表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木漏れ日と君のカーネル  作者: 墨鎧可倉
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/32

第1章・8節『ルク・ミィア』

 サヘー島の東にある森と海岸線の間には、開けた草原が広がっていた。嵐は夜の内に過ぎたらしく、今では清々しいまでに青空が見えている。時折遠くから、野生動物のあげる声が聞こえてきていた。


 カーネルシアはカバンをしっかり抱え込み、急ぐように道を歩いていた。

 サヘー島のいたる所に生息している小動物、トゲチラシの古い棘が、道の両脇に散らばっている。舗装ほそうされていない道には、さきほどまでの雨でぬかるみが出来ていた。


 昔、遊び半分で品種改良されたと言われる玉飛草たまとびぐさが、東からの朝日を受けてきらめいている。道にそって植えられているそれは、草丈が3メートルほどになった。非常に柔軟で強度のある茎には、人がよじ登りやすいように、固く頑丈な円形の葉が付いていた。


 草のてっぺんには果実のような黄色い大きなタマがあったが、実際の果実は葉の付け根である葉腋ようえきに小さく成っていた。昔は食料として実が食べられていたらしいが、てっぺんのタマを大きくしていく内に、果肉が痩せて可食部分が無くなったらしい。


 カーネルシアが、地面までしなっている玉飛草の横を通り過ぎようとした時、玉飛草の陰から人の声があがった。

「あの、そこのかた、申し訳ありませんが、助けていただけませんか?」


 玉飛草の大きなタマを抱えたままで、ひとりのクースフローがカーネルシアに助けを求めていた。黄緑色の肩下まで伸びた長い髪をした青年は、薄紫色の瞳を持っており、人懐っこそうな表情をしていた。


 カーネルシアは立ち止まって周囲を見回すと、彼の呼び止めている相手が誰なのかを確かめようとした。

「このタマはどうやって使えばいいんですか? 村のかたから、これを使えば早く街に行けると聞いたんですが……」

 日に焼けた色の肌を持った青年は、困った顔でカーネルシアを見ている。


 肩には、何か機材が入っている様な、長く黒い袋をかついでいた。薄手のベージュの外套がいとうが、そよ風ですそを揺らしていた。


「僕も分からない」

 カーネルシアはそう言うと、青年の横をそのまま通り過ぎようとした。


「痛いっ! 髪が茎に引っかかってる!」

 途端に青年から悲鳴が上がり、カーネルシアの足が再び止められた。青年の長い髪が、確かに茎と葉の隙間に引っかかっているようだ。

 青年の様子をまじまじと眺めながら、カーネルシアは青年に近寄ると、青年の髪を器用な手つきで隙間から引き抜いた。


「ありがとうございます、ついでに……」

 刹那せつな、玉飛草が大きく跳ね上がり、タマを抱えていた青年の体は、どこか遠くに勢いよく飛んで行った。


「ああやって使うんだな」

 カーネルシアはそうつぶやくと、反動で揺れている玉飛草を尻目に、再び道を進み始めた。


 青年が飛んで行った先には、玉飛草を利用した者をとらえるための、大きな網がもうけられていた。カーネルシアがその隣にたどり着くまで、青年は逆さまになったまま網に引っかかっていた。横を通り過ぎようとしているカーネルシアを、またしても青年が呼び止める。

「す……すみません……降りるのに手を貸していただけませんか? 腰が抜けたようで」


 その様をまばたきしながら見ていたカーネルシアだったが、ひょこひょこと青年に近づくと、網から降りるのを無言で手伝った。

 外套がいとうの下から、上質そうなチャコールグレーのスーツと、柔らかそうな長毛のしっぽが見えている。ズボンはももの部分がゆったりし、すそがすぼまっており、膝下までの長い編み上げブーツの中に入れられていた。


 青年は暴れたように乱れた髪を整えると、荷物の中身が壊れていないか心配そうに調べて担ぎなおし、カーネルシアの前に立って頭を下げた。

「何度もありがとうございます。私、ルク・ミィアと申します。アーモ・ハリヌ社で、営業をしている者です」


 ルク・ミィアと名乗った青年は、服の内ポケットから名刺を取り出すと、カーネルシアに両手で差し出して見せた。名刺にはシンプルな字体でルク・ミィアの名と、その下に合同会社アーモ・ハリヌと印刷してあった。


 カーネルシアは物珍しそうに名刺を眺めると、ルク・ミィアに片手でそれを返した。

「ルク・ミィアか。いい名だな」

 名刺を戻されたルク・ミィアは、あっけにとられた顔をしたが、直ぐにカーネルシアの手に名刺を戻した。


「名刺は、できればお受け取り願いたいのですが……。もしかして、名刺をご覧になるのは初めてですか?」

 ルク・ミィアが苦笑しながら、カーネルシアに首をかしげて見せた。クースフロー特有の長く白い牙が、口からちらりと見えている。


 どう見ても子供のように見えるカーネルシアだったが、将来性を見越してルク・ミィアは挨拶したのだろうか。カーネルシアはもう一度、手渡された名刺に目を落とすと、カバンをもぞもぞと開け、うやうやしく中に名刺をしまい込んだ。


「どうして、私の名がよい名だと思われたんです?」

 カーネルシアがカバンを閉じ、丁寧に抱えなおすのを見ながら、ルク・ミィアが不思議そうに聞いた。再び歩き出したカーネルシアに歩調を合わせるように、ルク・ミィアも歩き出す。


「僕にとって、いい意味を持つ音だからな」

 カーネルシアは、ついてくるルク・ミィアを特に気にしていない様子で、たまに来た道を振り返りながら歩を進めている。


 今度はルク・ミィアが、数回まばたきしながらカーネルシアを眺めた。青紫色の髪と瞳は、まるでそれ自体が発光しているかのように鮮やかに目に残った。


「そう……ですか。ありがとうございます。ところでですね、弊社へいしゃの名はお聞きになった事がおありですか?」

 ルク・ミィアは本題に入るかのように、背の低いカーネルシアの耳元に顔を近づけた。

「ん゛ん゛」

 首を横に振りながら、カーネルシアがうなるように声を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ