第2章・16節『サヘロディ』
治安維持部隊はゴンゾー街で不審者達に続き、穴に逃げたカズラをどう扱うだろうか。カズラが不審者をコワト村に手引きし、チァーラの実を盗む手はずを整えた内通者だと考えると、一連の筋が通る。
正体の知れないカーネルシアを、放火と窃盗があった夜に、村へ連れて行ったのもカズラだ。
果たして、今さら治安維持部隊に身の潔白を訴えたところで、信じてもらえるだろうか。村の中には、カズラがそんな事をするような者ではないと、弁護してくれる者はいないように思えた。
むしろ、他の村人に恨みが募っていたのではないかと、証言する者のほうが確実にいるとさえ思える。
状況は最悪だった。
「カズラ、大丈夫だ。何も心配しなくていい」
またもやカーネルシアが、状況をのみ込めていないように楽観的な事を言う。
「どこが大丈夫だ」
カズラは不貞腐れたようにこぼしたが、カーネルシアに敵意を向ける気にはなれなかった。
村で出荷箱の下に穴が開いていたのをカズラに教えている事や、不審者達の態度。それを考えると、カーネルシアもカズラと同じように、巻き込まれただけの不運な人間なのだろう。しかし、治安維持部隊はそうは思わないはずだ。
身元不明である以上、カズラよりも遥かにカーネルシアが置かれた状況は悪かった。カズラは不安げにカーネルシアを見ながら、この先どうするか判断に迫られている気がした。
「なぁ、君達も何か事情があるんだろ? お互い犯罪者じゃないなら、しばらく一緒に行動しないか?」
その唐突なラグの提案を聞き、カズラの耳がぴくりと動いた。
巻き添えになった者同士ではあるが、これ以上事情が複雑になるのは避けたかった。だが、カズラより先にカーネルシアが答えた。
「ん゛。僕は構わない」
勝手なカーネルシアに、カズラの片眉がつり上げられる。
「俺達は別行動だ!」
カズラは心底不快そうな顔をして、カーネルシアの手を取り、通路をずかずかと進んだ。
しかし、ラグは2人をつけるように後ろを歩いてくる。
「どうしてついてくる! お前は引き返して別の通路を進め!」
噛みつきそうな勢いで、カズラが声をあげた。カーネルシアは目を丸く見開くと、急に手を伸ばしてカズラの頭をなでた。
「カズラ、ラグを怖がらなくていい」
何をどう解釈すればそうなるのか。カーネルシアに頭をなでられている唖然としたカズラを前に、ラグは明らかに笑いをかみ殺している。
「俺もカーネルシア……って呼んでもいいか?」
ラグがカーネルシアに少し恥ずかしそうに聞く。カズラは拳にぎゅっと力をこめると、ラグを視線で射殺すようににらんだ。
通路は次第に横幅が広くなり、やがてカズラとカーネルシア、ラグが並んで歩けるほどにまでなった。カズラとの間にカーネルシアを挟む形で歩いていたラグだったが、やがて2人に向かって重く口を開いた。
「なぁ、さっきの不審者。あれは本当だと思うか?」
意味が分からず、カズラがカーネルシア越しで、吐しゃ物のようにラグを見る。ラグは少し躊躇しながらも、そのまま話を続けた。
「穴のそばにいた男を、サヘロディ様と……呼んでいただろ?」
通路の荒々しい側面が、その名の響きを吸収する。カズラとカーネルシアは、同時にラグへと注意を向けた。
「あの男は本当に」
「そんな訳があるか」
ラグの言葉をさえぎるように、カズラが乱暴に言い放った。肩をすくめたラグは、決まりの悪そうな顔をした後、再び通路を黙々と歩いた。
複数の集落で作られた共有地区には、学び舎と呼ばれる小規模な教育施設が建てられていた。先人からの教えで、子供への教育は何よりも重視されていた。
時間が経つにつれ、教育内容には変化があったものの、最初に教えられる事柄は変わらなかった。
惑星アーサニカー。今から411年前、ここに宇宙から古き時代の人々を連れ、降り立った者がいた。
人々はその者を、サヘロディと呼んだ。




