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木漏れ日と君のカーネル  作者: 墨鎧可倉
第4章

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第4章・31節『カシワ』

ゴンゾー街は、表向きはまだ静けさに包まれていた。しかし、セルデンサロー行き定期輸送船も襲撃された事は、すでにサヘー島の治安維持部隊にも知らせが届いていた。


そんな所にコワト村で行方不明となり、窃盗事件の重要参考人とされた紫色の髪と消し炭色の肌のクースフローが現れたのだ。連絡を受け、すぐさま数人の隊員がポルポ便の出入り口へと駆けつけた。


ルク・ミィア以外の3人は、コワト村の窃盗事件とゴンゾー街からの逃走劇に関して任意同行を求められた。

「私、下着を変えて待っていますね、カーネルシア」

そのルク・ミィアの言葉が、隊員の顔を怪訝(けげん)なものに変えた。


3人は庁舎の1階にある治安維持部隊の本部へと、大人しく向かった。1人ずつ別の取調室に案内され、カズラとラグは自身に起きたことを出来るだけ端的に話した。

サヘロディと呼ばれたミチアキモラの事もだ。


「それで、不審者に(おとり)にされたと思い、怖くなって同じ地下通路で逃げた、と……」

クースフローの取調官が、カズラの供述を不審そうに繰り返した。もう1人のドゥルフが、隅の机でせわしなく供述(きょうじゅつ)調書を取っている。


カズラは、カーネルシアの手で穴に落とされた事を言えないでいた。これ以上カーネルシアを不利な立場にしたくなかった。耳としっぽの神経を張り詰め、不用意な動作をしないよう注意を払った。


コワト村での供述に関しても、チァーラの森で実を丸呑みしていた事も含め、カーネルシアの関与を出来るだけ省いた。それが無駄であるとは分かっていたが、カーネルシアを裏切っているようで、言うことができなかった。


取調官はカズラの言葉を全て聞き終えると、取り調べはこれで終りだと淡々と告げた。

供述調書を確認してサインをしたは良かったが、身構えていた事があっけなく終わり、カズラは逆に戸惑いを感じた。取調室を出ると、カズラと同じ表情をしたラグが、丁度外に出てきた所だった。


2人は目を合わせると同時に、同じ感情から眉をひそめた。


壁にかかった時計は、8時を過ぎたところだった。カズラはカーネルシアの姿を探したが、本部や庁舎のロビーにその姿はなかった。口を閉ざしたまま、2人は足早で庁舎を出た。

「カーネルシアは、まだ取調室なのかな」

ラグが不安を隠しきれずに聞いてくる。


カーネルシアの匂いは、本部より庁舎ロビーの方がわずかに強く残っていた。と言うことは、すでに本部から外に移動しているという事だ。

カズラは、クースフローより嗅覚が(にぶ)いミチアキモラのラグにそれを伝えず、去ろうとしないラグを嫌そうに横目で見た。

「チァーラの研究に帰ったらどうだ?」


ラグは不意の催促(さいそく)にぎくりとし、顔を(そむ)けるようにうつむかせた。鞄を強く抱きしめ、カズラが納得しそうな説明を探す。


チァーラの木は逃げない。

これまで遊びもせず、贅沢(ぜいたく)な生活もして来なかったため、貯蓄には余裕がある。


ミチアキモラの性質を持つ身としては、研究時の孤独感が痛く辛かった。不安な時や、心細い時に何かを握りしめる癖も、ミチアキモラにはよくあるものだ。


カズラの存在はどうでも良かったが、カーネルシアの(ゆる)い感じが、心地よくなり始めていた。気負わずに自然体でいられる、長年の友がそばにいる感覚と似ていた。


人といる時間が長くなればなるほど、寂しい森に帰ることが困難になっていた。カズラは本当にどうでも良かったが、どうしてもと言うのなら、居てもいいと思えるほどには。


ラグは、どう言葉を積み重ねればカズラに追い払われずに済むか、必死に頭を働かせていた。


なかなか立ち去ろうとしないラグを、威圧するようにカズラがにらむ。その背後から、聞き慣れない声が上がった。

「あなたがカズラ・シーファーさんですか?」


振り返ると、高価そうな焦げ茶色のスーツを着た、30代くらいの男が立っていた。ルク・ミィアも顔負けの、爽やかで整った人相だ。落ち着いた自信と余裕のある雰囲気が、逆に(すき)の無さを物語っている。


男を追いかけるように、地味な紺のスーツ姿の女が歩いてきた。刺さるような目力から、芯が強そうに見える。

隣には、くすんだ夕焼け色の髪のクースフローが付き従っていた。珍しい色付き眼鏡をかけている所を見るに、かなりの高給取りなのだろう。


女は男の隣に並ぶと、カズラを見てやわらかな口調で話しかけてきた。

「保護委員会委員長のメロウティア・タカイドです。知っている事はすべて取調官に話したとは思いますが、こちらでも話を聞かせてもらえませんか? 彼は国際捜査機関の特別捜査官、カシワさんです」


サヘー島のトップに君臨している保護委員会の委員長に、国際捜査機関の特別捜査官と聞き、驚愕(きょうがく)したカズラの耳が、糸で引かれたように後ろを向いた。カシワはラグとカズラに軽く会釈(えしゃく)をした後、庁舎前にあった食堂へ2人を案内した。


先にカーネルシアを探したかったカズラだったが、特別捜査官の前にはカーネルシアは居ない方がいいかもしれないと考え直した。


夜の間、カズラの腰に抱き着いて寝ていたのだ。さらに、カズラと共にグレィマに行くと言っていたのだから、無言でいなくなったりはしないはずだ。

そう思いながらも、カズラのしっぽは落ち着きなく、右と左を行ったり来たりしていた。


朝食を食べ終えた船員や乗客たちが、支払いをすませて帰っていく時間帯で、食堂の席には余裕ができ始めていた。カシワはカズラ達を連れ、店の隅にあるテーブルへと向かった。

数分ですむ話ではない事が、ただで分かる。


ラグを奥に座らせ、通路側に座ったカズラの対面にカシワが陣取った。カシワがメニューを見ることなく店員に煮魚定食を頼んでいる間中、椅子の横からカズラのしっぽが見え隠れしていた。

「何か心配事でも?」

それを目にしたカシワは、逃すことなくカズラに質問した。カズラは自分の失態に心で毒を吐きながらも、何食わぬ顔で首を横に振り、しっぽを止めた。


カシワの隣に座ったメロウティアが、次いでニューニュー蔦をしぼった樹液と、スズモロのパンを頼んだ。それを聞いていたラグが、急に空腹を感じてカシワと同じものを頼む。

ミチアキモラは大食漢(たいしょくかん)だと言うが、こんな時でも腹が減るとは。期待を込めて厨房を見つめているラグに、カズラが呆れた目を向けた。

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