表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木漏れ日と君のカーネル  作者: 墨鎧可倉
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/30

第3章・24節『笑う客』

「あれ、俺……」

 1時間ほど眠っていたラグは、まだ熱っぽい額に手をやりながら目を覚ました。続いて、見知らぬ黄緑色の髪をしたクースフローが室内にいる事に気づく。ルク・ミィアはラグに自己紹介をすませると、記念にどうぞと名刺を差し出した。


「ポルポから1室借りた。カーネルシアに礼を言うんだな」

 ぼそりとこぼしたカズラが、体拭きを持って部屋の外に向かった。

「どうせまだ熱があるんだろ。俺とカーネルシアは風呂に入ってくる」


 カーネルシアは看病に使っていた体拭きと、カズラを交互に見やった。口をぱくぱくと開けて、何かを言いたそうにしている。


 ルク・ミィアが扉の近くから長鞄を引き寄せながら、カズラに低い声で(たず)ねた。

「失礼ですけど、カーネルシアとは一体どういうご関係で?」

「お前に関係あるのか?」

 ルク・ミィアの問いを、カズラが不愉快そうに速攻で打ち返す。


 ラグが枕元に置いてあった鞄を抱え、心配そうな面持ちでカズラとルク・ミィアのやり取りを見ている。

「カズラとは、今日コワト村の近くの森で出会った。カズラは僕を助けてくれたんだ」

 カーネルシアがどことなく嬉しそうな声で言いながら、顔に笑顔を貼り付ける。不自然さはまだ残っていたが、それはそれで様になりつつあった。


 ルク・ミィアが呆れたようにまぶたを下げ、ガラスの様に光る薄紫色の虹彩を(しぼ)り、瞳孔を細めた。

「そうでしたか。いやに馴れ馴れしくされていたので、長年のお友達だとばかり……。危うく勘違いするところでした」


 満載(まんさい)の嫌味を受けて、カズラの心が更に強固な壁を作る。

「営業のくせに、やけに攻撃的だな」


 ルク・ミィアは涼しげな顔でカズラの皮肉を受け流すと、首を傾げてほほ笑んだ。

「私、可能性を感じない(かた)に無駄な営業はしない性質(たち)なんです」

 しかし最後までその挑発を聞かないまま、カズラはカーネルシアの腕を引き、慌ただしく部屋を後にした。

「は!? 私も入ります! お風呂!!」

 即行2人を追いかけ、ルク・ミィアが部屋から走って出ていく。


 完全に放置されたラグが、狭い部屋にぽつんと取り残される。やがて再び視界が歪み出し、倒れるようにラグの体が寝床に転がった。頭の中がぐるぐると回り、意識がどこかに遠のいていく。

 起きた時には、皆居なくなっているのではと軽い恐怖におののきながら、ラグはまた深い眠りに落ちていった。


◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――◆


「どうしてお前が入ってくる!」

 宿と同じ粗野な岩壁を持つ脱衣所で、服を脱ごうとしていたカズラが声を荒げた。ルク・ミィアが電光石火の速さでポルポから体拭きを借り、薄いベージュのコートを脱ぎながら脱衣所に入ってきたのだ。


「お背中お流ししますよ、カーネルシア」

 カズラの存在そのものを無視しながら、ルク・ミィアがカズラとカーネルシアの間に割り込む。カーネルシアのどこに金があると()み、しつこくまとわり付いて来るのか、カズラには理解できなかった。


 不安定な長椅子の上に、タケウツギで作られた網籠(あみかご)がいくつか並べられている。どの籠にも衣類がないところを見るに、風呂場には誰も入っていないようだ。


「僕はまだ洗う必要はないんだ」

 カーネルシアは誰に言うでもなくそう言うと、くるりと背を向け、脱衣所から出て行った。

「は? 待ってください、カーネルシア!」

 ルク・ミィアが再びコートを着直し、カーネルシアの後をばたばたと追いかける。


 カズラは騒がしさに一瞬(ほう)けて出遅れたが、尻に火がついたように急いで2人の後に続いた。


 カーネルシアはラグの寝ている部屋には戻らず、そのまま階下へと走っていった。カウンターで客の相手をしていたポルポが、開いているのかよく分からない目をカーネルシアに向ける。

「まだ風呂に入ってないのね? くちゃいのね」


 カーネルシアを追いかけて来たルク・ミィアとカズラが、階段下で立ち止まったカーネルシアにぶつかりそうになり、両壁際へ体を退避(たいひ)させた。

「僕、くちゃいのか?」

 汚れた瑠璃色のポンチョコートに鼻を近づけ、カーネルシアが匂いを嗅ぎながらつぶやいた。


 カーネルシアに顔を近づけたルク・ミィアが、鼻をならして匂いを確かめる。

「全然臭くないですよ? それどころか、とてもいい匂いがしますが」

 ()びているルク・ミィアのコートの襟首(えりくび)を後ろから引っ張り、カズラがカーネルシアからルク・ミィアを強引に引きはがした。

「カーネルシアに近寄るな」


 それをカウンターで眺めていた人間の男が、面白そうに笑い声をあげた。

「あいつら、あんな小汚いガキ追っかけ回してやがる」

 ピンク色の長めの髪を振り乱しながら、カウンターのテーブルを叩いて笑い転げている。男の前には、フウセン草の実を発酵(はっこう)させて作られた、黄色い果実酒が入った木製のコップと、ケラ茸の網焼きがあった。


 軸がピンクで、傘の部分が白いケラ茸には、程よく焼け目がついており、汁が表面にあふれてきている。焼いて食べると非常に香ばしく美味で、ケラケラと笑い転げるほど陽気になるのが特徴のキノコだった。


「酔っ払いは黙れ」

 カズラが(すご)みを利かせるものの、相手は涙を浮かべ、気持ちよく笑い続けている。その隙に、ルク・ミィアが階上へとカーネルシアを連れて戻った。


 またも2人を追いかける側になったカズラが、紫色のしっぽを逆立て始める。


「失礼な方でしたね。カーネルシアは男の子ではありませんよねぇ」

 借りた部屋の前で足を止めたカーネルシアに、ルク・ミィアが鈴のような声をかけた。カズラが金を積まれても出したくはならない(たぐい)のものだ。


「いい加減カーネルシアにつきまとうな!」

 カズラは滑り込むようにカーネルシアの手を奪うと、部屋の中に入って扉を閉めようとした。

 すかさずルク・ミィアが足を挟み、強引に扉を開けて中に入ってくる。

「カーネルシアとは何の関係もないんでしょう、あなた」


 カズラはここまで図太く、忌々(いまいま)しい相手に会った事がなかった。

「だから何だ。お前こそカーネルシアとは何の関係もないだろうが」

 初めて手に入れた安全地帯を、土足で踏み荒らされているようで、カズラはルク・ミィアに強い拒否感を覚えた。


「は? カーネルシアは私を2度も……いえ、正しくは3度も助けてくれたんです。ねぇ、カーネルシア? この(きずな)と友情を記念して差し上げた瑠璃色のポンチョコートは、お気に召していただけましたか?」


 棒茸の弱い明りが、カーネルシアの穴のような丸い目を、さらに不気味に照らし出す。ルク・ミィアの背中から見え隠れする長毛のしっぽを眺めていたカーネルシアは、その質問に答える代わりに口角をじわじわと持ち上げた。


 それを見ていたカズラが、増幅する怒りを抑えるように唇を引き伸ばした。

「カーネルシア、騙されるな。情に(うった)えて、後で高額のハリヌ器を売りつける算段だ」


 狭い部屋で続く口論の下で、ラグが苦しそうにうなされながら寝返りを打った。

「ラグを休ませてあげよう」

 カーネルシアはラグに気付いてそう言うと、体拭きを肩にかけ、ルク・ミィアとカズラの手を持って部屋の外に連れ出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ