第6話 最強候補と呼ばれた騎士ですが、昇進したのは“地味な男”のほうでした
「いよいよ、明日は昇進試験だ。どちらが選ばれるか見ものだぜ」
「選ばれるのは、Cだろう。あの魔力制御と魔力の強さは魔法騎士団でもトップ3に入るぞ」
「そうだなあ、むしろ、なぜDみたいなやつが候補の一人に選ばれたのか不思議だよな」
ここは、プラチナ帝国が誇る魔法騎士団第1軍。
最強の武力と名高い部隊で、いま二人の若手騎士の昇進試験が噂になっていた。
選ばれるのは一人だけ。
一人は、熟達した魔力制御と強い魔力をもち、長年前線をつとめてきた実力ある騎士C。
そして、もう一人のDは、地味で魔力も強くない。
属性も火のみで、見た目はどこにでもいる平凡な騎士だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい、あんなうわさ、気にするなよ。お前はまちがいなく実力があるんだからよ」
そう言って慰めてくれるのは魔法騎士団で長年連れ添った親友だ。
俺はD。
今回、昇進試験の対象に選ばれてしまった騎士だ。
魔力制御に自信はあるが、魔力も強くないし、属性も火のみ。
珍しくもなんともない。
俺程度の騎士は、この魔法騎士団第1軍にはざらにいるだろう。
なのに、なぜ俺が選ばれたのか・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「馬鹿な!!ほぼ昇進試験の結果は決まっているだと!?それもDの勝ちで!?」
俺、Cは激昂していた。
実家が侯爵家の俺には、魔法騎士団にも強いコネがある。
そのコネで今回の昇進試験の話を探ってもらったのだ。
もちろん、勝つ自信があった。
なぜあんな実力のないやつを選んだのか、それを知りたくて調べさせた。
すると逆に、この試験はDを昇進させるための試験だという話まで出てきた。
「一体馬鹿な、Dの何がいいのだ?」
目の前の部下は、おろおろしながら口を開く。
「え、とですね。実績・・・・があるんですよ、Dは。Dが参加した部隊は、必ず大きな功績をあげています」
確かに、Dの所属する部隊はかならずと言っていいほど功績をあげる。
運のいいやつだと思っていたが、それがDのおかげだとでもいうのか。
「なら、集団戦に強いのだな。それを封じさえすれば、Dが俺に勝つことはない」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
プラチナ帝国、マリーゴールド公爵家。
護衛騎士が、
「お嬢様、お聞きですか?魔法騎士団第1軍で、ひさしぶりに昇進試験が行われるそうです」
「ええ、聞いているわ、というか、その審査と立ち合いに呼ばれているもの」
公爵家、それも魔法省長官であるマリーゴールド公爵家には魔法に関する様々な案件が回ってくる。
今まではそれらを無視していた。
ところが、先日、私は自分の未熟さを思い知り、いままで興味を持たないことは見向きもしなかった自分を改め、どんなことにも関わろうと決めたのだ。
その第一歩がこの魔法騎士団の昇進試験の審査と立ち合いだ。
とっても面倒。
でも、仕方ない。
私は興味がわかない自分を叱咤しながら、当日を待つ。
試験当日。
CとDが演習場に並ぶ。
そこには、審査と立ち合いとして私パンジー・マリーゴールドもいる。
審査は、個人戦と集団戦の2つをみるという。
まず、最初に個人戦から。
「始め!」
私の号令とともに、2人は打ち合った。
・・・・
結果は、Cの勝ち。
どう見ても、Cのほうが上。
魔力制御も、出力も、個人としての強さも。
でも・・・・
こんな簡単なことだったら、多分私は呼ばれない。
そう、この試験の立ち合いを命じたのはだれあろう、大魔導士イオニーア様だ。
先日、指導をうけた、『興味のあるものしか見ない』、それが私の欠点だと。
ということは、CとDの間で私が見ようとしないものを見ろ。
そう大魔導士イオニーア様が命じていることになる。
なんだろう?
昇進試験の結果は、私にゆだねられている。
その私が結果を見て何も言わないでいた。
補助をする魔法騎士団の一人が、
「あの、パンジー公爵様、次の集団戦の試験へ移りたいのですが、よろしいでしょうか?」
考え事をしていた私はあわてて、
「いいわ、次の試験へ行ってちょうだい」
次の試験、それが私への試験でもあるような気がした。
次の試験は、お互い10人ずつ、集団で魔法を打ち合う。
魔法騎士団は集団戦だ。
一人ずつ魔法を撃ち合う個人戦より、集団で魔法をぶつけ合うほうが実戦的だ。
今回は、Cが魔力の高い騎士ばかりを選んだ。
私が許可したのだ。
そして結果は。
・・・・・・・・
・・・・
Dの勝ち。
Dは、魔力が高いとはいえない騎士たちを選び、集団で魔法を撃った。
対して、Cは魔力の高い騎士をそろえ、魔法を撃った。
C側の魔法は、一発一発の威力こそ凄まじかった。
だが、強すぎる魔力同士がわずかに反発し、軌道も発動のタイミングもずれていく。
本来なら一斉射となるはずの魔法が、微妙に噛み合わない。
一方、D側の魔法は派手さこそない。
しかし、不思議なほど滑らかに重なり合い、一つの大きな奔流となって前へ出た。
魔法は、魔力が高くなるほど、互いに、反発しやすくなる。
そこで、私はようやく気づいた。
D自身が強いわけではない。
だけど、Dがいることで、周囲の魔力が無駄なく噛み合っていくのだ。
Dは、自分の魔力で前面に出すタイプじゃない。
他者の魔力を繋ぎ束ねるタイプの騎士なのだ。
――触媒。
それがDの本当の価値だった。
勝敗は明らかだった。
昇進試験の合格者として、Dの名が告げられる。
Dは、
「俺は、自分が強いとは思っていません」
「でも、仲間が力を出し切れるようにすることなら、ずっと考えてきました」
と言っていた。
仲間たちから拍手を受けている。
私は、Cの元へそっと近づいた。
「C、あなたは強いわ」
「でも、自分ひとりで勝つことしか考えていない」
「魔法騎士団第1軍が欲しいのは、目立つ英雄じゃない」
「部隊全体を勝たせる者よ」
Cは拳を握りしめたまま、うつむいていた。
そして、その教訓は、私自身に向けてでもあった。




