23レノン視点1
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ、レノンお坊ちゃん」
あれ?
マノノ様の姿が見えない。
「マノノ様は?」
「マノノ様は他の妖精に呼ばれたと言って出かけました」
「そっか。ミナ久しぶり、もう元気になったのかい?」
確か彼女は家族が病気だってことで休んでいたはずだ。
彼女が復帰したということは元気になったのだろう。
「ええ、おかげさまで。本日から復帰させていただいております」
私は部屋で着替えを済ませ、中庭に出ていつものように剣の練習を始める。
人より取り組むのが遅かったから他の人よりもがんばらなければならない。
最近、私の体調もよくなり、学院へ毎日通えるようになった。
私には友人と呼べる人は居なかったが、段々とクラスにも溶け込み、友人と呼べる人たちができたんだ。
こんなにも毎日が楽しいと思える日が来るなんて思ってもみなかった。
先日、剣の実技の授業があった。
私は今まで不参加だったけれど、医者からも許可が下りたことで授業にも参加できるようになった。
初めての実技。
この日は友人たちと打ち合いをする授業だった。
「レノン、お前、大丈夫か? 打ち合いなんてしたことないだろう?」
「ああ、ない。だがやれるところまでは頑張るよ」
クラスメイトは気を使ってくれているようだ。
先生の「打ち合い、はじめ!」という合図があり、木剣で打ち合いを始めた。
最初の間は上手くやれていたが、やはり体力が追い付かない。
最後の方は避けるので精一杯だった。
「レノン、上手いじゃないか。筋がある。体力はないが。どうだ、午後の倶楽部にも参加してみないか? お前なら優秀な剣士になれるだろう」
「先生、本当ですか!? 家に帰って父と相談してみます」
「ああ、それがいい。待っているぞ」
私は先生から褒められたことで自信を持ち、機嫌よく家に帰った。
家に戻ると、しばらく休んでいた侍女が玄関で待っていた。
私はこのミナという侍女が実は苦手だ。
彼女は私を、というより子爵夫人という立場を狙っているらしく、優しい言葉で私に近づいてくる。
身体の弱かった私には婚約者がいないせいでミナは平民から夫人を迎えると思っているのかもしれない。
母も彼女の魂胆には気づいていた。
彼女を私から遠ざけようとしていた時に母は病気で倒れ、彼女もまた家族が病気だという理由で休みを取っていた。
私は一心に剣を振り、練習を行う。
その様子をミナが見ている。
そういえばマノノ様は出かけたと言っていたが、どこへ行ったのだろう?
森での一件があって以降、気を付けてはいるのだが、どうしても目を離してしまう時間ができてしまう。
「レノン様、今日はここまでにしておきましょう」
「ありがとう。また頼むよ」
私は練習を終えて着替えた後、父の執務室へと向かった。
「父さん、今、ちょっといいかな?」
「レノンか。どうしたんだ? マノノ様も一緒か?」
「いや、マノノ様は出かけたみたいです。今日、剣術の先生から褒められたんだ」
「そうか。よかったじゃないか」
父は書類の手を止めて少し口角を上げている。
今まで父には心配や迷惑ばかりかけてきた。父の微笑む姿にほっと胸を撫でおろす。
「それでさ、筋が良くて優秀な剣士になれる。午後の倶楽部に出て見ないかって誘われたんです」
「優秀な剣士か。素晴らしいな。だが、大丈夫なのか? 体調のこともあるからな。それに領主としての勉強もある。お前が入りたいというなら止めない」
「マノノ様のおかげで運動しても以前のように苦しくなったりしないんです。将来子爵として父さんの後を継ぎたいと思っているんですが、今は身体を動かしたくてしかたがないんです」
父は心配そうにしているけれど、私を止めたりはしないようだ。
もちろん私だって将来のことを考えているし、無理はしない。けれど、動けるようになった嬉しさを今は味わいたい。
「医者と相談して先生が良いと言ったらやってもいいだろう。だが、無理はするな。母さんだってレノンのことを心配しているのだからな」
「もちろんです」
「そういえば、午前中、母さんがマノノ様とお茶をしていた。クスターの話ではまた治療してもらったようだ」
「マノノ様はいつも未熟だと言っていますが、マノノ様の治療の力は凄い。妖精とは一体何なのでしょうか」
「本当にな。神や聖樹の代行者ともいわれたり、人を惑わす存在ともいわれたり不思議な存在だ。だが、マノノ様がどれだけ小さな姿だとしても決して敬うことを忘れてはならん。聖樹の怒りを買った者には破滅が齎される」
「肝に銘じておきます」
私は頭を下げ部屋を出た。
母はマノノ様に治療してもらっていたと言っていたし、母に会ってみよう。
私はふと思い立ち、そのまま母の部屋へと向かった。




