表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木漏れ日と君のカーネル  作者: 墨鎧可倉
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/29

第1章・7節『消えたもの』

「そこはクースフローの急所だ。安易に触るな」


 異様なまでのくすぐったさに、カーネルシアの手の下で思わずしっぽがねた。人になでられた記憶があったか考えながら、カズラは妙にざわつく感情を押し隠した。それと同時に、カーネルシアがカズラのしっぽに、どうやって触れたのか疑問がわき出た。


 はっとして、カーネルシアの縛られているはずの手を見下ろす。それに気づいたのか、カーネルシアがカズラの視線を追って、石の床に目を向けた。

「僕をここに置いてくれるのなら、僕を縛る必要はないだろう?」


 縄はいつの間にか外され、カーネルシアの尻の後ろに落ちていた。ロクアシに揺られている間に、ゆるんでいたのだろうか。

 カズラは頭に響くカーネルシアの言葉で、いつものカズラなら決して口にしない誘いが、急に現実味を帯びたことに怖気づきそうになった。


 同じ弱い立場の人間を、見過ごせなかったと言えば聞こえは良い。しかし、実際には単に人として必要とされたかった。今カーネルシアを救えるのは、カズラだけなのだ。いや、あるいは、そう願ったのかもしれない。


 家族には目(ざわ)りだと言われ続け、村人からは縁起が悪いと避けられてきた。そんなカズラに、カーネルシアは気味悪がる素振りも見せなかった。カズラにとって、不愉快な感情をいだかずにすんだ相手は、カーネルシアが初めてだったのだ。


 カズラは村長と治安維持部隊の隊員に事情を話すため、カーネルシアを連れて小屋の外へと出た。

 雨脚は強くなっており、本格的に夜の村に降り注ぎ始めていた。兄のクルーセが合羽かっぱを取りに行っていたのか、丁度家から出てくるのが見えた。


 瞬間、カズラの耳に、するど警笛けいてきの音が突き刺さった。

「!?」


 闇の中で警笛が再び鳴り響き、カズラはその方角へ頭を向けた。西にあるロクアシの厩舎きゅうしゃのひとつから、明るい赤黄色の光が上がっていた。村の家屋から寝間着姿の人々が飛び出し、駐在所からも隊員が慌てた様子で外に出てきた。


「火事だ!!」

 厩舎の方で声があがり、続いてロクアシ達の甲高い悲鳴が聞こえ始めた。カズラは火の手を見て背筋に冷たいものを感じ、思わずカーネルシアの手を握りしめた。


 人々が四方八方に走りながら、バケツを持って井戸に向かう。こんな天気で、火の気のない厩舎が自然発火などするはずがない。

 森のはずれにいたドゥルフが、今度は出荷箱を狙いに村まで来て、放火したとでも言うのだろうか。


「箱の下だ」

 愕然がくぜんとしているカズラを見上げ、カーネルシアがそのそでを引いて言った。カズラはカーネルシアの視線を追って、広場にある出荷箱を肩越しに見た。クルーセが伸びあがって厩舎の方を見ていたが、ほかの村人と共に、一応出荷箱から離れずに立っている。


 嫌な予感に、カズラは出荷箱へと走り寄った。そして、カーネルシアの言うように箱の下を見るため、片膝をついて箱に手をやった。


「おい、勝手に触んなバカ! 火を消しに行け!」

 クルーセの怒号が飛んだが、カズラは黙って箱を持ち上げた。1立方メートルもある出荷箱の材木には、非常に軽い木であるカル木が使われており、チァーラの実を満杯に入れても、片手で楽に動かすことができる重さだった。


 普段から運び慣れていた木箱だったが、いつにも増して軽く感じる。

(まるでカラの……)


 箱を横にずらすと、その下の地面に黒々とした穴が開いていた。カズラに駆け寄ってきたクルーセが、あんぐり口を開けて穴を見た。もうひとりの村人も、クルーセの様子を見て駆け寄って来た。


「チァーラの実が……抜かれている」

 カズラは出荷箱をひっくり返すように傾けさせ、箱の底にも穴が開いているのを見て絶句した。箱の中から、残されたチァーラの実が数粒外に転がり落ちた。


 火事が起きた西の厩舎とは逆の方角から、またしても夕焼け色の光が上がった。集落の中は混乱に満ち、人々が水を入れた器を持って雨の中を右往左往していた。

 地面の穴から空気が流れ、カズラの濡れた顔に当たった。それに乗り、何かの臭いが鼻に届いた。


 カズラは穴に顔を突っ込み、中の様子を探った。大人の体で入り込むには、幾分小さい穴だった。人間より視力の良いクースフローの目をもってしても、暗すぎて奥がどうなっているのか見えなかった。

 ただ、何者かが移動しているような音が、穴の奥の方から聞こえてきていた。


「盗んだ奴がまだ穴の中にいる!」

 カズラはそう叫ぶと、穴の続いている方角を見定め、消火に走る人々を置いて、単身村の外へと走り出した。


「おい、カズラ!! あのバカ」

 クルーセはカズラを追いかけようとしたが、直ぐに自身の役割を思い出し、他の出荷箱の中を確かめ始めた。


 村の中から、カーネルシアの姿がいなくなっていた事に、誰ひとりとして気が付く者はいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ