭の上の方から音がする。
どうやら私が動かせないように木の箱の上に物を置いていたようだ。床にゴトンッと何度も物が落ちる音がしている。
「マノノ、箱を動かすから一緒に動いてくれ」
「うん!」
シャンはそう言うと、箱を押して動かしている。
その動きに合わせて私も歩く。
一歩、また一歩。
中からも押して手伝う。
するとテーブルの端が見えてきた。
広がっていく空間に私は急いで飛び込んだ。
「シャン!!」
ガターーーン。
大きな音を立てて木の箱は床に落ちていった。
「マノノ!」
「うえーーん。シャン、怖かったよぉぉぉ」
私はシャンに抱き着いた。
シャンは私をぎゅっと抱きしめてよしよしと頭を撫でてくれている。
「大丈夫、俺はちゃんとマノノを助けるって言っただろ?」
「うん。マノノ、消えちゃうかと思ったの。怖かった」
「もう大丈夫だ。俺が音を立てたから人間たちもそろそろ来る頃だ。マノノの契約者も必死に探していたし、俺は一旦姿を消すよ。また後でな」
「……うん。シャン、ありがとう」
シャンは私を慰めるように頬をひと撫でした後、割れた窓ガラスからそっと出て行った。
さっきまでの緊張が解けたせいか床にぺたんと座り込み、涙が止まらない。
「ここから音がしました」
「まさか、ここに? 鍵が閉まっている。クスターを呼んでくれ」
扉の外からレノンの声が聞こえてきた。
「レノン! マノノ! マノノ、ここにいるのー。開けて―」
「マノノ様!? すぐに開けますから」
複数の足音が部屋の前から聞こえてくる。
ガチャリと鍵の開く音と同時に扉が勢いよく開かれた。
「マノノ様!」
「レノン~!」
私は勢いよくレノンの胸に飛び込んだ。
「怖かった。怖かったの! 暗くて、ずっと一人で。えーん」
レノンは私を優しく抱えて自室に向かう。
「どうしてここに居たんですか?」
「ミナって侍女さんが私を閉じ込めたの。レノンと結婚するのに私が邪魔だって。うわーん」
言葉を口にすると、あの時を思い出して恐怖でまた涙が出てきた。
「マノノ様、落ち着いて。もう大丈夫ですから」
「……うん。もうあの侍女さん来ない?」
「来ないです」
「よかった」
レノンの部屋に着いても私は怖くてレノンにずっとしがみついたままでいた。
だって離れたらまた怖い思いをするかもしれない。
「マノノ様、詳しい話を聞かせてもらってもいいですか?」
「……うん」
「なぜミナは私と結婚するのに邪魔だと言ったんですか?」
「えっとね、レノンが元気になると、婚約者ができる。そうなったらミナさんがレノンと結婚できなくなるって言ってたの」
私の言葉にレノンの眉間に皺が寄った。
何か触れてはいけないことだったのかな。
私はぎゅっとレノンの服を掴んだ。
「大丈夫です。そんな馬鹿なことを言っていたんですね。彼女はただの侍女。私は彼女と一緒になることはありません。それに私にはマノノ様がいますから」
「本当!? マノノもレノンのこと好きっ! マノノ、レノンと一緒にいたい」
「私も嬉しいです。本当にマノノ様が見つかってよかった。私が帰った時に侍女はマノノ様が他の妖精に会いに行ったと聞いて不安だったんです。もう戻ってこないんじゃないかって。まさかこんなことになるとは思っていませんでしたが」
レノンはそう言いながら私の髪を撫でている。
よかった。
いっぱい泣いてほっとしたらなんだか瞼が上がらない。
でも起きていなきゃ。
レノンと離れたくない。
私はレノンにしがみついたまま、目を閉じてしまった。




