22マノノ誘拐される
「奥様、私がマノノ様をレノン様のお部屋へお連れします」
「ミナ、珍しいわね。貴女、最近まで休んでいたのではなかったかしら? もう体調は大丈夫なの?」
「奥様、心配をおかけしました。私は大丈夫です」
「そう、それならいいのだけど。ミナ、マノノ様の姿は見えているのかしら?」
「はい。もちろんです。マノノ様は可愛いお姿をなさっておいでです」
ミナという侍女さんはまだ若い女の人でとても可愛い顔をしている。
私は初めて見る人だ。
レノンのお母さんの話ぶりではずっと休みをもらっていたようだ。
彼女は両手を籠のようにし、私を乗せるような仕草をしている。
ミナさんはなぜ休んでいたのか少し気になったけれど、私はふわりと彼女の手の上に乗った。
「ミナさん、よろしくねっ」
「っ!! はい。マノノ様、こちらこそよろしくお願いします」
ミナさんは緊張しているのか身を固くさせている。
気を使わせてしまったかな。
クスターさんの肩の方がよかったかもしれないと思いながらもミナさんの手からトコトコと肩まで歩いてちょこんと座った。
「では、奥様。失礼します」
ミナさんは頭を下げてレノンのお母さんの部屋を出た。
「……」
彼女は緊張しているのか歩き方もぎこちないし、会話もない。
行きとは違う通路を通っていることに私はふと気づいた。
「ねえ、ミナさん」
「……なんでしょうか? マノノ様」
「レノンのお部屋はあっちじゃないよ?」
「ええ、荷物を取りに行きたくて。マノノ様、一緒に付いてきてもらえませんか?」
「うん、いいよ!」
ミナさんはそう言って通路の奥へ、奥へと歩いていく。
奥から二つ目の部屋に入った。
どうやら客室みたい。普段使われていないようで部屋にはカーテンがされ、薄暗い。ベッドと小さなテーブルが置かれ、テーブルや足元には箱がいくつか置かれていた。
「ここは?」
「ここは客室なのですが、今の時期は使われていないのです。こうしてたまに部屋に来て換気や掃除をするんです」
「そうなんだ」
「マノノ様、危ないですからテーブルの上にどうぞ」
「うん、わかったー」
私がミナさんの肩から降りてテーブルの上に乗った瞬間――。
そこに置いてあった大きな木の箱を被せられた。
!?
「ミナさんっ!? 開けてー! 開けてよっ!」
驚いた私はドンドンと箱を叩いた。
何度も木の箱を叩いていると、ミナさんの声がした。
「煩い妖精ね。あんた邪魔なのよ。レノン様が元気になったのは嬉しいけど、これ以上元気になってもらったら困るのよ」
「なんでっ? レノンが元気になるとみんな喜ぶし、レノンも喜んでるもんっ」
「はあ? レノン様はね、病弱で婚約者がいないのよ。元気になったら婚約者ができるに決まっているじゃない。困るのよ。私がレノン様の妻になるって決めているんだから」
「そんなの知らないっ。マノノは願いを叶えるためだけにきたの。邪魔しないでっ」
「馬鹿な妖精よね。まあいいわ、このまま数日放置していれば死ぬんだし。じゃあね」
ミナさんはそう言って声が遠くなり、扉が閉まる音がした。
……どうしよう。
木の箱の中は真っ暗で何も見えない。
泣きたくなってきた。このまま出られなかったらどうしよう。
なんとかしなくっちゃ。
焦る気持ちと不安で泣きたくなる気持ちがぐるぐると身体中を駆け巡り、身体が震える。
「動いてーっ」
木の箱を力いっぱい押して動かそうとするけれど、動かない。木の箱程度なら動かせると思ったのに。
何度も押してみるけれど全く動かない。
どうしよう。
涙が溢れてくる。
このままレノンにも会えないのかな。
聖樹に戻ることができないのかな。
なんであのレナって人は妖精の姿が見えた? 本来、悪意を持つ人は見えないはずだけど。もしかして彼女は妖精の祝福を受けていたのか。
妖精の祝福を受けれるのは家族に願われた赤ん坊だけだ。きっと家族の誰かが願ったのかもしれない。
真っ暗な木の箱の中ではどれくらい時間が経っているのかわからない。
もうレノンが帰ってきてもおかしくない。
レノン、助けに来てくれるかな。




