2 妖精の店
大きな通りを歩いて二つ目の角のお店が妖精の店らしく、店には大きな聖樹が描かれた看板が掲げられていた。
いつも聖樹からの街の様子を眺めているだけでどんな店かまでは知らなかった。この店は妖精のための道具や服、家具が一式置かれているらしい。
「いつも上から見ていただけだったから楽しみ!」
私は嬉しくて羽根をぱたぱたと動かしながらレノンとお店に入っていった。
店内は大きなショーウィンドウがあり、日が射していたこともあって、とても明るい。そしてテーブルや棚にはたくさんの小さな家具が置かれている。
妖精が人間世界で生活するための家具ってこういうものなんだ!
「凄いね! このコップ、可愛い! これも! 可愛いのがいっぱいあるねっ」
木をくり抜いて作られたような小さなコップや、陶器で出来た白いコップ。お皿や、お皿を置く棚だってある。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
店主はレノンに話し掛けてきた。その時、店の奥からふわりと一人の妖精が私の前にやってきた。
「マノノ! 久しぶり! 今回は君が選ばれたのか。マノノが付いているのなら彼は幸せになるね。ゆっくり見て行ってよ」
彼は私の姿を見つけて、久しぶりの再会を喜んでくれた。
「ミュー! ここに居たの? 久しぶりだね。ここの家具って凄いね。見ているだけでわくわくしちゃう」
「マノノ様……?」
レノンは不思議そうに私の名前を呼んでいる。
レノンにはミューの姿は見えないみたい。
「ここは妖精のための店だからさ。俺のおすすめはこの椅子。いいだろう? ここまでの細かな装飾されているのは滅多にないんだ。そうだ、マノノ、あっちにはドレスもあるんだ。一緒に行こう」
「レノン、ちょっとあっちを見てくるね!」
「わかりました」
私はレノンに一声かけた後、そのままミューについて部屋の奥の方へと飛んでいく。
レノンは心配そうにしていたけれど、店主と話をして何を買うか選んでいるみたい。
「ドレスってなあに?」
「人間たちが着ているような服のことさ。俺たち妖精ってさ、服は葉っぱや花びらばっかりだろ? 人間と一緒に暮らすなら同じような服も欲しいんじゃないかと思って。俺がデザインしたんだぜ!」
店の一番奥の一角には妖精が着る服がたくさん飾られてあった。レースの付いた服や、麻の服、赤いワンピースなど様々な物が置いてある。
「これ、これなんかどうだ? マノノに似合うと思うんだよな」
たくさんの服の中からミューがハンガーにかかっていた一枚のドレスを取り出して私に見せてくれた。
「可愛いっ! マノノに似合いそう。このふわふわの部分も可愛いね」
「だろ? こっちは赤い色のドレスだし、いいんじゃないか?」
「えー。どれも素敵ね。迷っちゃう……」
ミューは笑顔で私に何枚もドレスを見せてくれたの。
どれも可愛い。
私はレノンの元に飛んでいき声をかけた。
「レノン! あっちにドレスがあったの。とっても可愛いの」
「そうなんですね」
彼を引っ張るようにしてドレスが置いてあるところまで連れてきた。
「このドレス、可愛いの。でもね、こっちも可愛くて……」
私はドレスを指さしてレノンに可愛さを必死に訴えた。レノンは優しく笑い、ドレスを手に取った。
「これ、マノノ様に似合いそうですね。店主、このドレスを一枚欲しい」
レノンがそう言って手に取ったドレスは薄い春色のレースがたくさんついたドレスだった。
可愛いドレスをレノンが選んでくれたの!
嬉しい!
私はぱたぱたと羽根をはばたかせていると、ミューは「よかったな」って言ってくれたの。
「畏まりました」
「マノノ様、他にもたくさんありますが、今日必要な物を買ったので我が家に向かいましょうか」
「うん!」
レノンは妖精の店で買った私用の家具やドレスを紙袋に入れてもらい、私たちは店を出た。
「マノノ様、では家に戻りましょうか」
「うん!」
レノンのお家はどんなお家だろう?
私は期待に胸を膨らませてレノンの肩に停まり、馬車停まりまで行って馬車に乗り込んだ。
どうやらレノンは貴族と言うものみたい。
とても偉い人なのかな?
カラカラと軽快になる車輪に心地よく揺られながらレノンといっぱいお話をしたの。
レノンは「原因不明の病でベッドから起き上がることのできない母をどうか助けて下さい」って聖樹に願ったみたい。
「マノノ様は母の病気を治してくれるのですか?」
「うーん。わかんない。マノノ、人間の病気を治したことないもん。レノンと目が合ったから降りてきたの」
「……そうなのですね」
私の言葉を聞いてレノンは少し悲しそうな表情をしている。
でもこればかりは仕方がない。
私は生まれてまだ二百年ちょっとだから他のみんなに比べて病気を治す能力は低いし、人間を治したことなんてないもの。
ちゃんと治せるかなんて言えないよ。
でも、レノンのために頑張る!
しばらく馬車は街の中を進み、街の外れにある大きな建物の中に入っていった。
どうやらここがレノンのお家みたい。
「レノンお坊ちゃま、お帰りなさいませ」
白髪交じりで制服を着た男の人が彼を出迎えていた。
「クスター、ただいま。母さんの具合はどう?」
「奥様の体調はあまり思わしくありません。今、薬を飲んで寝ておられます」
「……そうか」
すると、クスターという人は私に気づいたようだ。私を見つめ、動きを止めている。
「ぼ、ぼっちゃま。その、肩に乗せられているのは……」
「クスターにも見えるのか。彼女はマノノ様と言うんだ。聖樹に母さんを治してほしいって願ったらマノノ様が私の前に現れたんだ」
「マノノ様と仰るのですか。リトラ子爵家へようこそお越しくださいました」
クスターさんは私に礼を執っている。
「クスターさん、よろしくね!」
私はレノンの肩でクスターさんと同じように礼をすると、彼は微笑んだ。
「マノノ様、私の部屋へお連れします」
「うん!」
私はレノンと一緒に彼の部屋へとやってきた。
「ここがレノンの部屋?」
「ええ、お恥ずかしいですが」
彼の部屋には様々な木工細工が置かれてある。窓際には妖精の店にあったような家具もいくつか置いてあった。
私は引き寄せられるように、ふわふわと彼の肩から降りて木工細工のところへ飛んでいき、じっくりと木工細工を眺めていく。




