17 レノンのお父さん
「ではマノノ様、学院へ行ってきます」
「レノン、いってらっしゃい!」
レノンを元気いっぱいで学院に送り出した。
私もレノンの学院について行きたいんだけれど、「多くの生徒がいるところにマノノ様の姿が見えたら騒ぎになってしまう」と言われお留守番になったの。
数時間なら離れていても問題ない。
レノンが帰ってくるまでの間、私は何をしているのかというと、作って貰ったドレスを眺めたり、大きなコップに入った水を水筒に入れ替え、お人形さんと一緒に飲んだり、ダンスをしたりして時間を過ごすことにしたの。
――コンコンコン。
「マノノ様、旦那様がお呼びですが、お会いになられますか?」
ノックして部屋に入ってきたのはクスターさんだった。
「ん? レノンのお父さん? 私に何か用事があるの?」
「用事というより、レノン様やアリーサ様の治療をしていただいた感謝を伝えたいのだと思います」
「ふーん。そっか。わかったー」
私はクスターさんの肩に乗り、レノンのお父さんの執務室へと向かった。
「旦那様、マノノ様をお連れしました」
クスターさんはそう言って部屋を入った。
執務室というところはたくさんの本に囲まれていて、大きな机の上に書類がいっぱい乗っていた。
レノンのお父さんはここで書類を書いたりしているみたい。
私はレノンのお父さんの机にふわりと降り立つと、クスターさんはどこからか小さな私用のソファを置いてくれた。
「マノノ様、ここへお掛け下さい」
「クスターさんありがとう!」
私はちょこんとソファへと座った。
レノンのお父さんはというと、それまで目を彷徨わせていたけれど、ソファがあることでこの辺に私がいるということを理解したみたい。
「マノノ様、アリーサやレノンを治療していただき、感謝の念に堪えません」
「私はただレノンの願いを叶えただけだよ」
私がそう言うと、クスターさんがレノンのお父さんにそのまま話してくれる。レノンのお父さんはそれを聞いて話をする。
「レノンは昔から身体が弱く、妻のアリーサもレノンのことをいつも心配していたんです。レノンには喘息だと伝えていたのですが、実は少し違うのです。
医者からは無理をしなければこのまま暮らしていけるだろうが、親となるまでには生きられないかもしれないと告げられていました。
我が家のことやレノンの将来を考えアリーサが様々な場所に赴いて婚約者を探している最中に妻も倒れた。
アリーサも重い心臓病だと診断され、長くはないと。それからというもの我が家は暗くなる一方だったのです。本当に感謝してもしきれません」
「そっか。レノンの祈りが聖樹に届いて良かったね。レノンはもう病気の心配はないよ! レノンのお母さんはもう少し時間が掛かると思う。でも良くなるようにマノノ頑張るね!」
「妖精は芸の立つ者を好み、傍にいる伝え聞いていたので、まさか我が家にマノノ様が来てくださるとは思いもよりませんでした」
芸が立つ者を好む?
妖精は好んで人の周りにいる場合もあるけれど、ほとんどの人は願いを叶えて芸が立つんじゃないのかな。
「うーん、詳しくはわからないけど、妖精が彼らの願いを叶えただけだと思う! 純粋な祈りの心に聖樹が応えるの」
訳したクスターさんの言葉を聞いたレノンのお父さんは納得したのか頷いている。
「ですが、病弱なレノンが元気になったということはこれから噂になり、人々がここへくるのはいいが、マノノ様が狙われてしまうのではないかという不安はある」
「マノノ、他の妖精に比べて病気を治すのは上手くないからレノンのお母さんを治すのにも時間がかかるの。ごめんね。
聖樹にはマノノよりも治すのが上手な妖精はたくさんいるの。『病を治したい』と直接本人が願えば来てくれるかもしれない」
「なるほど。本人が聖樹に願うのが一番確実ですね」
「マノノはレノンの願いを叶えているだけなの。だからみんなは治せないよ? それだと神様になっちゃうからね!」
「確かに全ての者を治すのは他国で崇められている神か聖女と呼ばれるような存在ですね」
そもそも私の姿を見ることのできない人間を私は治せない。例外はあるけどね。
姿を見ることができない人に踊っても効果なんてほとんどないもの。
人間の信仰心だったり、純粋な心だったり、思いの強さなのかなぁ。私にはよくわからないけどね。
私はレノンの願いで治している。
「マノノ様、何か足りない物や欲しいものはありますか?」
「マノノ、朝に飲んだ果実水、美味しくって大好きなの。夜にもまた飲みたい!」
「わかりました。そのくらいすぐに用意させます」
「ありがとう! あとは大丈夫だよ!」
「マノノ様が少しでも過ごしやすいようにいたしますのでいつでもレノンやクスターに言いつけてください」
「うん、わかったー」
そう言った瞬間――。
ほんの一瞬だったけれど目が合った。
レノンのお父さんは私の姿を見れたのかもしれない。お父さんの目が見開いたもの。
「そろそろレノンが学院から戻ってくるし、お部屋に戻るね!」
私はそう言ってクスターさんの肩に乗ってレノンの部屋へと戻る。
レノンのお父さんは慌てて頭を下げ、私を見送っていた。




