11レノン視点1
マノノ様が家に来たことで我が家は一気に明るくなった。
私は幼少期から病弱で無理をするとすぐに熱や喘息を起こしてしまう。友人たちはいつも外で思い切り遊び、剣術の練習を受けていてとても羨ましかった。だからといって両親を恨みたいわけでもない。
私の身体が弱いのは生まれ持ったものだ。
折り合いを付けて生きていくしかないとずっと思っていた。ひ弱な私を揶揄かう人たちもいたが、両親はその度に私を庇ってくれていた。
私をここまで育ててくれた両親には本当に感謝しかないんだ。
普段から外に出ることのない私は勉強の合間に打ち込める趣味があればいいなと思い、クスターに頼んで小さな木を用意してもらい、早速、木をナイフで削って人形を作ってみた。
それはとても不格好な物だったけれど、人形を見た母は「凄いじゃない、器用ね」と褒めてくれた。
そこから自信を付けた私は木の人形や家具などを中心に木工細工を作るようになっていった。
そんなある日、母が中庭でお茶をしている最中に倒れてしまった。
すぐに医者を呼び、診てもらったんだ。
父は偉そうなことを言いながらも母を心配し、ずっと寄り添っていた。
「リトラ子爵、夫人の病気は胸の病気だと思われます。今まで無理をしてこられたのではないでしょうか」
「……そんな」
父は否定したかったみたいだけれど、言葉に詰まった。母の性格上、大変なことも黙っていたのだろう。
私という欠陥品を産んでしまったことで苦労を掛けているのは間違いない。
「良くなるのだろうか?」
「……残念ながら。悪くなることはありますが、良くなることはないでしょう」
医者は聴診器を仕舞い、大きな黒い鞄の中から薬を出し、テーブルの上に置いた。
「これは血の巡りを良くする薬です。毎日一包ずつ飲んで下さい」
そう言って彼は病院へと戻っていった。医者の言葉を聞いた父の落ち込みは酷かった。
母は今までは父の執務を手伝ったり、友人たちとお茶会をしたりと活動的だったけれど、これからはできないだろう。
それに胸の病気ということは根本的な治療はないし、いつ突然の死を迎えてもおかしくないのかもしれない。
私がもっと健康だったら母に苦労を掛けなかったのに。
私にできるのは母が元気になるように神様に祈るしかない。
昔は聖樹に祈り、願いを聞き入れた聖樹が病人を治していたという話がある。今は信仰も薄れ、聖樹に祈る人たちも減っているが、私は縋る思いで教会に向かったんだ。
そして願った。
『母の病気が治りますように』と。
願うだけでは治らないことはわかっている。
けれど、それでも願わずにはいられなかったんだ。
願い終わった時、一陣の風が聖樹と私の間を吹き抜けていった。ざわざわと葉が揺れて葉がこすれ合う音がし、ふと聖樹を見上げた時――。
マノノ様がふわりと降りてきた。
マノノ様は桃色の髪にエメラルドの色したまん丸な瞳を持ち、小さな羽根をぱたぱたとさせている姿はとても可愛い。
鈴がなるような可愛い声で話し、私の肩に乗る彼女はとても愛らしい。彼女のぴこぴこと動く様をいつまでも見ていたいとさえ思ってしまう。
そんな彼女は『呼ばれた』と話してくれた。
正直驚いた。
今の時代、聖樹に祈りを捧げる人は少ない。ましてや周りで妖精を見るなんて聞いたこともなかったからだ。
家に戻ると、マノノ様は私をベッドへ横になるように言った。
私は不思議に思いながらもマノノ様に言われるがままベッドへ横になると、彼女は私の胸の上で不思議な踊りを始めたんだ。
今思えば、愛らしいマノノ様は会ってすぐに私の身体が弱いことを見抜いていたのだろう。
妖精には病気を見抜くような特別な力があるのかもしれない。
彼女がステップを踏むたびにそこから温かな熱を感じ、体中に血が駆け巡っていく。
そして踊り終わる頃には今まで感じていた胸の痞えがなくなり、息がしやすい。彼女は私の喘息を治してくれたんだ。
マノノ様はずっと諦めていた剣術もできるようになる。
一度で治してあげられなくてごめんねと言っていたけれど、私にとっては回数なんて些細なことでしかない。
幼い頃からずっと咳や息苦しさを抱えて生きてきたんだ。
本当に奇跡としか言いようがない。マノノ様は可愛いだけでなく、とても素晴らしい妖精だ。
それに彼女の可愛さは邸の者たちも認めるほどだった。クスターや数名の侍女には彼女が少しぼやけてはいるらしいが、見えているようだ。
機会を見つけてはマノノ様に話し掛けようとしている。私は嬉しくもあり、マノノ様は私の願いに応じてきてくれたんだ。と嫉妬してしまいそうになる。
私の部屋の窓際には妖精の店で買った家具や私の作った家具を置いているが、私が作ったソファを彼女は特に気に入って使ってくれているのも気恥ずかしいけれど嬉しい。
マノノ様の笑顔を見て、侍女たちも彼女の笑顔を見るために大喜びで服を作っていた。




