24 レノン視点2
廊下の窓から見える木々が揺れている。
少し風が出てきたようだ。マノノ様は大丈夫だろうか。そんなことを考えながら母の部屋に着いた。
「レノンです。母さん、部屋に入ってもいいですか?」
「ええ、構わないわ。どうぞ」
私は母の声を聞き、ほっと胸を撫でおろし、扉を開けた。
母は立ち上がり、ハグをして私を迎えてくれている。
「母さん、体調はどうですか?」
「マノノ様のおかげでこの通りよ。あら、マノノ様は?」
「マノノ様は他の妖精に呼ばれて出かけたとミナが言っていましたが」
「あら、そうなの? そんな素振りはなかったけど……」
母の口ぶりからしても突然の話だったのか?
……もしかして。
嫌な予感がした。
私が言葉を詰まらせていると、母も察したようだ。
「まさか、ミナが何かしたのかしら」
「すぐにミナに聞いてみましょう」
「そうね。ティーラ、クスターとミナを呼んでちょうだい」
「畏まりました」
母付きの侍女が慌ててクスターを呼びに行った。
本当にマノノ様は他の妖精に呼ばれたのだろうか。もし、ミナが何かしたのならどうしよう。
不安が頭を駆け巡る。
私は朝からマノノ様に会っていない。長時間離れたことでマノノ様は寂しくて泣いているかもしれない。
いや、きっと他の妖精たちと楽しく遊んでいるに違いない。
そう思いたい。
そうしているうちにクスターがミナを連れて部屋へとやってきた。
「奥様、レノン様、いかがなさいましたか?」
クスターが心配そうに聞いてきた。
「いえ、確認のために呼んだだけよ。ミナ、あなた、マノノ様は?」
「マノノ様は他の妖精に呼ばれたと言ってふわりと廊下の窓から飛んでいかれました」
「それはいつのことだい?」
母の言葉に顔色を変えることのないミナを見て不審に思った。
「レノン様、マノノ様をお連れしてすぐのことです」
「どこの窓かな? 私は今母の部屋にくる途中の窓はどこも閉まっていたよ」
「えっと、それは……。部屋から出て右から三番目の窓からです!」
「で、君はマノノ様を送り出してから窓を閉めたんだね?」
「はいっ! そうです」
「あら、伝わっていなかったのかしら? マノノ様は出入りできるように必ず窓は開けておくことになっているのよ?」
「えっ。私、知らなくて……」
ミナは困ったような表情をしている。
「奥様、その辺りはミナにしっかりと伝えてあります」
「……すみません。忘れていました」
ミナは頭を下げて謝っている。
……だけど、何か歯に物が詰まったように感じる。
この違和感の正体はなんだろう。
「君は他の妖精と言っていたけれど、誰と聞いたのかい?」
「いえ。ただ、呼ばれたから行くとしか聞いていません」
「おかしいな。マノノ様は僕から離れないはずなんだが」
「わ、私を疑っているんですかっ!? 私じゃありませんっ! 本当ですっ! 信じて下さい」
ミナは震えながら泣き始めた。
その様子を母もクスターも呆れたような表情をしながら見ている。
「ティーラ、キャロルと護衛騎士を呼んで」
「畏まりました」
ティーラは母の指示に従い、すぐに侍女長のキャロルと護衛騎士を呼びにいった。
クスターはミナがおかしな動きをしないように見張っている。
「ミナ、詳しく話が聞きたいわ。ここでは話しにくいでしょう。クスター、キャロルがきたら一緒にミナを連れて行って」
「承知いたしました」
――コンコンコン。
「奥様、お呼びでしょうか」
急いで来たのか侍女長は息を整えてから話をした。
「ええ、キャロル。詳しい話はクスターから聞いてちょうだい」
侍女長は何があったのか疑問に思ったようだが、それを口にする雰囲気にないため黙って頭を下げた。
「さあ、ミナ。こちらに」
「……はい。レノン様、私、本当に何にもしてないんですっ。私は何も知りませんっ」
「そうか。ならすぐ話は終わるはずだ。気を付けて行っておいで」
護衛騎士に付き添われながらクスターたちは部屋を後にする。
この部屋に残ったのは侍女のティーラと母と私の三人だけ。
母の顔色は一気に悪くなり、今にも倒れてしまいそうだ。
「アリーサ様! すぐにベッドへ」
「ティーラ、ごめんなさい。疲れたわ」
「母さん、マノノ様のことは私がするから母さんは休んで」
「レノン、ごめんなさい。クスターにマノノ様を任せておけばこんなことにならずにすんだのに……」
「大丈夫、すぐにマノノ様は帰ってくるよ。不安だから少し探しに出てきます」
「もうすぐ日も暮れるわ。無理はしないようにね」
「わかっています」
母を心配させないように明るく振舞い部屋を出たけれど、本当は不安で仕方がなかった。
マノノ様は一体どこに消えてしまったんだろう。
中庭を探し、玄関ホールや家の周りを探していると――。
カシャン。
どこかでガラスが割れるような音がした。




