第6章・43節『手芸店』
クルーセの顔はカズラとよく似ていたが、虹彩は水色で少し目尻が垂れていた。髪は淡い青色をしており、全体的にふわふわしていた。ルク・ミィアに比べてしっぽの毛は短かったが、カズラよりは毛量が多かった。顔を見ない限り、兄弟だとは思いにくい容姿の差があった。
「当たり前だ! 俺は巻き込まれた被害者だ!」
カズラは鼻息を荒くしながら、クルーセに強く反発した。庁舎のロビーにいた人々が、息をひそめて異物のようにカズラをちらちらと盗み見ている。
カーネルシアはカズラの袖を引っ張りながら、何も言わずに庁舎の外へ出ようとした。
「まだ話の途中だろうが!」
クルーセが逃がすまいとして、玄関先でカズラの襟首をつかんだ。
「直ぐ村に帰るぞ! お前が帰らねぇと、俺が兄貴たちにボコられんだよ!」
傍若無人な兄達を恐れているのは、クルーセも同じだった。しかし、クルーセもまた、カズラにとっては自分勝手な兄のひとりなのだ。
「知るか! 俺はカーネルシアとグレィマに行く!」
兄達の支配から解放され、自由を手に入れられると言う喜びが、カズラの声に満ちあふれていた。
「グレィマ?」
思いもよらなかった答えに、クルーセがたじろいで目を宙に泳がせた。
その隙に、カーネルシアはまたカズラの手を引っ張り、庁舎から逃げるように出て行った。ルク・ミィアとラグもそれに続き、クルーセだけが呆けた顔で取り残された。
「あ、こら!」
クルーセが再び声をかけようとした時には、すでに全員が庁舎前の通りから姿を消していた。
「ざけんな!!」
青ざめたクルーセはしっぽを震わせると、カズラ達を血眼になって追いかけ始めた。
「いいんですか? あの方を放っておいて」
脇道を歩きながら、ルク・ミィアが前を歩くカズラにたずねた。
「カズラさんのご兄弟ですよね? 顔が似ていらっしゃいましたが」
脇道には表通りと異なり、歩く者の数はまばらだ。街灯も最低限の本数しか設置されておらず、隠れられる街路樹もない。
「だったら何だ」
苛ついたカズラが、しっぽを感情に任せて乱暴に振った。ルク・ミィアとしては、クルーセに是非ともカズラを引き取ってもらいたいのだろう。
カーネルシアが、躊躇せずに見知らぬ店の角を曲がった。クルーセをまくため、適当に歩いているのだろうか。それにしては、ラグのように後ろの様子を気にする風でもない。
「カズラは僕のにゃんにゃんなんだ」
誰に言うでもなく、カーネルシアが小さくつぶやいた。その言葉を耳にとらえ、カズラは後ろをついて来るルク・ミィアの顔を、今すぐ確かめてやりたい衝動にかられた。
「カーネルシアにも、ご兄弟はいらっしゃるんですか?」
ルク・ミィアが話題を変えようとしているのか、さりげなく質問した。
「ん゛ん゛」
少し間を置いてカーネルシアが答え、1軒の小さな店の前で立ち止まった。表に掛けられていた木の看板には、コニー手芸店と書かれてあった。
カーネルシアは店の入り口前でカズラの手をようやく離すと、買い物をしてくると言って中に入っていった。
「手芸店?」
全員が不思議そうに看板を見上げ、閉まりかけた扉を押して、薄暗い中をのぞき込んだ。
店内は雑貨店より狭いようだ。籠に入れられた毛糸や、木でできたボタンなどが小さな箱に入れられ、棚の上に所狭しと並べられている。カーネルシアは目当ての物を取ると、奥にいる店員のもとにそそくさと持って行った。
店の中があまりに狭いため、3人とも外でカーネルシアを待った。
「キミワタと布を買っているみたいですね」
ルク・ミィアがカズラの後ろで伸び上がり、扉の間から会計中のカーネルシアを見て言った。
やがて店の外に、満足そうな顔で紙袋を抱えたカーネルシアが出てきた。
「何に使うんだ?」
カバンの中に押し込まれる袋を見ながら、カズラの耳が興味津々に向きを変える。
「ずけずけと聞く方はモテませんよ?」
ルク・ミィアがカズラに冷めた声で嫌味を言う。その声を払うように、カズラの耳としっぽがぶんぶんと動く。無言で自身の感情を表現できる手段がある事に、ラグは少しばかり羨ましさを感じた。
「にょんを作るんだ」
カズラにそう答えたカーネルシアは、自分のカバンをなでてから歩き出した。
「何ですか? 『にょん』って」
初めて聞く言葉に、ルク・ミィア達は目をしばたかせた。




