1彼の祈り、マノノ降り立つ
よろしくお願いします!
『マノノ、次はあなたじゃない?』
『えー。キャノじゃないの? 私、レイほど上手く踊れないし。きっと選ばれないよ」
『そう? そろそろじゃない?』
『私もそろそろだと思うわ』
『今回は誰だろうな』
『今回は誰だろうねー』
私たちは木の上ではしゃぎながら、次は誰が選ばれるのか期待に胸を膨らませて待っていた。
ここは森の国アルヴァリエの第二都市エフィア。
この国では聖樹と呼ばれる大樹を中心に国が作られていて、ここエフィアの街の中心にも大きな木がある。
大樹を中心に街を造られているのかというと、この国では聖樹から妖精が生まれ、妖精が聖樹の代わりに人々の願いを聞き入れ、助けてくれるという。
人々は聖樹に祈り、自然と共に慎ましやかな生活を営む傾向にある。だが、近年文明の発達と共に熱心に信仰する人も減りつつあった。
そんな中、一人の青年が神殿の礼拝所にやってきて熱心に祈りを捧げている。
私は羽根をパタパタと振るわせながら、彼の必死に祈る姿を仲間と一緒に見つめていた。
「今日はどうされたのですかな?」
祈りを終えた青年が立ち上がったところを神官さんが声を掛けている。
「母が原因不明の病で起き上がれなくなってしまったのです。日に日に窶れていく母が心配で、こうして藁をも縋る思いで聖樹様にお願いにあがったのです」
「そうでしたか。……昔は信仰の厚い人たちには妖精の姿が見え、声を聞くことができたそうですよ。貴方も妖精が見れると良いですね」
神官さんが優しくそう言った時、ふわりと風が吹き、聖樹の葉が囁くように揺れ始めた。
「風が……」
若い青年は神官と一緒に聖樹を見上げると――。
あっ!
私と目があった。
『マノノ、お前が選ばれたのか。頑張って来いよ』
『え、やっぱりわたしなのかな?』
『いいなー。私が行きたかったわ』
『マノノ、やったじゃん!』
周りにいた妖精たちがわいわいと話し始める。
『マノノ、聖樹様がお前ならって言ってるぞ』
そんな中、蜂の姿をした妖精のファーが聖樹のてっぺんを指さしながら話かけてきた。
まさか自分が選ばれるなんて思ってもみなかったからとっても嬉しい!
私は驚いて手でほっぺを押さえ、パタパタと羽根を動かし、くるりと宙を舞った。
『マノノ、いってらっしゃい』
仲間たちが声を掛けてくれている。
『う、うん! マノノ、行ってくるね!』
私は勢いよく聖樹から飛びだし、神官さんの肩へと降り立った。
『神官さん、マノノが呼ばれたみたい』
「今回はマノノ様でしたか。彼をよろしくお願いします」
『うん! 行ってくるね!』
神官さんは微笑みながら彼の前に掌を見せ、私はそこに飛び乗った。
青年は神官さんの手のひらに現れた私に驚き、言葉に詰まっている様子。
「貴方の名前はなんていうの? 私はマノノ。マノノって呼んでね」
私は彼に向かってぺこりと挨拶をする。
「えっと、その……。聖樹には妖精が住んでいるという言い伝えは本当だったのですね。私の名前はレノン・リトラと言います。レノンと呼んで下さい」
「レノン、よろしくね」
私はふわりとレノンの肩に移動する。
「レノン、じゃあ行こっか」
「えっ。どこへ?」
「ん? どこってレノンのお家だよ」
「わ、わかりました。神官様、では私はこれで」
「リトラ子爵子息様、神のご加護を」
「神官さん、まったねー」
私は神官さんに大きく手を振り、レノンは神官に挨拶をして神殿を出た。
私は聖樹から離れたことがないので、彼の肩から見る景色にドキドキする。
私たちが神殿を出ると、そこには大きな建物と建物の間の道にたくさんの露店が並び、多くの人間たちが通りを行き来していた。
「うわぁ。すっごいね! たくさんの人がいる」
露天商の声や人々の会話、歩く人の足音。
街は活気に満ち溢れ、聖樹の枝から見ていた街の様子とはまた違った風景に私の心が躍る。
「レノン、すっごいね。人間がたくさんいる。お店もたくさんあるよ」
「マノノ様は街に降りたことはないのですか?」
「ないよー。私は生まれてからずっと聖樹の枝で暮らしていたもん」
「なぜ私の元へ来てくださったのですか?」
「んー、わかんない。レノンと目があったし。言われたから」
「言われた……? 誰に言われたのですか?」
「さあ?」
私はレノンと話をしながら物珍しそうにみていると露店からいい匂いが漂ってきた。
「あ、レノン。いい匂いがする!」
「マノノ様は人間の食べ物を食べることができるのですか?」
「食べられるよ! 今まで聖樹へのお供え物をみんなで分け合って食べていたもん」
「そうなんですね」
レノンはそう言うと、果物がたくさん置かれている店の前に立った。
「いらっしゃい!」
ここのお店はどんなお店なんだろうと私は興味津々で見つめている。店主は私に気づくことはないようだ。
「果実水を一つ」
「あいよ!」
店主はレノンからお金を受け取ると、籠に乗っているオレンジを一つ手に取り、さっと圧縮器で汁を絞ってコップに淹れてくれた。
「凄いよっ。レノン、美味しそう!」
「マノノ様、この果実水を飲んでみますか?」
「ほんとうっ!? 嬉しい!」
私は嬉しくって彼の肩の上でぴこぴこと踊っていると、彼は店主からコップを受け取り、近くにテーブルがたくさん置かれている場所まで歩いていく。
彼は空いている席に座ると、そっと私を肩からテーブルへと降ろしてくれたの。
「マノノ様、どうぞ」
私はコップの淵までよじ登り、肩に下げていたバッグからスプーンを取り出して果実水を大きな口を開けてぱくりと飲んでみた。
新鮮な果実から絞られた果実水はとっても甘くて美味しい。
「美味しい! これ、すっごく美味しいよ!」
私は何度もスプーンですくって飲んでいると、その様子を見ていたレノンは微笑んでいた。
「レノン、美味しいよ。レノンもどうぞ」
「いえ、私は大丈夫です。喉は乾いていませんから」
「そうなの? じゃあ、マノノいっぱい飲んじゃうね!」
そう言って私はごくごくとお腹いっぱいになるまで飲んだ後、ふわりとまたレノンの肩に戻った。
「レノン、ありがとう。マノノ、お腹いっぱい」
「マノノ様のお口に合って良かったです」
彼はそう言うと、私が飲んだ後の果実水をぐっと飲み干し、店にコップを返却した。
「そうだ、マノノ様。妖精の店に寄ってもいいですか?」
「妖精の店? どんなお店なの?」
私は初めて聞くお店の名前に興味津々に聞いてみた。
「マノノ様もご存じだとは思いますが、この国ではどの家も妖精が遊びにこられるように窓際に妖精用の家具が置くことになっているんです」
「そうなの? マノノ、知らなかった!」
「私の家でも言い伝え通りに家具は置いているのですが、本当に来るとは思っていなかったので、マノノ様をお迎えするにはしっかりと家具を揃えなければいけないので」
「マノノ、何にもいらないよー? でもどんなお店か見て見たい!」
「私も幼い頃に母に連れられて店に入った程度なので、どんなお店かうる覚えでしかないんですが、きっとマノノ様も喜んでくれると思いますよ」
「そうなの? マノノ、楽しみ!」
レノンと話をしながら私たちは妖精の店に向かって歩き出した。
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