表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木漏れ日と君のカーネル  作者: 墨鎧可倉
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/38

第5章・37節『ラグの話したいこと』

「フルイ・ラグさんは必要な物を購入されたんでしょう? どうしてお店の中についてくるんですか」

 冷たい声で呼ばれたフルネームに、悪意のようなものを感じ、ラグは眉を寄せて隣のルク・ミィアを見た。


「君もカズラのように排他(はいた)的なのか?」

 ミチアキモラは比較的穏便(おんびん)な気性だったが、鈍感(どんかん)という訳ではない。

「いえ、(せま)い店内ですから、他の方にご迷惑がかかると思っただけです」

 確かに、3人以外にも品を物色している客が数人いる。ラグは渋々店から外に出ると、壁に背を預け、新しく入手した冊子を鞄から取り出した。


【チァーラの根かじり、カーネル】

 そう書き留めながら、チァーラの硬質化した表皮の手触りを思い出す。


 サヘロディがチァーラの木を作り出した事自体、否定する者は多かった。キーイーらィの呪い以降、サヘロディの痕跡(こんせき)は消される一方だ。キーイーらィの隠れ家が、かつての首都セイキョウの西にあるアメホシ島にあった事すら、史実から消えつつある。


 サヘー島という特殊な環境では、学び()で島の歴史と共に、サヘロディの存在を教える事が当たり前になっていたが、グレィマやセルデンサローでは違うだろう。

 しかし、チァーラの木の特異性を見れば、どう考えても自然の産物であるはずがなかった。


 サヘロディの恵みを受けているにも関わらず、サヘロディを否定し、ないがしろに扱う事が、ラグには許せなかった。その最たるものである、チァーラの実の管理で生計を立てているカズラでさえ、サヘロディを語りたがらない。


 カーネルシアが住んでいた地域には、クスノキ村がある。ラグにとって、同じ考えの者たちが住んでいる場所だ。

 カズラがもしそこに生まれていたのなら、サヘロディに対する意識も変わったのではないか、とラグは思った。


 そしてカーネルシア。


 個人の過去に首を突っ込む、不躾(ぶしつけ)な者にはなりたくなかったが、秘書がメロウティアに報告した言葉が耳に残っていた。

 ミチアキモラはドゥルフやクースフローよりも聴覚が優れており、カズラに聞こえなかった言葉が聞こえていたのだ。


 ラグは紙巻き鉛筆の後ろで頭をかきながら、それをカズラとルク・ミィアに話すかどうか悩んだ。


◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――◆


 チァーラの木に夢中のミチアキモラは、縄張り意識が強いというクースフローの雄の性質を知らないらしい。ようやく邪魔者を追い出せたという小さな勝利が、ルク・ミィアの黄緑色の毛長しっぽをぷるぷると震わせた。


「カーネルシア、おやつにお菓子はどうですか?」

 甘い声を出したルク・ミィアが、ニューニュー液とスズモロの実の粉から作られた焼き菓子を指さす。カーネルシアはその誘惑を気にも留めずに首を振った後、もう見るものが無くなったのか、店の外へと出て行った。

「……なかなか手ごわいですねぇ」

 焼き菓子を店員に頼み、数切れ包んでもらうと、ルク・ミィアは気を取り直して店を後にした。


 カーネルシアは無言のまま、港へすたすたと足を進めていた。その後を追いながら、ラグがルク・ミィアに並んで小声をかけた。

「後で少し話したいことがある。構わないか?」


 薄紫色のルク・ミィアの涼しげな瞳が、ラグを横目でちらりと見下ろす。

「構いませんよ? どんなハリヌ器をご所望(しょもう)です? 小型の物から軽量特化、大型タンク、チャイルドロック付きなど色々ありますよ。あ、弊社(へいしゃ)ではセルデンサローのトリイ・ハリヌ社のように、演出効果で誤魔化しているだけの似非(えせ)ハリヌ器は扱っておりませんので、それだけはお(ふく)みおきくださいね」

 石畳の通路を歩きながら、ルク・ミィアが聞いてもいない事をべらべらと説明する。


「いや、ハリヌ器を買いたい訳じゃなくて……」

 ラグはしどろもどろで、適切な表現が無いか考えあぐねた。話題がデリケートなものだけに、穏便(おんびん)に済ませたかったのだ。


「一般の方には少々値が張りますし、チァーラの実自体、手に入れられる方は限られますからね。躊躇(ちゅうちょ)される気持ちも分かりますよ。そういった方には、融資(ゆうし)が可能な金融機関をご紹介することも出来ます。チァーラの実を扱うための、特製の手袋もお付けして」

「話はカーネルシアのことだ」

 ルク・ミィアの暴走を止めるように、ラグが意を決して切り出した。


 ルク・ミィアが前を行くカーネルシアとの距離を確認しつつ、不審そうにラグを見て立ち止まる。

 途端に誰に呼び止められた訳でもなく、カーネルシアが後ろを振り返った。そして、止まったままのラグとルク・ミィアを、その鮮やかな青紫色の目でじっと見つめた。


 ルク・ミィアはにこやかに手を振りながら、カーネルシアに走り寄った。

「もしかして、カズラさんをお探しですか?」

 カーネルシアは黙ったまま、もう一度ラグの方を見た後、港の隅に係留されていた臨時用の船へと視線を送った。時折海から吹く風が、独特の匂いを運んできている。


 カーネルシアにつられ、ルク・ミィアも船へと顔を向けた。グレィマとの定期輸送船が1隻航行不能となったため、代わりにそれを出そうとしているのか、人が多数集まっている。

 その中に、紫色の髪と消し炭色の肌のクースフローの姿もあった。


「カズラ、本気でこれから船賃を稼ぐつもりなんだな」

 ラグが何事もなかったように、平静を装いカーネルシアのそばにたどり着く。


 仕事をもらおうとしているのか、船の近くで作業をしている大柄のドゥルフに、カズラが身分証明書を見せて何か話し込んでいた。

「カズラは、いいにゃんにゃんだからな」

 カーネルシアが少し自慢そうに言う。しかし、ドゥルフの作業員はカズラを手で追い払っている様に見える。

「上手くいきますかねぇ?」

 冷めた表情で、ルク・ミィアがそれを眺めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ