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木漏れ日と君のカーネル  作者: 墨鎧可倉
第3章

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23/30

第3章・23節『サヘロディの神炎』

 巨大な構造体であるクロバシラを利用して、サヘー島では毎日ラジオ放送が行われていた。チァーラの栽培に関わる天気情報や、集荷状況などの情報番組が主な内容だ。


 そんな放送でも、他に娯楽らしきものが存在していない島では人気だった。そこでの臨時放送となると、どれだけの者がその放送を聞いたことだろうか。


「コワト村の窃盗事件に関わっている可能性がある、重要参考人だと聞きましたけど」

「俺は巻き込まれただけだ!」

 カーネルシアが身構えたカズラの手を取り、その緊張をほぐしたいのか、むにむにと()み回す。


 一瞬で張り詰めた空気を和らげるように、ルク・ミィアがくだけた口調に変わった。

「大丈夫ですよ、私は疑っていませんから。もしあなたが犯人の一味なら、こんな場所でのんびりしていないでしょう?」


 その言葉に、逆にカズラの嫌な予感がつのる。

「どうしてだ。灯台(もと)暗しと言うだろ」

「疑われたいんですか、あなた。私があなたなら、その目立つ肌の色で、堂々と行動しないと思ったまでの話です。それに、カーネルシアが悪いことを(たくら)んでいる方だとは思えませんし」


 カズラのちりちりと(ふく)れていくしっぽを見ながら、カーネルシアが唇を波打つように動かした。ルク・ミィアの刺さりそうなほど鋭い目線が、カズラの心を逆なでしていく。


「でも、ゴンゾー街で不審者と共に逃走したのは、不味かったんじゃないですか? 自分から疑ってくださいと言っているようなものですよ」


「重要参考人って、どういう意味だ?」

 カーネルシアがカズラの前に回り込んで、ルク・ミィアをすぐ(きわ)から見上げた。ルク・ミィアが腰を曲げ、カーネルシアに目線を合わせて優しく答える。

「事件の重要な情報を知っている可能性のある人のことですよ」


 ルク・ミィアが再び、カズラに隙のない視線を戻す。疑ってはいないと言いながらも、それが本当に正しい判断なのか迷っている様にも見える。

 カズラがここで敵意をむき出しにすることは、自らの手で首を()めることに他ならない。ルク・ミィアへの嫌悪感を抑えながら、カズラは気乗りしない様子で弁明を始めた。


「……コワト村の騒動から記憶がない。気づいた時にはゴンゾー街の(やぶ)で倒れていた。そこで熱を出して寝ている奴は、その時近くにいた通行人だ」

 寝ているラグを苦い顔で見ながら、カズラが一旦言葉を切った。


「地下に通じる穴からミチアキモラの男が出てきて、治安維持部隊に追われていた仲間と一緒に逃げて行った。男は他の奴らにサヘロディと呼ばれていた」

 カズラはそう言うと、ルク・ミィアの薄紫色の目を強く見()えた。まるで、その真偽を問いかけているように。


「サヘロディ?」

 カズラの説明に、ルク・ミィアが眉をひそめた。

「もしかして……サヘロディの神炎(しんえん)という、奇妙な団体と関係があるんじゃないですか? それ。神の炎と書くらしいですが、サヘロディは神と同義ですから、神の神炎と言うのも変な名前ですよね」


 ランデル・ハリヌ器の営業で、ルク・ミィアはサヘー島はもとより、セルデンサローでも広く営業を行っていた。

 セルデンサロー治安維持部隊、別名セルデンの盾。教王護衛用のハリヌ器を売り込むため、彼らのもとに何度か足を運んでいる内に、その噂を聞いたのだと言う。


「サヘロディの生まれ変わりだと言う男が、信者を集めているそうなんです。その男をゴンゾー街で見たと言うんですか?」


 カーネルシアは事件に興味がないのか、寝苦しそうなラグの額や首元に体拭きを当て、看病し始めた。看病と言うより、体拭きの端でくすぐっているようにも見える。


「同一人物かは知らない。ゴンゾー街にいた男は、俺達を共犯にしたてて治安維持部隊から逃げた。だから俺達も逃げた」

(おとり)……ですか」

 ルク・ミィアのつぶやきが、岩壁で静かに()ね返った。


◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――◆


 ゴンゾー街の東で発見された地下通路に対し、治安維持部隊にいる小柄な者を集めて捜索が行われた。治安維持部隊に15名だけ所属しているクースフローの中で、ゴンゾー街に勤務している者達だ。


 不審者の一部はゴンゾー街で窃盗を働いており、逃走者は目撃証言からミチアキモラが5人、カズラ・シーファーだと思われるクースフロー、そして瑠璃色の外套を着た人間1人だと判明していた。


 通路は地中で数多く分岐しており、不審者たちの匂いも方々(ほうぼう)に分散していた。そのため、現場の判断で装備を整えるまで、捜索は延期となっていた。


 3階の委員長室で、メロウティアは明日の予定を確認しながら、庁舎前の食堂に頼んでいた簡単な弁当を食べていた。ポルポ便で信書が届いたのは、時計の針が19時45分を指した頃だった。

 部屋に入ってきた秘書のマエルーが、深刻な顔でそれをメロウティアに手渡す。


「治安維持部隊の隊長にも届いています。どうやらグレィマへの定期輸送船が襲われたようです」

 マエルーの言葉を聞いたメロウティアは、持っていた箸を落とし立ち上がった。

「まさか……! チァーラの実は!?」

 マエルーが暗い顔で首を横に振る。


 脱力したように、椅子の上へとメロウティアが尻を落とした。

 信書には、グレィマに輸出されるはずだったチァーラの実、95箱が行方不明と書いてあった。

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