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第23話 最後の真実

「一条さんが復讐……? 身体を壊したって、一体何のことだ」

震える蓮見の声に、佐伯は力なく、しかし毒の混じった声で笑った。

「……はは、ははは! 知らなくて当然だな。あんたが『救世主』の顔をして助けた、あの路地裏の『ひまわり食堂』。あそこを旗艦店にする際、隣の中華屋を規約で潰したのは俺だ。……だが、俺は一条にこう言ったんだよ。『これはすべて、蓮見社長の強い意向だ』とな」

蓮見の頭の中で、何かが激しく音を立てて砕け散った。

「……君が、そんな嘘を?」

「嘘じゃない。ビジネスの結果だ。俺はあの子に吹き込み続けたよ。蓮見はひまわり食堂の味に惚れ込み、それ以外の中華屋は目障りだから排除しろと命じた。あの子の父親が土下座して食材を求めた時も、蓮見社長が『規約は絶対だ』と言っていると追い返した……。一条はな、三年間ずっと、あんたを『自分の家族をなぶり殺しにした冷酷な独裁者』だと思って生きてきたんだよ」

蓮見は息が止まる思いだった。自分が知らないところで、自分の名が「呪いの言葉」として彼女の心に刻まれていた。

「あの子の父親は店を失い、絶望の中で自ら命を絶った。……あの子にとって、あんたは『恩人』どころか、人生を破壊した仇そのものだ。……だが、皮肉だな。復讐のために近づいたはずのあの子は、あんたの隣にいるうちに、あんたという人間の『本物の馬鹿さ』に触れて迷いが生じた。あんたを殺しきれなかった自分に絶望して……最後は岡島と一緒に海へ消えたんだ」

佐伯は、ゴミでも捨てるように蓮見を放り出した。

「社会的地位も、金も、協力者も……そして復讐者さえも、もうあんたの周りには誰もいない。俺が作った規約と、俺がついた嘘。そのすべてを『蓮見の罪』として背負って、一生震えてろ」

「……待て、佐伯。そもそも、あの時……ひまわり食堂を助けてやってくれと、俺に頭を下げたのは……お前だったはずだ」

蓮見の声が、静まり返ったロビーに震えながら響いた。

闇の中へ消えようとしていた佐伯が、ゆっくりと振り返る。その顔には、これまで一度も見せたことのない、歪で、底冷えするような笑みが浮かんでいた。

「……はは、ははは! ようやくそこに辿り着いたか、蓮見。……ああ、そうだ。あの店を推薦したのは俺だ。……だが、俺が本当に手に入れたかったのは、ひまわり食堂でも、あんたの成功でもない」

佐伯は一歩、蓮見に歩み寄った。その瞳には、理性を焼き尽くした後のような、どす黒い情念が宿っている。

「……一条えみり。……あの子はな、かつて俺の女だったんだよ」

蓮見は、心臓を直接掴まれたような衝撃に、息が止まった。

「嘘だ……。彼女は、本社の……」

「嘘じゃない。俺はあの子の才能と、その内に秘めた凄まじい復讐心を愛していた。……だから俺の手で、完璧な『復讐の女神』として育て上げ、あんたを食い潰させた後、俺の元へ呼び戻すつもりだったんだ。……ひまわり食堂を助けさせたのも、隣の中華屋を潰したのも、すべてはあの子に『お前という標的』を与えるための、俺が書いたシナリオだよ」

佐伯の声は、もはやビジネスマンのそれではなく、獲物をいたぶる残酷な演出家のものだった。

「なのに、あんたは……。あんたは、あの子の復讐心さえも、その無自覚な『甘さ』で骨抜きにしやがった! 俺が三年かけて仕込んだ毒を、あんたは『情』なんていう、安っぽい砂糖水で薄めてしまったんだ! ……俺の最高傑作を、俺から奪い、そして……愛憎の板挟みにして死なせたのは、あんたなんだよ、蓮見!!」

佐伯の激昂に、蓮見は言葉を失い、その場に崩れ落ちた。

一条が自分の隣で見せていた、あの寂しげな微笑み。それは佐伯への隷属と、蓮見への殺意、そしていつの間にか芽生えてしまった情愛の、凄惨なせめぎ合いの結果だったのだ。

「社会的地位? キャリア? そんなものはまた作ればいい。だが、えみりだけは……もう二度と手に入らない。……あんたを殺してやりたいが、それではあまりに芸がない」

佐伯は、冷たく地面に伏した蓮見を見下ろした。

「死んで楽になろうなんて思うなよ。……あんたは、その汚れた手を見つめながら、一生、死んだ二人の亡霊に怯えて生きるんだ。……自分が救ったつもりの人々に、実は呪われていたという真実を噛み締めながらな」

佐伯は、それ以上何も語らず、闇の中へ去っていった。

もはや、彼を追いかける力も、声をかける気力も、蓮見には残されていなかった。

静まり返ったロビーで、蓮見は自分の手のひらを見つめた。

三年前、ひまわり食堂の主人と握手したその手が、今はあまりに(けが)れて見えた。

鞄からこぼれ落ちた使い古した包丁が、街灯の赤を反射して、カラン、と虚しい音を立てて転がった。

高松の潮風が、死者の溜息のように、蓮見の頬を撫でていった。

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